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清崎敏郎

きよさきとしお

作風・特徴

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代表句 (20件)

葛の花残りて渓のひろごれる
季語: 葛の花残る (autumn)
【現代語訳】秋も深まり、葛の花がわずかに残るばかりとなった。その寂しげな景色のなか、目の前の谷が広く見渡せるように広がっている。 【鑑賞】行く秋の冷涼な空気のなか、散り残った葛の花の赤紫色が、広大な渓谷のスケール感を静かに際立たせている名句です。
榠樝の実一つ得て置きぬ机の上
季語: 榠樝の実 (autumn)
【現代語訳】カリンの実を一つ手に入れて、自分の机の上に置いておいた。 【鑑賞】ただ実を置いたという極めてシンプルな動作を詠んでいますが、それによって書斎にカリンの芳醇な香りが満ちていく様子が想像されます。静かな時間と贅沢な秋の趣を感じさせる名句です。
黄釣舟日ざしのうすく山深く
季語: 黄つりふね (autumn)
【現代語訳】山深く分け入った場所で、わずかな木漏れ日しか届かない木陰に黄釣舟が咲いている。【鑑賞】薄暗く静かな山中と、そこにぽっと灯ったように咲く黄釣舟の鮮やかな黄色との対比が美しい作品です。山道の清涼感と一瞬の出会いが写実的に詠まれています。
金えのころ傾き合へる日向かな
季語: 金えのころ (autumn)
【現代語訳】金えのころの穂が互いに寄り添い傾き合っている、あたたかな秋の日向であることよ。\n【鑑賞】群生する金えのころが風や実の重みで触れ合っている様子を、穏やかな秋の日差しのなかで捉えています。日常の小さな植物の仕草を見逃さず、温もりある情景として美しく切り取った佳句です。
御難の餅拾ふや堂の闇深き
季語: 御難の餅 (autumn)
【現代語訳】御難の餅を拾っていると、本堂の奥の闇が一層深く神秘的に感じられる。\n【鑑賞】法難会の餅撒きで沸き立つ人々の動きと、その背景にある本堂の静かで深い闇とのコントラストが鮮やかです。法難の歴史が宿る寺の厳かな空気と、秋の夜の深まりが同時に感じられる重厚な作品です。
藎草や畦の起伏のそのままに
季語: 藎草 (autumn)
【現代語訳】田んぼの畦道の起伏に沿って、藎草が自然の地形そのままに生い茂っている。 【鑑賞】野にあるがままの藎草の姿を、素直な視線で捉えた写生句です。人工的に整えられすぎない田舎の畦道ののどかさと、秋の野草の生命力が感じられます。
青松笠水落ち合ふに落ちて来し
季語: 青松笠 (autumn)
【現代語訳】まだ青い松笠が、水の流れと流れが合流する場所に、ぽとんと落ちてきたことだ。【鑑賞】水流の合流点という動きのある空間に、ずっしりとした青松笠が落ちる瞬間を的確に捉えた句です。「落ち合ふ」と「落ちて来し」という言葉の重なりが、偶然の出会いの妙と秋の静寂の中の確かな運動感を鮮やかに表現しています。
落鰻簗に落ち来る音のして
季語: 落鰻 (autumn)
【現代語訳】海を目指して下ってきた落鰻が、仕掛けられた簗に落ちて跳ねる音が聞こえて。 【鑑賞】暗闇の中で行われる簗漁の様子を、聴覚のみに焦点を絞って捉えた写生句です。水音の中に混じる、鰻が簗の竹すだれに落ちて跳ねる確かな音。その一瞬の音に、川の冷たさと獲物を待ち構える人の息づかいがリアルに伝わってきます。
海州常山の実の落ちつくす枝の先
季語: 海州常山 (autumn)
【現代語訳】海州常山の実はすっかり落ち尽くして、枝の先だけが残されている。 【鑑賞】鮮やかだった青い実が散り去り、紅い萼だけが残った枝先を淡々と見つめています。晩秋から初冬へと向かう季節の寂寥感と、命のサイクルの完了を静かに提示した写実的な名句です。
猪茸のひからびてゐる小店かな
季語: 猪茸 (autumn)
【現代語訳】山沿いの小さな店先に、乾燥した猪茸が無造作に干からびて並んでいることだ。【鑑賞】生ではなく干した猪茸(乾物)が吊るされている素朴な山間の売店の情景を淡々と描写しています。乾いてなお強い香りを放つ猪茸の存在感が、静かな旅情を誘います。
十五夜祭山より風の吹き降りて
季語: 十五夜祭 (autumn)
【現代語訳】十五夜祭の境内へ向けて、山の方から冷やかな秋風が吹き下りてくる。【鑑賞】名月のもとで賑わう祭りのさなかに、ふと肌を撫でる山の冷気の感触を描くことで、秋の深まりと自然への畏敬を素直に写し取っています。
堰外す水澄みきつて走りをり
季語: 堰外す (autumn)
【現代語訳】堰を外すと、どこまでも澄み切った水が勢いよく走り流れている。 【鑑賞】初秋の水の清らかさと勢いを簡潔な言葉で描写しています。「澄みきつて」「走りをり」という的確な写生によって、水路を疾走する秋の水の透明感と躍動感が鮮明に伝わってきます。
根魚釣る糸の張りつつ暮れにけり
季語: 根魚釣 (autumn)
【現代語訳】根魚を釣る釣り糸がピンと張ったまま、秋の日は次第に暮れていった。【鑑賞】竿先から海底へと伸びる糸の張り具合に全神経を集中させているうちに、いつの間にか夕暮れを迎えていた様子を詠んでいます。静けさの中に釣人の集中力と、秋の日の暮れやすさが巧みに表現されています。
大杓鴫飛んで干潟のひろごれる
季語: 大尺鴫 (autumn)
【現代語訳】大杓鴫がふわりと飛び立ったあと、見渡す限りの干潟の広大さがより一層感じられる。 【鑑賞】鳥が飛び去ったことで、残された干潟の広さと静寂が際立つ様子を描いています。鳥の動きをきっかけに広大な秋の海景を描き出した、余韻の深い一句です。
蛇笏忌やひびきあひたる甲斐の山
季語: 蛇笏忌 (autumn)
【現代語訳】蛇笏忌の今日、甲斐の山々は互いに呼び交わし響き合っているかのようだ。 【鑑賞】蛇笏の精神が宿る甲斐連峰の雄大な連なりを描いた句。秋の澄んだ大気の中で山々が凛として聳え立つ景が、蛇笏の毅然たる生涯を象徴しているかのように迫ってきます。
舎利会や山ふところに暮れかかり
季語: 泉涌寺舎利会 (autumn)
【現代語訳】舎利会が行われている寺の境内を包む東山のふところは、早々と秋の日の暮色に包まれようとしている。 【鑑賞】仏舎利の開帳に集う人々の熱気や荘厳な空気の後、山寺特有の秋の暮れやすさがしんしんと迫ってくる情景を簡潔に描写した名句です。「山ふところ」という温かみと幽玄さを併せ持つ言葉によって、寺院を抱く東山の深さと、日没に伴う冷涼な秋の気配が見事に際立っています。
田村草咲きつゞきゐる尾根の道
季語: 田村草 (autumn)
【現代語訳】田村草がずっと咲き続いている、この一本の尾根道を歩いてゆく。 【鑑賞】山登りの途上、尾根道沿いにぽつりぽつりと、しかし途切れることなく咲く田村草の姿を素直に写し取っています。棘のない柔らかな花が歩む者を励ますように咲いている情景が浮かび、静かな旅情と秋の山の開放感が心地よく伝わってきます。
中尺鴫遠き一羽を見失ふ
季語: 中尺鴫 (autumn)
【現代語訳】遠くの渚にいた中尺鴫の一羽を目で追っていたが、ふと見失ってしまった。【鑑賞】広々とした秋の干潟や波打ち際で、遠くの鳥を追う作者の視線を描いた句です。中尺鴫の保護色のような淡い色彩と広大な海の光の中に溶け込んでしまった鳥。その瞬間の茫漠とした喪失感と、秋ならではの寂寥感が静かに心に残ります。
鶴鴫の影を重ねて歩みけり
季語: 鶴鴫 (autumn)
【現代語訳】秋の傾いた日差しの中、鶴鴫たちが水面にそれぞれの長い影を重ね合わせるようにして歩いている。 【鑑賞】秋の低くなった日差しが水辺に長い影を落とす時間帯を捉えています。二羽以上の鶴鴫が寄り添うように歩くことで影が重なり合う瞬間を精密に切り取っており、静かな秋の干潟の叙情を美しく伝えています。
海桐の実のはじけて赤き日和かな
季語: 海桐の実 (autumn)
【現代語訳】海桐の実がぱっくりとはじけて、鮮やかな赤色を覗かせている、なんと心地よい秋晴れの日和だろうか。 【鑑賞】澄み渡る秋の光の中で、はじけた海桐の実の鮮烈な赤が一際引き立っています。「はじけて赤き」という平明で的確な描写によって、実の瑞々しさと穏やかな小春日和のような景観が素直に伝わってくる心地よい一句です。