1886年 - 1951年

原石鼎

ないとうめいせつ

作風・特徴

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生涯・略歴

原 石鼎(はら せきてい、1886年3月19日 - 1951年12月20日)は、島根県出身の俳人。高浜虚子に師事、「鹿火屋」を創刊・主宰。大正期の「ホトトギス」を代表する作家の一人で、色彩感覚に優れたみずみずしい作風で一世を風靡した。

代表句 (20件)

雁渡し海の色より暮れにけり
季語: 雁渡し (autumn)
【現代語訳】雁渡しの風が冷たく吹き抜ける中、辺りが夕暮れに包まれていくが、空よりも先にまず海の色から暗く暮れていくことだ。\n【鑑賞】風の冷たさと共に、海の青が徐々に深みを増して闇に溶けていく静寂な時間を捉えています。視覚的な色の変化を通して、寂寥感に満ちた秋の暮れ方を美しく描いています。
月下の草履ひた濡るる露の原
季語: 月下 (autumn)
【現代語訳】煌々と輝く月光の下、草むらに入っていくと、足元の草履が秋の夜露にすっかり濡れていく。【鑑賞】月下という美しい光の情景(視覚)と、夜露の冷たさに濡れる草履(触覚)が、見事な対比を描いています。秋の夜の張り詰めた空気感が、肌を通して伝わってくる名句です。
からの群れのぼりて下りて落葉かな
季語: からの群 (autumn)
【現代語訳】鵤(いかる)の群れが、舞い上がり、また舞い降りて、落葉のようにひらひらと動いていることよ。【鑑賞】鳥の群れの上下する不規則な動きを「のぼりて下りて」と平易に表現し、それをひらひらと舞う落葉に重ね合わせています。秋の深まりゆく景色のなかで、鳥の動きそのものが季節を体現しているかのような美しさを感じさせます。
狂ひ花その一枝を折りて去る
季語: 狂い花 (winter)
【現代語訳】季節外れにぽつんと咲いている狂い花。その一枝をそっと折り取って、私はその場を立ち去った。\n【鑑賞】冬枯れの中で不意に見つけた狂い花の美しさに強く心惹かれ、思わず手折って持ち去る作者の衝動が描かれています。静まり返った冬の空気感と、一枝を手にした作者の静かな興奮が余韻として残る、叙情豊かな句です。
風草やちりぢりになる雲の影
季語: 風草 (autumn)
【現代語訳】風草が風に揺れているその上に、空の雲が風に流されてちりぢりになり、その影が草地を通り過ぎていく。 【鑑賞】地上で細かく揺れる風草と、はるか上空で形を変えていく雲の影。二つの動きが秋の風によって連動しており、視界の広がりとダイナミックな風の存在を美しく描き出しています。
かやきりや一本ひかる草の露
季語: 萱きり (autumn)
【現代語訳】カヤキリが鳴いている。その近くの、たった一本の草に宿った露が、夜の闇の中で美しく光っていることよ。【鑑賞】鋭く鳴き続けるカヤキリの声と、一滴の露の静かな輝きとの対比が美しい一句です。静と動、音と光が凝縮された、秋の夜の繊細な情景が目に浮かびます。
毒蛾落ちて机の上の白紙かな
季語: 毒蛾 (summer)
【現代語訳】灯火の周りを飛び回っていた毒蛾が、ポツリと机の上の何にも書かれていない白い紙の上に落ちてきたことよ。 【鑑賞】机の上の「白紙」という静謐で清潔な空間と、不気味で有害な「毒蛾」という対極にある存在が、一瞬にして交わった緊張感を詠んでいます。書斎の静寂と、そこに忍び寄る夏の夜の不穏な影が鮮烈に対比されています。
唐荏に風おこりたる夕日かな
季語: 唐荏 (autumn)
【現代語訳】夕日の赤い光が差し込む中、唐荏の葉を揺らす風がにわかに吹き始めてきたことだ。【鑑賞】夕日に照らされる唐荏の畑と、突然動き出した風のダイナミズムが捉えられています。色彩と光の対比が鮮やかで、一瞬の自然の息遣いが見事に表現されています。
兜花しづかに暮るる山路かな
季語: 兜花 (autumn)
【現代語訳】兜花が咲いている山道に、静かに夕暮れが訪れていくことよ。 【鑑賞】薄暗くなり始めた山路の中で、兜花の独特な深い紫色の花が、静まり返った空気の中にぽつりと浮かび上がっている情景です。静寂とほの暗さの中に、花の持つ妖しい美しさと、そこはかとない自然の寂寥感が漂っています。
黍嵐村の郵便届きけり
季語: 黍嵐 (autumn)
【現代語訳】黍嵐が荒れ狂う山村にも、いつも通り郵便が届いたことだ。【鑑賞】吹き荒れる風の激しさと、その中を届く一通の手紙という日常の穏やかさの対比が、村の温かい暮らしを浮き彫りにしています。
茄芋の掘り残されて花咲けり
季語: 菊芋 (autumn)
【現代誮訳】収穫の際、掘り残されて土の中にあこの茄芋から、また芽が出て秋に黄色の花を咲かせている。 【鑒賞】茄芋の生命力の強さと、畑の片隅での素朴な営みを感じさせる句です。掘り残されたという少し巋しげな事実から、鮮やくな黄色の花が咲く対比が印象的です。
木つつきの敲きいでたる山の静
季語: 木突 (autumn)
【現代語訳】キツツキが木を叩き始めたことで、かえって山全体の深閑とした静けさが引き立っている。【鑑賞】澄み渡る秋の山中で聞こえるキツツキの音。その鋭く明瞭な音響が、かえって周りの山々の静寂さを一際深く感じさせます。
黍の穂のゆれて黄色き日和かな
季語: (autumn)
【現代語訳】黍の穂が風にゆれて、すっきりと晴れ渡った黄色い光に満ちた秋の日和であることよ。 【鑑賞】実った黍の穂の黄色と、秋のうららかな陽光が響き合い、視界全体が温かな黄色に包まれているかのような明るい句です。秋の穏やかな一日をシンプルかつ鮮明に切り取っています。
茸ほす日表長き山家かな
季語: 茸干す (autumn)
【現代語訳】茸を干している日当たりの良い場所が、山里の家に心地よく長く広がっていることよ。【鑑賞】「日表(ひおもて)」のあたたかな秋の日差しが印象的で、山家の静かで心豊かな秋の日常を鮮やかに描き出しています。
黍の穂の風のゆくへや阿蘇の雲
季語: 黍の穂 (autumn)
【現代語訳】黍の穂を揺らして吹き抜ける風のゆくえを見やると、阿蘇の山にかかる雲へと繋がっているのだろうか。【鑑賞】足元の黍の穂の揺れから、遠く阿蘇の雄大な雲へと視線を広げたスケールの大きな一句です。秋の豊かな自然とダイナミックな風の動きが写し出されています。
貴船菊咲くや日陰の濃きところ
季語: 貴船菊 (autumn)
【現代語訳】貴船菊が咲いている。その咲いている場所は、日陰が殊更濃く感じられるところである。【鑑賞】しっとりとした日陰に咲く貴船菊の白い花と、濃い影との対比が鮮やかな作品です。日陰という静かな空間において、貴船菊の清冽な存在感がより一層引き立っています。
黄やんまの尾の垂れて飛ぶ日和かな
季語: 黄やんま (autumn)
【現代語訳】黄ヤンマが尾を少し下に垂らすようにして飛んでいる、とても穏やかな秋晴れの日であることよ。【鑑賞】黄ヤンマ特有の飛翔姿を的確にとらえ、秋ののどかな日和の空気を繊細に表現しています。
茱萸熟れて山鳥の尾の長きこと
季語: 茱萸 (autumn)
【現代語訳】茱萸の実が真っ赤に熟している山中で、ふと見かけた山鳥の尾がなんと長いことだろうか。\n【鑑賞】色鮮やかに熟した小さな茱萸の実と、目の前を横切る山鳥の見事な長い尾との対比が鮮やかです。山奥の静けさと秋の深まりを、視覚的なコントラストによって美しく切り取った名句です。
洪水や蔵のあたりを夜の鳥
季語: 洪水 (autumn)
【現代語訳】洪水が押し寄せている夜、浸水した屋敷蔵のあたりを、正体の知れない夜の鳥が飛び交っている。 【鑑賞】夜間に水かさが増していく不気味な状況を、「蔵のあたりを飛ぶ夜の鳥」という不吉で緊張感のある描写によって表現しています。見えない水の脅威と闇の深さが迫真の臨場感を生み出しています。
会式見る女が多き暮色かな
季語: 西大寺会式 (autumn)
【現代語訳】会式の賑わいを見ていると、夕暮れの薄闇の中に大勢の女性たちの姿がひときわ目立っている。 【鑑賞】秋の日の暮れゆく境内において、法会に集う人々の華やぎを捉えた一句。秋の夕暮れの哀愁と、会式に集まる女性たちの鮮やかな賑わいが情感豊かに交差しています。