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季語辞典
石田波郷
俳
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石田波郷
いしだはきょう
作風・特徴
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代表句 (20件)
毛桃食うてその種のごと痩せにけり
季語: 毛桃 (autumn)
『【現代語訳】酸っぱく硬い毛桃を齧っていると、自分の身体がまるでその小さく硬い桃の種のように、すっかり痩せ細ってしまったように感じられることだ。 【鑑賞】療養生活を送っていた波郷が、自身の病躯と、小さく渋みのある毛桃の「種」を重ね合わせて詠んだ壮絶な自己凝視の句です。毛桃を食べるという日常の行為から、己の肉体の衰えと精神の引き締まりを、毛桃の種という強烈な視覚的シンボルを用いて生々しく描き出しています。』
月光に歩をなじませて帰り来ぬ
季語: 月光 (autumn)
『【現代語訳】こうこうと降り注ぐ月光のなかに、自分の歩調を静かに合わせるようにして、ゆっくりと家へと帰ってきた。【鑑賞】月光を浴びながら歩くことの心地よさと、病から回復しつつある、あるいは一日の終わりに静かな余韻に浸る作者の穏やかな心境が、歩調という身体的な動作を通して見事に表現されています。』
たかし忌の雨鎌倉の竹にのる
季語: たかし忌 (summer)
『【現代語訳】たかし忌の静かな雨が、鎌倉の竹の葉にそっと乗るようにして降り注いでいることよ。【鑑賞】鎌倉特有の竹林にしとしとと降る雨。その雨が竹の葉に美しく「のる」という繊細な描写が、たかしが持っていた能楽の精神や、凛とした美意識を想起させます。静寂の中で故人を深く惜しむ、情感あふれる一句です。』
鉦叩病める手足の置きどころ
季語: 鉦叩 (autumn)
『【現代語訳】鉦叩の鳴く夜、病床にある私は、自分の病んだ手足をどこに置けば落ち着くのか分からず、もてあましている。【鑑賞】療養生活を送る作者が、夜中にひっそりと鳴く鉦叩の音を聞きながら、肉体の苦痛や不自由さ、そしてやり場のない孤独感に対峙している様子が痛切に伝わってくる一句です。鉦叩の単調な響きが、病人の神経をいっそう鋭敏にさせています。』
銀漢の下に夜汽車を待つとしも
季語: 銀漢 (autumn)
『【現代語訳】見事な天の川が広がる夜空の下で、やって来る夜汽車をただじっと待っている。【鑑賞】満天に広がる大宇宙の「銀漢」と、暗闇の中をひっそりと待つ「夜汽車」という地上の人工物の対比が効いています。澄んだ夜気の冷たさと、旅情や人生の哀感が美しく調和しています。』
金木犀夜雨のなかのありどころ
季語: 金木犀 (autumn)
『【現代語訳】夜の雨が降る暗闇の中で、強い香りを放つ金木犀がどこにあるのかがはっきりと感じられる。\n【鑑賞】夜の雨という視覚が遮られた状況において、濃厚に漂う香気によって金木犀の存在が浮かび上がってくる様子を詠んだ一句です。しっとりとした夜の雨と芳香のコントラストが際立っています。』
原爆忌手足に力入れて起き
季語: 原爆の日 (autumn)
『【現代語訳】原爆忌の朝、自分はまだ生きているという実感を確かめるように、手足にぐっと力を込めて起き上がった。\n【鑑賞】病と闘いながら生きていた波郷が、原爆の日に自身の肉体と命の存在を噛みしめるように詠んだ句です。大げさな言葉を使わず、「手足に力を入れて起きる」という日常の動作を通じて、生きていることの重みと犠牲者への深い追悼を表現しています。』
黄落やわが骨鳴らすこともあり
季語: 黄落 (autumn)
『【現代語訳】黄葉が散りしきる中、ふと自分の骨がポキリと鳴ることがある。【鑑賞】病と闘い続けた波郷ならではの、自身の肉体の衰えへの鋭敏な感覚が捉えられています。黄色く枯れて落ちゆく木の葉と、我が身の「骨」のきしみが響き合い、乾いた寂寥感と生々しい生のリアリティを読者に突きつけます。』
古米食ふ日日や病後の秋深む
季語: 古米 (autumn)
『【現代語訳】古米を食べる平凡な毎日を重ねるうちに、大病を患ったあとの体にも染み入るように秋が深まっていく。 【鑑賞】病気療養中あるいは回復期の生活感を詠んだ句です。華やかな新米ではなく、あっさりとした古米を口にする日々の営みを通して、命の実感と晩秋のしみじみとした冷涼さが切実に伝わってきます。』
熟石榴わが家の夕日見失ふ
季語: 石榴 (autumn)
『【現代語訳】熟して割れた石榴を眺めているうちに、いつの間にか我が家を照らしていた夕日を見失ってしまった。【鑑賞】赤く熟れた石榴の実に心を奪われている間に、秋の日はつるべ落としに沈み、周囲が薄暗がりに包まれた情景です。石榴の生々しい赤と、消えゆく夕日の残照、そして忍び寄る孤独感が鮮やかに重なり合っています。』
鮭場出て夕日を惜しむ人あまた
季語: 鮭場 (autumn)
『【現代語訳】鮭場での仕事を終えて外へ出ると、大勢の人々が沈みゆく夕日の温もりを惜しむように眺めている。 【鑑賞】冷たい水や厳しい川風の中で作業をしていた人々にとって、夕暮れの陽光は貴重な温もりの源です。「惜しむ人あまた」という表現から、過酷な作業を共にした漁師たちの連帯感と、晩秋の短い日暮れへの感慨が温かく描かれています。』
爽やかに生きんとするを嘲るか
季語: 爽やか (autumn)
『【現代語訳】秋の爽やかな風の中で、真っ直ぐ清らかに生きようとする私の姿勢を、誰かが嘲笑うというのだろうか。【鑑賞】長く療養生活を送り、病苦と戦い続けた波郷ならではの気骨あふれる句です。「爽やか」という明るい季語を使いながらも、自らの生き様に対する強い意志と覚悟を鋭く詠み込んでいます。』
塩辛とんぼ眼を病む母の膝に来し
季語: 塩辛蜻蛉 (autumn)
『【現代語訳】目を患っている母の膝の上に、塩辛蜻蛉が一匹ふっと飛んで来てとまった。\n【鑑賞】目を痛めてじっと座っている母の膝に、ふいに塩辛蜻蛉が舞い降りた瞬間を捉えた心温まる一句です。蜻蛉の軽やかな青白さと、母への労わりの情が静かに重なり合い、親子の絆と秋の静謐な情感を伝えています。』
赤い羽根つけてさびしき胸ならむ
季語: 愛の羽根 (autumn)
『【現代語訳】募金の赤い羽根を着けているものの、その胸のうちはどこか孤独で寂しげに見えることだ。【鑑賞】善意の証である愛の羽根を着けながらも、人間が抱える根源的な寂寥感や哀愁を見つめた名句です。外見の温かみと内面の陰影のコントラストが際立っています。』
青薬や指の疵にも秋の風
季語: 青薬 (autumn)
『【現代語訳】指の小さな切り傷に青薬を塗っていると、そこへ秋の風がひんやりと吹き抜けていく。 【鑑賞】薬を塗った傷口の染みるような冷たさと、肌を撫でる秋風の涼しさが重なり合っています。身体の小さな痛覚を通して季節の深まりを繊細に捉えています。』
青蜜柑掌にころがして旅ごころ
季語: 青蜜柑 (autumn)
『【現代語訳】青蜜柑を手の中に転がしていると、ふと遠くへ旅に出たいという気持ちが湧いてくる。\n【鑑賞】まだ青く固い蜜柑の感触を掌で味わいながら、旅への憧れを募らせている句です。青蜜柑の持つ清々しい香りと未熟な果実の刺激が、日常を離れてどこかへ向かいたいという若々しい旅情を心地よく誘い出しています。』
赤い羽根つけて貧しきこともなし
季語: 赤い羽根 (autumn)
『【現代語訳】胸に赤い羽根をつけると、不思議と貧しさなど気にならず、心が満たされた気持ちになる。【鑑賞】療養生活の中で貧苦や病苦と向き合い続けた波郷が、わずかな善意の証である赤い羽根に触れ、精神的な豊かさと温もりを感じた一句です。』
生身魂妻の髪切る夜もありぬ
季語: 生き盆 (autumn)
『【現代語訳】生身魂を迎える盆の季節、病の床にあって妻の伸びた髪を切ってやる静かな夜があった。【鑑賞】長期の闘病生活を送った波郷が、献身的に看病してくれる妻への深い感謝と情愛を、髪を切るという日常の細やかな動作を通して詠み上げた名句です。』
石を積む指尖を秋高しとし
季語: 秋高し (autumn)
『【現代語訳】石を一つ一つ積み上げる指先を見つめながら、澄み切った秋の空の高さをしみじみと感じている。【鑑賞】手元で石を積むという小さく具体的な行為と、無限に広がる高い秋空の対比が鮮やかです。病と向き合いながら日々を誠実に生きた波郷ならではの、静謐で凛とした精神性が感じられる名句です。』
秋闌けてひかりとどむる硯かな
季語: 秋闌ける (autumn)
『【現代語訳】秋もいよいよ深まり、机の上の硯にわずかに秋の澄んだ光がとどまっていることだ。【鑑賞】静まり返った部屋のなか、墨を磨る硯に差し込む秋の光を鋭く捉えた一句です。闌けてゆく秋の寂寥感と、静謐な空間の美しさが見事に調和しています。』
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