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季語辞典
安住敦
俳
1907年 - 1988年
安住敦
あずみ あつし
作風・特徴
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生涯・略歴
安住 敦(あずみ あつし、1907年7月1日 - 1988年7月8日)は、俳人、随筆家。前号・安住あつし。
代表句 (20件)
癇癪玉ふめばひらたくなりて爆づ
季語: 癇癪花火 (autumn)
『【現代語訳】癇癪玉を靴で踏みつけると、ぐにゃりと平たくなったかと思う瞬間、パチッと音を立てて弾け散る。【鑑賞】癇癪玉を踏み潰す時の、微細な感触と破裂の瞬間を極めて写実的に捉えた句です。「ふめばひらたくなりて」という中間プロセスの描写があることで、最後の「爆(は)づ」という破裂のエネルギーがより生々しく読者に伝わります。』
何首烏芋掘りあててより日傾く
季語: 何首烏芋 (autumn)
『【現代語訳】地中深くを探り、ようやくお目当ての何首烏芋を掘り当てたその時から、秋の日は急激に傾き、暮れ始めていく。\n【鑑賞】「掘りあててより」という言葉に、粘り強く芋を探し求めていた作者の安堵感と喜びが滲みます。しかし、収穫の余韻に浸る間もなく、秋のつるべ落としの夕暮れが迫り来る様子が、焦燥感とともにしみじみと描かれています。』
菊の主去年の手紙を読みをりぬ
季語: 菊の主 (autumn)
『【現代語訳】見事な菊を育てる主人が、静かな秋の日に、ふと去年の手紙を取り出して読みふけっている。【鑑賞】美しく整えられた菊の持ち主が、ふと見せる静かで私的な瞬間をとらえています。「去年の手紙」という歳月の経過を感じさせるアイテムが、秋の寂静感と、主人の内面にある切なさや思い出を上品に浮かび上がらせています。』
秋場所の灯の下の砂まぶしかり
季語: 九月場所 (autumn)
『【現代語訳】秋場所の土俵を照らす照明の下、撒かれた砂がまぶしく輝いている。【鑑賞】両国国技館の吊り屋根から照らされる強力なライトを浴びて、土俵の砂が白く浮き上がる一瞬を捉えています。緊張感に満ちた土俵の神聖さと、秋の澄んだ空気感が「まぶしかり」という表現に見事に凝縮されています。』
逃水や武蔵野いまも一里づつ
季語: 逃水 (spring)
『【現代語訳】かつて武蔵野の名物とされた逃水が、開発の進んだ今でも、一里歩くごとにその先へと現れては逃げていく。【鑑賞】古来、武蔵野の広大な野原の象徴であった逃水を通して、かつての武蔵野の面影を現代に重ね合わせ、尽きない旅情と郷愁を詠み込んでいます。』
迎春花こころせはしき日なりけり
季語: 迎春花 (spring)
『【現代語訳】迎春花が咲くのを目にすると、いよいよ春が来たのだと、何だか心が気忙しく感じられる一日であることよ。 【鑑賞】新しい季節の到来を告げる花を見つけ、嬉しさとともにどこかそわそわとする人の心理を素直に捉えています。「迎春花」という名前が持つ、新しい生活への予感と気忙しさが心地よく響く一句です。』
初電話して一日の始まれり
季語: 初電話 (newyear)
『【現代語訳】新年の最初の電話を誰かにかけ終えたことで、ようやく私の新しい一日の営みが本格的に始まった。【鑑賞】新年の挨拶や大切な用件を済ませる「初電話」を終えて、心地よい緊張から解放され、日常が動き出す瞬間を詠んでいます。元日の朝の新鮮な空気感と、物事がきびきびと始まっていく気持ちよさが表現されています。』
菊供養人のかたまり動きだす
季語: 菊供養 (autumn)
『【現代語訳】菊供養の境内に集まっていた人々の群れが、ゆっくりと動き始める。【鑑賞】多くの参詣客で賑わう行事の動的な一瞬を捉えた句です。一塊になっていた群衆が、行事の進行に合わせて波のように動き出す様子が、生き生きと描かれています。』
雁陣の乱れやすきを愛すなり
季語: 雁陣 (autumn)
『【現代語訳】空を整然と渡っていく雁の群れ(雁陣)だが、時折風などによって形を崩し、乱れやすくなっている。私はその完璧ではない、自然の生き物らしいありのままの様子を、むしろ愛しく感じるのだ。 【鑑賞】一般的に雁陣は、一糸乱れぬ整然とした隊列美が称賛されがちです。しかし作者はあえて「乱れやすき」に着目し、そこに親しみと深い愛着を寄せました。自然に対する温かく優しい眼差しが感じられる名句です。』
菊花展見下してゆく歩道橋
季語: 菊花展 (autumn)
『【現代語訳】歩道橋の上を渡りながら、下で開催されている菊花展の様子を見下ろしてゆく。 【鑑賞】会場の中に身を置くのではなく、歩道橋の上という日常の視点から俯瞰で菊花展を捉えています。上から眺めることで、整然と並ぶ菊の色とりどりの配置や、行き交う人々の活気が立体的に浮かび上がってきます。』
鬼城忌のゆで卵剥く指の冷え
季語: 鬼城忌 (autumn)
『【現代語訳】鬼城忌の今日、ゆで卵を剥いていると、指先に秋の冷たさが伝わってくることだ。【鑑賞】村上鬼城の名句「ゆで卵むけば白し秋の風」を踏まえた一句です。ゆで卵の白さと指先の冷たさを通して、鬼城の厳しい生き様や作品世界を静かに偲んでいます。』
芸術祭終りて夜の雨となる
季語: 芸術祭 (autumn)
『【現代語訳】芸術祭が幕を閉じて外へ出ると、夜の冷たい雨が降り始めていた。 【鑑賞】芸術祭の華麗な盛り上がりと、それが終わった後の静寂を対比させた一句です。会場を出た瞬間に降り出した夜の秋雨が、心に残る心地よい興奮を冷ましつつ、深い余韻となって心に染み渡る様子を描き出しています。』
逆髪の影ひきつれて蝉丸忌
季語: 逆髪忌 (autumn)
『【現代語訳】蝉丸の忌日に、放浪の姉である逆髪の狂乱の面影をも連れ添うようにして秋風が吹き過ぎてゆく。 【鑑賞】盲目の蝉丸と狂女となった逆髪という、過酷な宿命を背負った姉弟の絆と悲哀を深く捉えた名句です。「影ひきつれて」という表現に、逢坂山で寄り添い、そして別れていった二人の孤独が鮮やかに浮かび上がります。』
甘蔗畑深く入れば風失す
季語: 甘蔗 (autumn)
『【現代語訳】さとうきび畑の奥深くへと分け入ると、吹いていた風がふっと途絶えた。【鑑賞】人の背丈をはるかに越えて密集する甘蔗畑の鬱蒼としたスケール感を捉えています。外では風が吹いていても、畑の深みに入ると一転して静寂と熱気配に包まれるという、現地ならではの身体的実感を鋭く詠んでいます。』
稲刈りて夕日をのこすばかりなり
季語: 稲刈 (autumn)
『【現代語訳】稲刈りがすべて終わり、広々とした田んぼにはただ沈みゆく夕日の光が残されるばかりである。 【鑑賞】一日中続いた稲刈りの喧噪が去り、刈り取られた後の田んぼに夕日が美しく差し込んでいる静寂の情景を詠んだ句です。「夕日をのこすばかりなり」という潔い措辞が、作業後の心地よい疲労感と秋の日の暮れやすさを見事に描き出しています。』
扇鶏頭折られてもなほひらきをり
季語: 扇鶏頭 (autumn)
『【現代語訳】枝を折られてしまった扇鶏頭だが、それでもなお扇をいっぱいに広げて咲き続けている。【鑑賞】風や手折られたことによる傷を負いながらも、扇の形を保ったまま鮮やかに咲く花の生命力と頑なさを描いています。物の哀れと健気な存在感が同居しています。』
馬鈴薯を掘りつくしたる夕日かな
季語: 馬鈴薯 (autumn)
『【現代語訳】畑のじゃがいもをすべて掘り終えたとき、空には美しい夕日が広がっていた。 【鑑賞】一日がかりの農作業をやり遂げた充実感と心地よい疲労感が、沈みゆく夕日の光景とともに見事に描かれています。掘り起こされた畑の土の匂いと夕暮れの静寂が広がる、秋の実りの情景です。』
こころみに妻の座坐りて秋思あり
季語: 秋思 (autumn)
『【現代語訳】試しに亡き妻がいつも座っていた場所に腰を下ろしてみると、切ない秋のもの思いがこみ上げてきた。\n【鑑賞】いつもは座らない妻の定位置に座ってみるという具体的で率直な行動から、失った人への思慕と深い哀惜の念が伝わってきます。』
敗戦忌青嶺動かずあるばかり
季語: 終戦の日 (autumn)
『【現代語訳】敗戦の日が巡ってきた。緑濃い山々はあの日と変わらず、ただじっと動かずにそこにある。【鑑賞】人間の激しい歴史や悲痛な記憶とは無関係に、悠然と聳える夏の青嶺。自然の不動の佇まいが、かえって胸に去来する無常感と深い追悼の思いを浮き彫りにしています。』
震災忌ひとつの天を仰ぐのみ
季語: 震災記念日 (autumn)
『【現代語訳】震災忌を迎えた今日、私はただ一つの同じ空を静かに仰ぎ見るばかりである。 【鑑賞】関東大震災の忌日に、犠牲者への追悼の思いを込めて天を仰いだ句。「仰ぐのみ」という簡潔な表現に、言葉では言い尽くせない深い祈りと無常感が込められています。』
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