「蝉」 の検索結果: 計 24件
わくらば
意味・由来 「病葉(わくらば)」とは、初夏から夏にかけて、青葉が生い茂る木々の中に混じって、病気や虫食い、あるいは日照りなどによって赤や黄色に変色した葉、またはそうして落ちてしまった葉を指す夏の季語です。「わくらば」という美しい響きは、古語の「わくらばに(たまたま・めったにない)」に通じ、また「葉が病(わづら)ふ」ことから転じたとも言われています。生気にあふれ、まぶしい緑が満ちる季節だからこそ、その中にぽつんと混ざる衰えた一枚の葉が際立ち、独特の儚さや哀愁を感じさせます。 この季語で詠むコツ 病葉を詠む際の最大のポイントは「コントラスト(対比)」です。周囲の瑞々しい青葉や力強い夏の日差しを描くことで、一枚の枯れ葉の孤独感や脆さがより深く浮き彫りになります。また、単に「寂しい」「哀しい」といった心情を直接言葉にするのではなく、水たまりに浮かぶ様子や、足元に音もなく落ちてきた瞬間、指先で拾い上げた感触など、具体的な情景として写し取ることが大切です。生命の輝きの中にある陰影を見つめる視点を意識してみましょう。 相性のいい言葉・取り合わせ ・水や場所を表す言葉:水たまり、苔、石畳、木陰、小道(すべて無季) ・動きや様子を表す言葉:ひるがえる、拾ひ上ぐ、風の一筋、透き通る(すべて無季) ・夏の情景を添える言葉:青葉、万緑、夏木立、蝉の声(すべて夏の季語)
くさかりかご
意味・由来 「草刈籠」とは、初夏から夏にかけて勢いよく生い茂る青草を刈り取り、家畜の飼料や田畑の肥料にするために詰め込んで運ぶ竹や蔓で編んだ背負い籠のことです。青々と草が茂る季節の農作業に欠かせない道具であり、夏の山里や田畑における力強い労働や生活の息吹を象徴する生活の季語です。 この季語で詠むコツ 刈りたての草のむせ返るような匂いや、籠からあふれんばかりの緑、背負ったときのずっしりとした重みなど、五感を意識して具体的に描くことがポイントです。作業中の熱気や流れる汗を描くのも良いですし、作業の合間に籠を木陰に下ろして一休みする静かな情景を取り合わせることで、夏の日差しや労働の充実感を生き生きと表現できます。 相性のいい言葉・取り合わせ ・夏の季語:汗、夏木立、青嵐、炎天、蝉の声 ・無季の言葉:畦道、背負う、重み、青草、刃先、一服、緑、木漏れ日
ごあんご
意味・由来 「後安居(ごあんご)」とは、仏教の僧侶が寺院に籠もって厳しい修行に励む「安居」のうち、通常の時期よりひと月遅れて始められるものを指します。通常の「前安居」が旧暦四月十六日から始まるのに対し、後安居は旧暦五月十六日から八月十五日までの三カ月間行われます。古代インドの雨季に、地上の小虫を踏み殺さないよう外出を避けて修行したことが起源です。諸事情により前安居に遅れた僧が参加するため、盛夏の厳しい暑さの中でひたむきに道を求める、より一層の緊張感と静けさをたたえた夏の季語です。 この季語で詠むコツ 盛夏から晩夏へと移ろう季節のただ中で行われるため、「外の猛烈な暑さ」と「堂内の凛とした静寂」という対比を意識すると奥行きが生まれます。僧が読経する声、端正に整えられた衣や草履の佇まい、あるいは寺の白砂や青葉など、五感に訴えかける具体的な情景を描き出すのがコツです。単に宗教儀式を説明するのではなく、俗世の喧騒から離れた清らかな空気感や、自己と向き合う真摯な心の動きを切り取ることで、初心者の句でも深みのある表現になります。 相性のいい言葉・取り合わせ ・寺院・仏具の描写:白砂、石畳、山門、木魚、磬子(けいす)、座蒲(ざふ) ・所作・佇まい:袈裟、草履、読経、端座、無言 ・夏の自然・感覚:蝉時雨、青葉風、緑陰、静寂、溽暑(じょくしょ)、木漏れ日
ごうはつじ
意味・由来 「合鉢児(ごうはつじ)」は、初夏から盛夏にかけて鳴く小型の蝉である「ニイニイゼミ(蟪蛄)」を指す風雅な古称です。江戸時代の俳諧などで見られる味わい深い季語で、その姿が丸っこく、小さな鉢を伏せて合わせたような形に見えることからこの名がついたとされています。樹皮に擬態して見つけにくく、梅雨のころから「ジー」と低く独特な声で鳴き始め、本格的な夏の訪れを知らせてくれる親しみ深い蝉です。 この季語で詠むコツ 「合鉢児」という古めかしくも愛嬌のある音の響きを活かして詠むのがポイントです。一般的な「蝉」や「にいにい蝉」と詠むよりも、どこか懐古的で静寂を帯びた雰囲気を醸し出すことができます。木肌にぺったりと張り付いている姿の慎ましさや、鬱蒼とした木立ちの陰、古びた庭の静けさなどに焦点を当てると情景が引き立ちます。騒がしい夏の真昼というよりは、木陰の涼しさや湿り気を帯びた空気感、古いお寺の佇まいなどを添えると風情が増します。 相性のいい言葉・取り合わせ ・古寺(ふるでら)、大樹(たいじゅ)、青苔(あおごけ) ・夏木立(なつこだち)、梅雨晴(つゆばれ)、昼深し(ひるふかし) ・土塀(どべい)、幹(みき)、木漏れ日(こもれび)
このくれしげ
意味・由来 「木の暗茂(このくれしげ)」とは、夏の盛りに青葉が生い茂り、昼間であってもその下や奥が鬱蒼として薄暗くなっている様子を表す季語です。「木暗(このくれ)」は木陰の暗がりを指す古くからの和歌の言葉ですが、それに夏の旺盛な植物の勢いを表す「茂」が合わさることで、強い陽光を遮るほどの圧倒的な緑の深さと、濃密な陰影が強調されています。 この季語で詠むコツ 外の眩しい夏空と、木陰に広がる静かな暗がりとの「光と影の対比」を意識することが最も大切なコツです。ただ「暗い」と述べるのではなく、その薄暗さの中に何が見えるか、あるいは何が聞こえるかを具体的に描きましょう。たとえば、暗がりの中に佇む石仏や鳥居、かすかに漏れてくる蝉時雨や風の音などを取り合わせると、涼気や神秘的な静寂が読み手に鮮やかに伝わります。 相性のいい言葉・取り合わせ ・石段、鳥居、古社、木漏れ日(季節を問わない無季の言葉) ・清水、滴、風、木霊(季節を問わない無季の言葉) ・蝉の声、青空、強日、白日(同じ夏を表す言葉)
すきや
意味・由来 「透綾(すきや)」とは、生糸や練り糸を用いて非常に薄く、向こうが透けて見えるように平織りにした絹織物、またはそれで仕立てた盛夏の着物のことです。蝉の羽のように繊細で軽く、風通しがよいのが特徴です。古くから夏の贅沢で上品な衣装として親しまれ、見た目にも涼感をもたらす夏の風物詩として詠まれてきました。透ける生地を通してほのかに見える下着や素肌が、奥ゆかしい涼しさと美しさを漂わせます。 この季語で詠むコツ 透綾の魅力である「透き通るような薄さ」「軽やかさ」「涼やかさ」に焦点を当てることが大切です。風がふわりと通り抜ける様子や、光が透けて生まれる繊細な陰影、衣擦れの微かな音などを五感を使って捉えると、臨場感のある句になります。また、身につけている人の上品な佇まいや、夏の夕暮れ時の静けさといった情景と重ね合わせることで、大人の洗練された風情を描き出すことができます。 相性のいい言葉・取り合わせ 涼風(すずかぜ)、白足袋、日傘、畳、夕暮、木漏れ日、素足、団扇(うちわ)、衣擦れ、光と影
かわせみ
意味・由来 翡翠(かわせみ)は、水辺に生息するカワセミ科の小鳥で、「川蝉」や「魚狗」などの漢字も使われます。背中が鮮やかなコバルトブルー、腹部が鮮やかな橙色をしており、その美しさから「水辺の宝石」とも称され、鉱物のヒスイと同じ漢字が当てられています。一年を通じて水辺で見られる留鳥ですが、繁殖期にあたり、青葉や眩しい日差しの中で水面を低く飛ぶ姿がひときわ鮮烈であることから、俳句では夏の季語とされています。 この季語で詠むコツ 翡翠を詠む際は、その「鮮烈な色彩」と「目にも止まらぬ素早い動き」を捉えることがポイントです。単に「綺麗だ」「美しい」と主観で述べるのではなく、静止している姿から一瞬で水に飛び込む動の瞬間や、水飛沫の白さ、周囲の新緑とのコントラストを描くと情景が立ち上がります。川の杭にじっと佇む鋭い眼差しや、一筋の青い光となって飛び去る余韻など、時間の一瞬を切り取る意識を持つと引き締まった句になります。 相性のいい言葉・取り合わせ ・渓流、早瀬、淵、水飛沫、水鏡、川杭(水辺の情景を表す言葉) ・青葉、若葉、岩清水、夏木立(初夏から盛夏を彩る夏の情景) ・一閃、一筋、鋭き、青き影、閃光(動きや光、色彩を捉える言葉)
せみのから
意味・由来 蝉が幼虫から成虫へと羽化して飛び立ったあとに、木の幹や葉の裏などに残された抜け殻のことです。古典では「空蝉(うつせみ)」とも呼ばれ、現世の儚さや人の命の移ろいを象徴する言葉としても用いられてきました。夏の盛り、激しく鳴き続ける蝉の力強さとは対照的に、抜け殻には独特の静けさと透明感があり、生命が脱皮して新しい世界へ飛び立っていった痕跡としての趣があります。 この季語で詠むコツ 蟬の殻そのものは動きませんが、その殻を残して飛び去った蝉の激しい鳴き声や、夏の眩しい日差しといった「動」の要素と対比させると句に奥行きが生まれます。また、どのような場所にしっかりと爪を立てて残されていたか(庭の植木、板塀、簾など)という具体的な状況を描写したり、光に透ける飴色や脆さといった殻そのものの質感・色彩に焦点を当てたりするのが効果的です。 相性のいい言葉・取り合わせ ・場所や物:松の幹、庭石、裏木戸、古簾、子の掌 ・状態や動作:爪立つ、透き通る、風に揺るる、からからと、見出す ・情景や夏の言葉:強い日差し、木漏れ日、夕立の前、青空
ゆうじき
意味・由来 「夕爾忌(ゆうじき)」とは、昭和期に活躍した詩人・俳人である木下夕爾(きのしたゆうじ)の命日である八月四日を指す、夏の季語(忌日季語)です。 夕爾は広島県福山市に生まれ、家業の薬局を営みながら詩や俳句を紡ぎました。久保田万太郎に師事し、俳誌『春燈』の中心作家として知られます。郷里の自然や日常の暮らしに注ぐ澄んだ眼差し、哀愁と静けさを帯びた独自の抒情詩的な句風は、今も多くの人々に愛されています。真夏の盛りに訪れるこの忌日は、彼の残した美しい詩情を偲ぶ日となっています。 この季語で詠むコツ 夕爾の作品が持つ「透明感」「静けさ」「ほのかな哀感」を念頭に置いて詠むのがおすすめです。また、彼が暮らした瀬戸内の風土や、家業であった薬局にまつわる硝子戸や薬瓶、机などの身近な生活用具を句に取り入れると、夕爾への敬慕が自然と滲み出ます。八月四日は盛夏から晩夏へと向かう時期でもあるため、夏の光の陰影や、夕暮れのふとした風の動きと結びつけると、詩情豊かな一句に仕上がります。 相性のいい言葉・取り合わせ ・夏の季語:夏の雲、緑陰、蝉時雨、風鈴、氷水、晩夏 ・無季の言葉:詩集、硝子窓、夕暮れ、机、薬瓶、路地、故郷
したやみ
意味・由来 「下闇(したやみ)」とは、夏の強い日差しの中、青葉が生い茂った木々の下にできる濃い影や、その薄暗い空間を指す季語です。「木下闇(このしたやみ)」とも呼ばれます。真夏の刺すような日差しと、うっそうとした木陰がつくり出す「闇」との鮮烈な明暗のコントラストが特徴です。単に暗いだけでなく、外の猛暑から逃れたときのひんやりとした涼しさや、深閑とした静けさを感じさせる、夏の風情に満ちた言葉です。 この季語で詠むコツ 「下闇」を詠む際は、光と影の対比、あるいは暑さと涼しさの対比を意識すると情景が鮮やかに立ち上がります。木々の外のまぶしさや熱気を直接描かなくとも、下闇の中にある具体的なもの(石仏、ベンチ、散歩する人、苔など)に焦点を当てることで、木陰の深さやひそやかさを際立たせることができます。また、視覚的な暗さだけでなく、肌で感じる冷気や、響いてくる微かな音を取り入れると、より奥行きのある一句になります。 相性のいい言葉・取り合わせ ・石仏、古寺、苔、石段(木陰にひっそりと佇む無季の情景) ・ベンチ、道、足音、水音(日常的な動作や静けさを引き立てる無季の言葉) ・日盛り、蝉時雨、青葉、噴水(外の夏の気配を伝える夏の言葉)
にわしげり
意味・由来 「庭茂(にわしげり)」は、初夏から盛夏にかけて庭の草木が生い茂る様子を表す夏の季語です。夏の強い日差しと恵みの雨を受け、木々の青葉が重なり合い、庭全体が深い緑で埋め尽くされる情景を指します。生命力にあふれたみずみずしさを感じさせると同時に、茂りすぎた緑が濃い影を作り、どこか薄暗く鬱蒼とした野趣や静けさを漂わせる奥深さがあります。 この季語で詠むコツ 単に「草木がたくさん生えている」と説明するのではなく、光や風、生活空間との対比を描くのがコツです。例えば、茂った葉が遮る強い日差しとそこから生まれる木漏れ日、風が吹き抜けたときの葉擦れの音、あるいは縁側や窓から眺めた室内の暗さとの対比などに着目してみましょう。手入れが行き届かないことへの愛着や、人の暮らしを飲み込むほどの自然の力強さを意識して詠むと、味わい深い一句になります。 相性のいい言葉・取り合わせ ・縁側、濡れ縁、障子(住まいや暮らしの佇まいを伝える無季の言葉) ・木漏れ日、日差し、暗がり(光と影のコントラストを描く言葉) ・夕立、通り雨(夏ならではの天候を表す言葉) ・蝉の声、風(生命感や聴覚に訴えかける夏の言葉)
ねりこがし
意味・由来 「練りこがし」とは、炒った大麦の粉である「麦こがし(はったい粉)」に、砂糖や湯、あるいは水を加えて粘りが出るまでよく練り上げた、昔ながらの素朴なおやつです。麦こがし自体が夏の季語であり、消化がよく手軽に栄養を補給できるため、暑さで食欲が落ちがちな夏の滋養食として江戸時代から庶民に親しまれてきました。香ばしい大麦の香りと、ねっとりとした素朴な甘みが特徴です。 この季語で詠むコツ 練りこがしを詠む際は、その独特の香ばしさや舌触り、スプーンや箸で練り上げる動作など、五感を意識した描写を入れると実感がこもります。また、どこか懐かしい生活の匂いを持つ季語ですので、祖父母と過ごした幼い日の記憶や、静かな夏の昼下がり、縁側でのおやつの時間といった、日常の温かみを感じる情景と合わせると味わい深い句になります。 相性のいい言葉・取り合わせ ・日常の道具や動作:小鉢、深皿、匙、練る、掬う ・生活空間:縁側、夏座敷、茶の間、台所 ・夏の情景:蝉時雨、夏の昼、西日、団扇
はつぜみ
意味・由来 「初蟬(はつぜみ)」とは、その年の夏に初めて耳にする蟬の鳴き声、あるいはその蟬そのものを指す季語です。梅雨の晴れ間や梅雨明け前後の蒸し暑い日、木立の奥から控えめに響いてくる一声に、本格的な夏の到来を実感させられます。単なる蟬の鳴き声ではなく、「今年最初の声に気付いた」という発見の喜びや驚き、そしてこれから始まる厳しい暑さへの覚悟などが込められた、風情豊かな季語です。 この季語で詠むコツ 初蟬は、真夏の蝉時雨のような激しさとは異なり、どこか遠慮がちに、途切れ途切れに聞こえることが多いものです。そのため、「音の小ささ」「静寂との対比」「耳を澄ませる仕草」に着目すると、初蟬らしさが際立ちます。また、どこでその声を聞いたのかという場所(通勤路、庭先、山道など)や、自身の心の動き(ハッとした驚きや、季節の移ろいを感じる心境)を素直に取り合わせるのが成功の秘訣です。 相性のいい言葉・取り合わせ ・一木(いちぼく)、木立(こだち)、梢(こずえ) ・青空(あおぞら)、薄日(うすび)、梅雨晴(つゆばれ) ・耳澄ます(みみすます)、仰ぐ(あおぐ)、朝餉(あさげ) ・坂道(さかみち)、境内(けいだい)、窓辺(まどべ)
あずきあいす
意味・由来 「小豆アイス」は、煮た小豆や小豆餡をミルクなどと合わせて凍らせたアイスキャンディーやアイスクリームのことです。夏の季語である「アイスクリーム」の傍題として扱われます。小豆ならではの素朴で控えめな甘さと、氷の涼感が絶妙に調和した、日本の夏を代表する親しみ深い冷菓です。 この季語で詠むコツ 小豆アイスの大きな特徴は、しっかりとした硬さと、口の中で少しずつ小豆の粒がほぐれていく独特の食感にあります。洋風のきらびやかなアイスとは異なる「素朴さ」や「懐かしさ」を捉えるのがポイントです。買い食いをした路地、縁側でのひと息、冷凍庫から取り出した瞬間の白い霜など、日々の暮らしの具体的な一コマと合わせることで、生活感と清涼感を同時に表現できます。 相性のいい言葉・取り合わせ ・硬さや食感を表す言葉(前歯、かじる、ほぐれる、固し) ・日常の場面(縁側、畳、路地、ひと息、帰り道) ・夏の情景(西日、蝉時雨、夕立、木陰)
へいわさい
意味・由来 平和祭(へいわさい)とは、主に八月六日の広島、八月九日の長崎をはじめ、全国各地で戦没者や被爆者を慰霊し、恒久平和を祈念して行われる式典や催しを指す夏の季語です。悲惨な戦争の記憶を風化させず、二度と過ちを繰り返さないという誓いを新たにする日であり、深い哀悼と未来への強い願いが込められています。 この季語で詠むコツ 平和への願いという壮大な主題を扱うため、観念的・教訓的なスローガンになってしまわないよう注意が必要です。成功のコツは、具体的な情景や音、動作に祈りを託すことです。例えば、鳴り響く鐘の音、一斉に捧げられる黙祷、献花台に注がれる水、夏の厳しい日差しや広がる青空など、五感で捉えられる要素を組み合わせることで、読者の胸に迫る実感を伴った句になります。 相性のいい言葉・取り合わせ ・祈り、黙祷、合掌(厳粛な所作を表す無季の言葉) ・鐘の音、白鳩、献水(式典の光景を具体化する言葉) ・炎天下、青空、蝉時雨(あの日の記憶や夏の気候を想起させる夏の言葉)
むぎゆ
意味・由来 麦湯(むぎゆ)とは、煎った大麦を煎じて作った温かい飲み物のことで、現代でいう「麦茶」の原型です。江戸時代には、夕涼みの人々が集まる広小路などに「麦湯店」という屋台が並び、庶民が憩う夏の風物詩として親しまれました。現代の麦茶は冷蔵庫でよく冷やして飲むのが主流ですが、季語としての「麦湯」は、ほんのりと温かい湯気や、自然に冷ました常温の素朴な味わい、そして炒った大麦の芳ばしい香りを想起させる独特の風情を持っています。 この季語で詠むコツ 冷たい麦茶とは異なり、湯気や温もり、香ばしい匂いといった「五感(嗅覚・触覚・味覚)」を意識して詠むのがポイントです。夏の暑さの中で敢えて温かい麦湯を口にしたときの、体にじんわりと染み渡る安らぎや、どこか懐かしい生活感を描き出すと心に響く句になります。冷房で冷えた体を労わる現代的な視点や、祖父母の家での記憶、一仕事終えたあとの一息といった日常の具体的な場面を切り取ってみましょう。 相性のいい言葉・取り合わせ ・日常・住まいの言葉(無季):縁側、土間、硝子の器、母の手、ひと息、湯気 ・夏の言葉:団扇(うちわ)、簾(すだれ)、昼寝、汗、木陰、蝉の声
けずりこおり・けずりひ
意味・由来 「削氷(けずりひ/けずりこおり)」とは、氷を刃物や削り器で薄く細かく削り、蜜やシロップをかけて食す夏の風物詩です。現代では一般的に「かき氷」や「夏氷」とも呼ばれます。その歴史は極めて古く、平安時代の清少納言による随筆『枕草子』の中にも「削り氷にあまづら入れて新しき金鋺に入れたる」と上品で涼やかな甘味として描かれています。かつては貴族しか口にできなかった贅沢品でしたが、製氷技術が普及した近代以降は庶民の身近な涼味として親しまれるようになりました。 この季語で詠むコツ 削氷を詠む際は、単に「冷たくておいしい」と述べるのではなく、五感を働かせた具体的な描写を意識すると生き生きとした句になります。たとえば、氷をシャリシャリと削る心地よい音(聴覚)、山盛りに盛られた氷にかかる鮮やかな蜜の彩りや器の曇り(視覚)、匙を入れた時の手応えやすっと舌の上で儚く消えていく感覚(触覚)などに注目してみましょう。暑い夏の空気と、冷え冷えとした氷のコントラストを際立たせるのが成功の秘訣です。 相性のいい言葉・取り合わせ ・器や道具:硝子器、木匙、藍の小鉢、暖簾 ・情景や場所:縁日、駄菓子屋、茶房、夕暮れ ・夏の感覚や季語:蝉時雨、夕立、涼風、団扇
みずせったい
意味・由来 「水接待」とは、夏の厳しい暑さの中、街道筋や寺社の門前、巡礼の道などで、行き交う旅人やお遍路さんに冷たい水や麦茶などを無償で振る舞う風習を指します。古くから四国遍路をはじめとする霊場巡りの地で盛んに行われてきた「お接待」の文化に由来し、旅人の労をねぎらうとともに、功徳を積むための慈悲の心から行われます。猛暑に渇いた喉を潤す一杯の水に、人情の温かさが染み渡る、情緒豊かな夏の季語です。 この季語で詠むコツ 喉を潤す身体的な心地よさだけでなく、差し出す側と受ける側の心の交流に焦点を当てると深みが出ます。もてなす側の素朴な佇まいや、旅人の疲労の色、埃っぽい足元といった具体的な様子を描写しましょう。また、柄杓から滴る澄んだ水や、井戸水の冷たさなど、五感に訴える清涼感を対比させることで、夏の暑さと人の情けが鮮やかに際立ちます。 相性のいい言葉・取り合わせ ・巡礼、菅笠、白装束、草鞋(旅の過酷さや信仰を伝える言葉) ・青葉、炎天、蝉時雨、木陰(夏の厳しい暑さや風土を伝える夏の言葉) ・柄杓、手桶、竹筒、石段、峠道(情景を具体化する無季の言葉)
つくつくほうし・つくつくぼうし
意味・由来 つくつく法師(ツクツクボウシ)は、セミ科の小型の蝉で、夏の終わりから初秋(8月下旬から9月頃)にかけて盛んに鳴く秋の季語です。「オーシンツクツク、ツクツクボーシ」と聞こえる独特のリズムを刻む鳴き声が、僧侶の読経や鉦(かね)の音を思わせることから「法師蝉(ほうしぜみ)」とも呼ばれます。厳しい猛暑が一段落し、朝夕に心地よい涼風が立ち始める頃に鳴き声を響かせるため、古くから人々に夏の終わりと本格的な秋の到来を告げる使者として親しまれてきました。 この季語で詠むコツ つくつく法師の鳴き声は、テンポが速くなり最後に哀調を帯びて唐突に鳴き止むという明確な起承転結を持ちます。この鳴き声の抑揚やリズム感そのものを捉えるか、あるいはその声がもたらす「秋の訪れの寂しさ」や「過ぎ去る夏への惜別」を表現するのがポイントです。また、夏の盛りの蝉(油蝉や熊蝉など)の騒がしさと対比させ、夕暮れ時や木陰のひんやりとした静けさと取り合わせると、季節の推移が鮮明に浮かび上がります。 相性のいい言葉・取り合わせ ・光や時間の言葉:夕暮れ、黄昏、日暮れ、朝露、傾く陽、秋気 ・感覚や情景の言葉:梢、木陰、涼風、静けさ、宿、名残、風の音
えつびょう
意味・由来 「暍病(えつびょう)」とは、夏の厳しい暑さに当てられて身体が衰弱したり、高熱や眩暈を起こしたりする病気のことです。現代で言うところの「熱中症」や重い「日射病」「暑気あたり」に相当します。「暍」の字には、激しい暑さで気絶する、倒れるといった意味が含まれており、古くから夏の過酷な気候がもたらす恐ろしい災いとして認識されていました。命を脅かすほどの酷暑の厳しさと、それに晒される人間の肉体の脆さを物語る季語です。 この季語で詠むコツ 単に「暑くて苦しい」と主観を述べるのではなく、周囲の情景や看病の様子、身体の細やかな変化を客観的に捉えることが大切です。例えば、外の容赦ない炎天下の光芒と、寝かされている薄暗い部屋の静けさとの対比を描くと、季語の持つ切実さが引き立ちます。また、看病する家族の手の冷たさや額の汗、枕元の水など、身近な事物を丁寧に写生することで、真に迫る一句となります。 相性のいい言葉・取り合わせ 氷水、団扇、葭戸、寝茣蓙などの夏をしのぐ道具や生活の季語 枕元、濡れ手拭、眩暈、微熱、日射しなどの病状や環境を伝える無季の言葉 蝉時雨、青天井、炎天など、外の過酷な暑さを強調する夏の自然の季語