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季語辞典
長谷川櫂
俳
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長谷川櫂
はせがわかい
作風・特徴
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代表句 (20件)
金魚品評会洗面器みな空を容れ
季語: 金魚品評会 (autumn)
『【現代語訳】金魚品評会に並ぶ洗面器は、その澄んだ水にどれも秋の青空をいっぱいに映し込んでいる。 【鑑賞】屋外で開催される品評会の情景です。並んだ洗面器の水面に広がる秋晴れの高い空と、その青を背景に優雅に舞う金魚たち。会場全体の澄み渡る空気感と広がりを見事に捉えています。』
栗きんとん絞る木綿の白さかな
季語: 栗きんとん (autumn)
『【現代語訳】栗きんとんの形を整えるために絞る、木綿の布巾の白さが際立って美しいことだ。【鑑賞】炊き上げた栗の自然な黄色と、それを絞る清潔な木綿布の白さの対比が鮮やかです。和菓子作りの凛とした清潔感と秋の気配を見事に切り取っています。』
鰯黒漬能登の旅籠の灯を恋ふる
季語: 鰯の黒漬 (autumn)
『【現代語訳】鰯の黒漬を口にすると、以前訪れた能登の旅籠のあたたかな灯りが懐かしく思い出される。 【鑑賞】黒漬の濃厚な郷土の風味を通して、旅情やかつて過ごした能登の夜の温もりを回想しています。土地の味覚が記憶を鮮やかによみがえらせる瞬間を捉えています。』
打揚花火ふと音絶えて夜となりぬ
季語: 打上花火 (autumn)
『【現代語訳】打ち上げ花火がふと音を絶つと、あたりは深い本来の夜へと戻っていった。\n【鑑賞】次々に打ち上げられていた花火の響きがふっと止んだ瞬間の、急激な静けさと闇の深さを詠んでいます。賑わいから一転して訪れる初秋の夜の寂寥感が際立ちます。』
榎茸そろへて白き厨かな
季語: 榎茸 (autumn)
『【現代語訳】榎茸の根元を切りそろえて置くと、台所全体に清潔な白さが満ちていくようだ。 【鑑賞】細く真っ直ぐに揃った榎茸の形と白さが、調理場(厨)の整然とした空気感と美しく響き合っています。料理を始める前の静けさと、冬へ向かう季節の気配が感じられます。』
大毛蓼雨の雫の重きかな
季語: 大毛蓼 (autumn)
『【現代語訳】大毛蓼の大きな花穂に秋雨の雫がたまり、いかにも重そうに垂れ下がっていることだなあ。 【鑑賞】大毛蓼の毛に覆われた花穂に雨粒がびっしりと宿り、その重みでさらに深くうなだれている様子を端的に写生しています。秋の冷たい雨の質感と、大毛蓼の存在感が同時に伝わってくる名句です。』
若冲忌鶏の眼のただならぬ
季語: 若冲忌 (autumn)
『【現代語訳】若冲忌の今日、ふと見つめた鶏の眼は、ただ事ではない異様な光を宿している。 【鑑賞】伊藤若冲の代名詞ともいえる「鶏」に焦点を当てた一句です。若冲の描く鶏は、瞳に宿る執念や生命力が鬼気迫るものとして有名です。目の前の生きた鶏の眼差しに、若冲が捉えようとした生命の深淵を重ね合わせています。』
舞茸を裂くや手首のしなやかに
季語: 白舞茸 (autumn)
『【現代語訳】舞茸を手で裂いている、その手首の動きが実にしなやかで美しい。 【鑑賞】舞茸の持つ軽やかで舞うような姿と、それを調理する人のしなやかな所作が美しく重なり合っています。白く可憐な茸を扱う優しい手つきが目に浮かぶ句です。』
甚五右衛門忌の雨になりゆく油小路
季語: 甚五右衛門忌 (autumn)
『【現代語訳】江島其磧を偲ぶこの日、京都の油小路通りにしとしとと秋の雨が降り始めている。 【鑑賞】京都の実在する通り名「油小路」を取り合わせることで、其磧が生きた古都の風情を鮮やかに描き出しています。晩秋の冷たい雨が石畳を濡らす情景が、忌日のしめやかな気配と美しく調和しています。』
ねぶた組む骨のすきまに星のあり
季語: ねぶた組む (autumn)
『【現代語訳】組み上げられつつあるねぶたの木や針金の骨組みの隙間に、夜空の星が光っている。 【鑑賞】まだ紙が貼られていない、組み上がったばかりの巨大な骨組みの向こうに澄んだ夜空が広がり、星が瞬いている情景を詠んでいます。制作小屋の熱気の合間にふと見上げた星の静けさとの対比が美しく、秋の訪れを感じさせる北国の夜の気配が詩情豊かに描かれています。』
ミカエル祭光あふるる街をゆく
季語: 聖ミカエルの祝日 (autumn)
『【現代語訳】聖ミカエルの祝日、降り注ぐ秋の光に満ちあふれた街の中を歩いていく。【鑑賞】初秋のまばゆい光に包まれる日常の街並みを、祝祭の持つ聖性とともに肯定的に捉えています。光の中に身を置く心地よさと、季節の変わり目への清新な感動が素直な言葉でまとめられています。』
蟄虫咸俯す書を積むことの寂しきに
季語: 蟄虫咸俯す (autumn)
『【現代語訳】虫たちがみな地中に身を潜めるこの頃、読まぬまま積み重なった書物を眺めていると、秋の深まりとともに言い知れぬ寂しさが込み上げてくる。【鑑賞】七十二候を詠み込んだ句。地中の虫たちが動きを止める気配と、机の傍らに積まれた本の静けさが二重写しになり、深秋の孤独と精神的な沈潜を見事に捉えています。』
縮緬鰯噛みしめて秋深みかも
季語: 縮緬鰯 (autumn)
『【現代語訳】縮緬鰯をしっかりと噛みしめていると、いよいよ秋が深まってきたのだという実感が湧いてくることだ。 【鑑賞】質素で素朴な縮緬鰯をよく噛んで味わう行為が、季節の深まりを感じ取る静かな時間へとつながっています。乾物の持つ乾いた旨味と、秋が次第に深まり冷涼になっていく気配が見事な調和を見せています。』
天使祭どこかに水のこぼれをり
季語: 天使祭 (autumn)
『【現代語訳】天使祭の静けさの中、どこからか清らかな水がこぼれ落ちる音が聞こえてくる。【鑑賞】教会の聖水や噴水、あるいは手水のような水が澄んだ音を立ててこぼれている情景を捉えています。「天使祭」の持つ清冽で聖なる空気感が、「水のこぼれをり」という控えめで透明な聴覚的描写によって見事に引き立てられています。』
天地始粛風の通ひ路定まりぬ
季語: 天地始めて粛す (autumn)
『【現代語訳】天地の暑さが鎮まる頃となり、吹き渡る風の通り道が定まったように感じられる。\n【鑑賞】夏の間は四方から乱雑に吹き込んできた風が、秋の気配の訪れとともに規則正しく決まった道筋を流れるようになったという、繊細な季節の感受を捉えています。自然界の秩序が整い、厳かな静けさが戻ってきた「粛す」の真髄を、風の動きという見えないものを通して描き出した秀句です。』
土俵際ふはりと秋の風の吹く
季語: 土俵 (autumn)
『【現代語訳】勝負の瀬戸際である土俵際に、ふわりと軽やかに秋の風が吹き抜けた。【鑑賞】力士同士が渾身の力でしのぎを削る極限の「土俵際」と、そこにそっと吹いてきた「ふはりと秋の風」という柔らかな感覚の対比が絶妙です。張り詰めた緊張感の中にふと訪れる自然の息吹が、現代的な軽みとともに捉えられています。』
蜻蛉朔日草の匂ひの畳かな
季語: 蜻蛉朔日 (autumn)
『【現代語訳】蜻蛉朔日を迎えた今日、部屋の畳から青々とした心地よい草の匂いが立ちのぼっている。\n【鑑賞】秋の澄んだ新涼の風が吹き込む座敷で、畳のい草の香りをふと意識した日常の一瞬です。外の晴れやかな秋空に舞う蜻蛉の気配と、室内の静かで清々しい草の匂いという、視覚と嗅覚の対比が心地よい落ち着きをもたらしています。』
苦うるかや酒のふくらむ舌の上
季語: 苦うるか (autumn)
『【現代語訳】苦うるかを口に含むと、追いかけて含んだ酒のふくよかな旨みと香りが舌の上いっぱいに広がっていく。【鑑賞】うるかの凝縮された苦味と塩気が、日本酒の甘みと旨みを最大限に引き立てる瞬間を生々しく捉えた句です。味覚と嗅覚の広がりを「ふくらむ」という動詞で見事に表現しています。』
墓掃除してゐて生きてゐると思ふ
季語: 墓掃除 (autumn)
『【現代語訳】墓石をきれいに掃除しているうちに、自分は今こうして生きているのだという実感が湧いてくる。【鑑賞】死者が眠る墓を清めるという行為を通じて、逆説的に自分自身の生々しい生命の存在を強く意識させられた名句です。先祖との無言の対話が生んだ深い哲学的実感が、平明な言葉で素直に表現されています。』
八月や六日九日十五日
季語: 八月 (autumn)
『【現代語訳】八月が巡ってきた。広島原爆の六日、長崎原爆の九日、そして終戦の日の十五日よ。 【鑑賞】八月という月に刻まれた、日本人にとって決して忘れてはならない歴史的な日付のみを並べた現代の名句です。余計な修辞を一切排した数字の羅列が、かえって戦争の悲劇と平和への深い祈り、そして静かな鎮魂の思いを際立たせています。』
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