? - 1714年

野沢凡兆

のざわぼんちょう

作風・特徴

鋭い観察眼と大胆な表現が特徴の個性的作風。芭蕉門下中でも際立つ独創性を持ち、日常の事物を鋭く切り取る緊張感ある詠みぶりが評価される。

生涯・略歴

野沢 凡兆(のざわ ぼんちょう、? - 正徳4年(1714年))は、江戸時代前期から中期の俳諧師。姓は野沢、越野、宮城、宮部ともいうが定かでない。別号に加生、阿圭。

代表句 (14件)

骨柴の 刈られながらも 木の芽哉
渡りかけて 藻の花のぞく 流れかな
片鳥屋やしづかに暮るる池の波
季語: 片鳥屋 (autumn)
【現代語訳】池のほとりに建てられた片鳥屋のあたりで、秋の日が静かに暮れてゆき、水面にはただ寂しげに波が寄せては返している。 【鑑賞】夕暮れ時の水辺の静寂を描いた一瞬の写生句です。片鳥屋という人工物がありながら、そこには人の気配は消え、ただ自然の営みだけが静かに流れていく秋の物寂しさが、波の動きを通して見事に表現されています。
寒蝉の鳴きやむ時や日の光
季語: 寒蟬 (autumn)
【現代語訳】寒蝉が鳴きやんだその瞬間、あたりに差し込む秋の日の光が、いっそう寂しく、また際立って感じられることだ。【鑑賞】鳴き声が途絶えた瞬間に訪れる張り詰めたような静寂と、そこに優しく、しかしどこか冷ややかに差し込む日の光の対比が実に見事な一句です。
菊の秋ふたたび見ばや老いの友
季語: 菊の秋 (autumn)
【現代語訳】菊の花が美しく咲き誇るこの素晴らしい秋を、ぜひもう一度、年老いた友と一緒に迎えて眺めたいものだ。【鑑賞】菊は長寿の象徴でもあります。深まりゆく秋の中で、しばらく会っていない、あるいは共に年を重ねた大切な友人を思い出し、共に無事でまたこの美しい季節を迎えられたことを喜び合いたいという、温かい友情と無病息災への願いが込められた名句です。
腰布団あてがふ夜半の寒さかな
季語: 腰蒲団 (winter)
【現代語訳】夜中に一段と寒さが厳しくなってきたので、腰に小さな蒲団をあてがう。その動作の中にしみじみとした寒さが感じられることだ。【鑑賞】『猿蓑』に収められた凡兆の代表句。寒さのなかで身を縮め、腰蒲団をあてるという日常の何気ない動作を通して、冬の夜の底冷えする寒さを見事に表現しています。
穴惑ふ蛇の尾ひくや草の霜
季語: 穴惑い (autumn)
【現代語訳】冬眠し遅れてさまよう蛇が、霜の降りた草の上を長い尾を引きずりながら這ってゆく。 【鑑賞】白く降りた霜と、その上を重そうに這う蛇の尾の軌跡が鮮やかなコントラストを描いています。触れるだけで凍えるような晩秋の朝の寒気と、衰えゆく生き物の命の気配が見事に凝縮された名句です。
琴とりて犬飼星にむかひけり
季語: 犬飼星 (autumn)
【現代語訳】琴を手元に引き寄せ、秋の夜空に輝く犬飼星に向かい合って爪弾いたことだ。 【鑑賞】蕉門の俊英・凡兆の句。澄み渡る秋の夜空に浮かぶ犬飼星と、清らかな琴の調べが響き合う優雅で静謐な名句です。
色ながら散る紅葉あり滝の上
季語: 色ながら散る (autumn)
【現代語訳】滝の落ち口のすぐ上で、鮮やかな色彩のままハラハラと散っていく紅葉がある。 【鑑賞】勢いよく流れ落ちる滝の激しい水勢と、色鮮やかに静かに散りこぼれる紅葉の繊細さが鮮やかな対比をなしており、空間の立体感と動静の美が際立っています。
渋糟の乾くひまなく時雨けり
季語: 渋糟 (autumn)
【現代語訳】庭に広げた渋糟がすっかり乾く間もなく、秋の時雨が次々と降ってくることだ。 【鑑賞】乾かそうとする渋糟と、降り止まない秋の時雨の湿り気が見事に対比されています。晩秋の冷たい雨空と、日々の作業に追われる生活の慌ただしさ・やるせなさがリアルに感じられます。
鷹の羽の芒にあたる日影かな
季語: 綅芒 (autumn)
【現代語訳】鷹の羽のような美しい縞模様が入ったススキに、秋のやわらかな日射しがあたっていることだ。 【鑑賞】蕉門の実力者・凡兆による『猿蓑』所収の一句です。「鷹の羽の芒」は綅芒の別称。秋の日差しが葉の斑模様を鮮やかに照らし出す一瞬の静謐な美しさを、無駄のない言葉で素直に捉えています。
玉箒かるがるとして秋の風
季語: 玉箒 (autumn)
【現代語訳】庭の玉箒がさらさらと揺れ、軽やかに秋の風が吹き抜けてゆく。\n【鑑賞】『猿蓑』に収められた凡兆の代表句の一つです。細い枝先まで丸くこんもりと茂った玉箒が、乾いた秋風を受けてふわりと軽快に揺れる質感を「かるがるとして」と見事に捉えています。視覚的な草の動きと肌に感じる爽快な風が響き合い、初秋の訪れの清々しさを余すところなく伝えています。
月待や障子あけてもまだ暮れず
季語: 月待ち (autumn)
【現代語訳】月が出るのを待とうと障子を開けてみたが、まだ外は暮れきってはおらず明るさが残っている。\n【鑑賞】『猿蓑』所収。月待ちの気分が高まって早めに障子を開けたものの、まだ宵の口で空が明るいという、待ち焦がれる人間の心理を素直に写生しています。「まだ暮れず」という日常のさりげない瞬間に漂う、季節への愛おしさが光ります。
引板引や門田の露のこぼるる程
季語: 引板 (autumn)
【現代語訳】家の前の田に張られた引板の縄を力強く引くと、その激しい揺れで稲穂に宿った秋の朝露がこぼれ落ちるほどである。 【鑑賞】『猿蓑』所収。縄をぐっと引く手の力強さと、波打つ稲穂からこぼれる露の瑞々しさが鮮やかに描かれており、秋の朝の澄んだ空気感が伝わります。
野沢凡兆(のざわぼんちょう)の生涯と代表的な名句 | 俳句びと歳時記WEB | 俳句びと