1906年 - 2003年

鈴木真砂女

すずきまさじょ

作風・特徴

作風の解説はまだ登録されていません。

生涯・略歴

千葉県鴨川の旅館の三女、本名まさ。久保田万太郎・安住敦に師事し「春燈」所属。銀座の小料理屋「卯波」女将として恋の句を多く残し、蛇笏賞受賞。

代表句 (20件)

蚊帳の別れやおのがじしなる夢のあと
季語: 蚊帳の別れ (autumn)
【現代語訳】蚊帳との別れ(片付ける)の時期を迎え、夏の夜に蚊帳の中でそれぞれが勝手に見ていた夢の跡を、しみじみと思う。【鑑賞】蚊帳という仕切られた狭い空間の中で、共に寝ながらも異なる夢を見ていた夏の夜を振り返り、片付けの寂しさに人生の哀愁を重ね合わせています。
秋扇の置きどころなき心かな
季語: 秋扇 (autumn)
【現代語訳】役目を終えた秋の扇を、どこに置けば落ち着くのか迷うように、私の心もやり場がなくて困っていることだ。\n【鑑賞】涼しくなって不要になったものの、捨てるに捨てられず、引き出しに仕舞うのもためらわれる秋の扇。その所在なさを、自身の複雑で不安定な恋心や人生の葛藤に重ね合わせて詠んだ、情感豊かな一句です。
休暇了ふ海の匂ひの衣を解いて
季語: 休暇了う (autumn)
【現代語訳】楽しかった休暇も終わり、海辺で過ごした名残である、潮の匂いが染みついた旅の衣服を脱ぎ捨てることだ。 【鑑賞】休暇の終わりを、旅先(海)の匂いが残る服を脱ぐという具体的な動作で表現しています。現実の生活に戻る寂しさと、気持ちを切り替える大人の女性の凛とした静けさが感じられる一句です。
風鈴や目覚めてけふのくらしあり
季語: 風鈴 (summer)
きごさい歳時記
小鰭寿司一枚の皮にぎりけり
季語: 小鰭 (autumn)
【現代語訳】職人が、美しく光る小鰭の一枚の皮を、鮮やかに握り上げることだ。 【鑑賞】銀座で小料理屋を営み、自らも包丁を握った鈴木真砂女ならではの観察眼が光る一句です。「一枚の皮」という言葉が、小鰭の仕込みの繊細さと、職人の高度な技術を克明に捉えています。手のひらの中で完成する一粒の芸術としての小鰭鮨が、生き生きと描き出されています。
栗蒸し羊羹好物なりし人とをり
季語: 栗蒸羊羹 (autumn)
【現代語訳】栗蒸し羊羹が大好物であったあの人と、今も一緒にいるような心地がしている。【鑑賞】作者の代表的な抒情句の一つ。亡き人の面影を、秋の好物である栗蒸し羊羹を通じて追慕しています。ねっとりとした甘さと、栗のほくほくとした食感は、温かな思い出を呼び起こす呼び水となります。切なくも温かい、心の交流が描かれています。
化生とも思はで過ぐる秋の暮
季語: 化生 (autumn)
【現代語訳】妖怪のような恐ろしい化け物が現れたとしても、それさえも気に留めることなく、私は一人で静かに秋の夕暮れを過ごしている。【鑑賞】波乱に満ちた人生を歩んだ真砂女ならではの肝の据わった句です。秋の暮れの寂しさに立ち向かう、あるいは同化しているような、静かでありながらも強い意志が感じられます。
大蜆泥吐ききつて静まりぬ
季語: 大蜆 (spring)
【現代語訳】大しじみが体の中の泥をすっかり吐き出して、静かに落ち着いている。【鑑賞】泥を吐き出すという蜆の生理現象を、どこか潔く、また物静かな佇まいとして捉えています。作者自身の人生の年輪や覚悟さえも感じさせる深みがあります。
七福神めぐりて少し福溢れ
季語: 七福神詣 (newyear)
【現代語訳】七福神を順番に巡っているうちに、自分自身の心の中から、ほんの少し福が溢れ出してくるような幸せな心地がする。【鑑賞】「あまた」ではなく、あえて「少し福溢れ」としたところに、作者の控えめで謙虚な暮らしの姿勢が表れています。ちょっとした幸せに感謝する、温かで優しい人間味が感じられます。
今年米とがんとすれば母恋し
季語: 今年米 (autumn)
【現代語訳】今年の新米を研ごうと水に手を入れると、ふと亡き母のことが恋しく思い出される。 【鑑賞】米を研ぐ日常の動作をきっかけに、ふとあふれ出た母への思慕を詠んでいます。新米の清らかな白さと冷たい水の手触りが、懐かしい母の面影や温もりを鮮やかに引き出しています。
京女鴫波に洗はれ立つてゐる
季語: 京女鴫 (autumn)
【現代語訳】京女鴫が打ち寄せる秋の波に足を洗われながらも、じっと凛として立っている。 【鑑賞】房州の海辺に育った真砂女ならではの確かな観察眼が光る一句です。鮮やかな羽を持つ小さな京女鴫が、激しい波に洗われながらも動じず立つ姿に、自然の力強さと作者自身の芯の強さが重なり合っています。
切籠の影正しきに一人かな
季語: 切籠 (autumn)
【現代語訳】切籠燈籠の几帳面な幾何学模様の影が畳に正しく落ちている中に、私ひとりで座っている。 【鑑賞】切籠の端正な多面体の影が静かに床に落ちている様子と、そこに一人きりでいる孤独感や凛とした心持ちが対比されています。盆の夜の寂寥感と、美しく静謐な空間の広がりを感じさせる一句です。
供養踊仏の数に足らぬかな
季語: 供養踊 (autumn)
【現代語訳】供養のために踊る人の数が、供養される亡き仏たちの数にとても足りないのではないか。 【鑑賞】過疎化や時代の変化により踊り手が減ってしまった寂しさと、これまで見送ってきた多くの死者への尽きない追悼の情が素直な感慨として詠み込まれています。
栗強飯父の忌近くなりゐたり
季語: 栗強飯 (autumn)
【現代語訳】栗強飯を炊く季節になり、そういえば亡き父の命日も近づいてきたのだと気づかされる。 【鑑賞】秋の風物詩である栗強飯をきっかけに、亡き父を追慕する情を詠んでいます。家族への愛情や歳月の巡りを、素朴な食の季語を通してしみじみと伝えてくれる名句です。
小鰭鮨つまめば指の白かりし
季語: 小鰭鮨 (autumn)
【現代語訳】小鰭鮨を指でつまんで口へ運ぼうとすると、その鮨をつまむ自分の指が思いのほか白く見えた。 【鑑賞】青銀色に輝く小鰭鮨と、それをつまむ女心の指先の白さとの色彩対比が艶やかな一句です。秋の澄んだ光の中でふと我が身を見つめる女性らしい繊細な感覚が光ります。
薩摩芋重きを一つ選びけり
季語: 甘藷 (autumn)
【現代語訳】並んださつまいもの中から、ずっしりと重いものを一つ選んだことだ。 【鑑賞】店頭や収穫の場で、美味しそうに実ったさつまいもを手にして選ぶ日常のひとコマを、実感豊かに切り取った一句です。手に伝わる確かな重みと、これから味わう素朴な喜びが飾らない言葉で表現されています。
沢桔梗一と本づつの寂しさよ
季語: 沢桔梗 (autumn)
【現代語訳】沢桔梗がそれぞれ一本ずつ自立して咲いている、その姿になんとも言えない寂しさを感じる。\n【鑑賞】沢桔梗は群生することもありますが、茎をまっすぐに伸ばして一本ずつ凛と立つ姿が特徴的です。作者はその一本一本の立ち姿に、自身の人生や孤独感を重ね合わせて深く共鳴しています。
秋刀魚網乾く匂ひの夕日かな
季語: 秋刀魚網 (autumn)
【現代語訳】秋刀魚網が乾いていく特有の潮の匂いがあたりに立ち込める中、秋の夕日が静かに沈んでゆく。 【鑑賞】房総の海辺で育った作者ならではの、生活感と情感が溶け合った一句です。網に染み込んだ潮や魚の匂いという嗅覚の描写から、港町の夕暮れの切なくも温かい情景がありありと浮かび上がります。
赤のまま好いたお方に振られけり
季語: 赤のまんま (autumn)
【現代語訳】赤のまんまが咲く道端で、大好きなあの人に振られてしまったことだよ。 【鑑賞】恋に生きた俳人・鈴木真砂女の代表句の一つです。道端の小さく儚い「赤のまま」に、失恋の哀しみと、どこか自嘲的で潔い女性の心情が鮮やかに重ね合わされています。
手短かに片附けてゆく秋じまひ
季語: 秋じまひ (autumn)
【現代語訳】手早く要領よく身の回りを片付けていきながら、秋の終わりを締めくくっている。\n【鑑賞】てきぱきと立ち働く作者の日常と潔い性格がにじみ出ています。感傷に浸りすぎることなく、淡々と冬支度を進める姿に、生活者としての逞しさと季節への深い愛着が感じられます。