蟄虫咸俯す

蟄虫咸俯す

ちっちゅうみなふす

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意味・由来

「蟄虫咸俯す(ちっちゅうみなふす)」は、古代中国の二十四節気七十二候に由来する晩秋の季語です。「蟄虫」は地中に棲む虫たち、「咸」は「みな・ことごとく」、「俯」は「身をかがめる・伏す」を意味します。春の「啓蟄(けいちつ)」で地上へ這い出てきた虫たちが、秋の深まりとともに寒さを感じ、冬ごもりのために土中へ潜って静かに頭を垂れる様子を表しています。自然界の命がいったん活動を停止し、静寂へと向かう厳かな季節の節目を捉えた風情ある季語です。

この季語で詠むコツ

「蟄虫咸俯す」は漢字六文字からなる重厚で調べの引き締まった季語です。実際に虫の姿を具象的に追うだけでなく、虫たちが潜んでしまったあとの「音のなさ」や「しじま」、深まりゆく秋の冷気そのものを表現するのがコツです。春の芽吹きや躍動感とは対照的に、もの思いに沈む心や、冬を控えた日々の暮れやすさといった、内省的・静的な気分を寄り添わせると、季語の持つ格調高さが生きてきます。

相性のいい言葉・取り合わせ

虫たちが身を隠す世界観に合わせ、静けさや孤独、落ち着いた情景を喚起する言葉と好相性です。 ・名詞:書斎、机、古書、瓦礫、夕日、影、庭石、微光 ・動詞・形容動詞:潜む、鎮もる、冷ゆる、暮れなずむ、ひそやか、寂けし 日常生活の静かな一コマ(読書や手仕事など)と対比させることで、地中の小さな命の気配と人間の暮らしの静寂が美しく響き合います。

蟄虫咸俯す」の俳句例 (3件)

蟄虫咸俯す書を積むことの寂しきに
長谷川櫂【現代語訳】虫たちがみな地中に身を潜めるこの頃、読まぬまま積み重なった書物を眺めていると、秋の深まりとともに言い知れぬ寂しさが込み上げてくる。【鑑賞】七十二候を詠み込んだ句。地中の虫たちが動きを止める気配と、机の傍らに積まれた本の静けさが二重写しになり、深秋の孤独と精神的な沈潜を見事に捉えています。
蟄虫咸俯す書窓の日を惜しみ
有働亨【現代語訳】虫たちが冬眠の準備に入って潜む頃、書斎の窓から差し込む貴重な秋の日差しを惜しむように過ごしている。【鑑賞】日ごとに短くなっていく秋の陽光への愛惜と、生き物たちが活動を終えていく候気が書窓という静かな空間に集約されています。漢語季語の堅さを日差しの温もりで柔らかく包み込んだ佳句です。
蟄虫咸俯す水落つる音遠くして
角川春樹【現代語訳】生きとし生ける虫たちが土中に伏して静まる頃、遠くで水が流れ落ちる微かな音だけが澄んだ空気に響いている。【鑑賞】虫たちの鳴き声が途絶え、静寂が訪れたからこそ、遥か彼方の水音が鮮明に耳に届きます。動から静へと移り変わる秋の深まりを聴覚を通じて清冽に描出した一句です。

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