1892年 - 1988年

山口青邨

やまぐちせいそん

作風・特徴

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生涯・略歴

山口 青邨(やまぐち せいそん、1892年〈明治25年〉5月10日 - 1988年〈昭和63年〉12月15日)は、日本の俳人・鉱山学者。岩手県出身。東京大学名誉教授。

代表句 (20件)

切り口の角のくづれぬ水羊羹
季語: 水羊羹 (summer)
青邨句集
休暇果つ青きトランク提げて帰る
季語: 夏期休暇果つ (autumn)
【現代語訳】楽しかった休暇が終わり、私は旅の思い出が詰まった青いトランクを手に提げて、日常の待つ我が家へと帰っていく。【鑑賞】「青きトランク」という具体的なアイテムが、旅の爽やかさと、休暇が終わる一抹の寂しさを鮮やかに引き立てています。日常へと戻る足取りに、どこか凛とした気品が感じられる作品です。
渋柿の渋のぬけつつ柿紅葉
季語: 柿紅葉 (autumn)
【現代語訳】枝に残る渋柿の渋が少しずつ抜けて甘くなっていくのと並行して、柿の葉もまた美しく紅葉していくことよ。【鑑賞】実が熟していく見えない変化と、葉が色づいていく目に見える変化を重ね合わせ、木全体が秋の深まりとともに生命を全うしていく様子を温かく描き出しています。
霧の帳うしろにひきて立ちにけり
季語: 霧の帳 (autumn)
【現代語訳】立ち込めていた霧の帳を背景に背負うようにして、静かに佇んでいることよ。 【鑑賞】霧があたかも劇場の幕(背景)のように存在し、その手前にある人物や事物が引き立っている劇的な一瞬を捉えています。どこか絵画的で、演劇的な美しさを湛えた一句です。
黄纐纈の林をぬけて来し水か
季語: 黄纐纈の林 (autumn)
【現代語訳】この澄んだ水の流れは、あの黄色い絞り染めのように美しく色づいた林を通り抜けてきた水なのだろうか。 【鑑賞】目の前を流れる澄んだ水を見て、その源流にある、黄色く色づいた美しい「黄纐纈の林」に思いを馳せています。水に林の黄色が映り込んでいるかのような瑞々しい色彩感と、空間の広がりを感じさせる名句です。
駈鶉草の明るき方へゆく
季語: 駈鶉 (autumn)
【現代語訳】草むらを走り抜けるウズラが、光の差し込む明るい方へと向かって駆けていく。【鑑賞】秋の木漏れ日や夕日が差し込む草むらで、日陰から日向へと移動するウズラの姿を描いています。物寂しい秋の景にあって、「明るき方へ」という表現が希望や温かみを感じさせます。
九月尽く木々の梢の動きつつ
季語: 九月尽 (autumn)
【現代語訳】九月が終わりを迎える。ふと見上げると、木々の梢が風に揺れ、秋が去りゆく気配を静かに告げているようだ。【鑑賞】秋が尽き、冬が訪れようとする季節の節目を、梢のそよぎという微細な自然の動きによって可視化しています。静けさの中に、確実な時の流れを感じさせる一句です。
榠樝の実ひろひて重き香なりけり
季語: 花梨の実 (autumn)
【現代語訳】落ちている花梨の実を拾い上げてみると、そのずっしりとした重さとともに、濃厚で豊かな香りが立ち上ってきた。【鑑賞】「重き香」という表現が秀逸です。物理的な実の重さと、鼻をくすぐる香りの濃厚さを重ね合わせることで、秋の深まりと実りの確かさを立体的に表現しています。
月下に万葉をよむ女あり
季語: 月下 (autumn)
【現代語訳】月明かりの下で、静かに万葉集を読んでいる女性がいる。【鑑賞】月光の透明感溢れる美しさと、古典である万葉集を開く女性の知的な佇まいが、見事な調和を見せています。秋の夜の静謐さと、どこか現実離れした神秘的なロマンティシズムが漂う一句です。
ねぶたの夜おそろしき灯が町をゆく
季語: 喧嘩ねぶた (autumn)
【現代語訳】ねぶた祭りの夜、恐ろしくも妖しいまでの巨大な灯籠(ねぶた)の明かりが、闇を引き裂くように町を練り歩いてゆく。【鑑賞】青邨がねぶたの持つ圧倒的な熱量と、闇に浮かび上がるねぶたの怪異な美しさを「おそろしき灯」と表現した一句。「喧嘩ねぶた」に見られるような、祭りの持つ爆発的なエネルギーと底知れぬ生命の荒々しさが、この「おそろしさ」に凝縮されています。
熊棚をかけて寂しき山路かな
季語: 熊栗架を搔く (autumn)
【現代語訳】木の上に熊棚が作られている。それが視界に入るだけで、この静かな山道が一段と寂しく、また心細く感じられることだ。 【鑑賞】熊そのものの姿は見えねど、新しく作られた熊棚という確かな痕跡を発見した時の、人間の緊張感と深い孤独感を詠んでいます。深まる秋の「寂しさ」が野生の息吹によって強調されています。
岩高蘭熟れてゐるなる一望に
季語: 岩高蘭 (summer)
【現代語訳】見渡す限り広がる高山の地平に、岩高蘭の黒い実が豊かに熟している。【鑑賞】「一望に」という表現により、遮るもののない高山帯の圧倒的なスケール感が伝わります。大自然の中に満ちる静かな実りの豊かさを表現しています。
からすみの一片赤く透きとほる
季語: 鱲子 (autumn)
【現代語訳】薄く切り分けられた一枚の鱲子が、光に透かされて美しく赤く澄んでいる。 【鑑賞】味わいだけでなく、その美しさに焦点を当てた近代写生俳句の傑作です。光に透かすことで浮かび上がる鱲子の気品ある美しさが、鮮やかに表現されています。
香草を植ゑて日あたる秋の庭
季語: 香草 (autumn)
【現代語訳】庭の片隅に香草を植えた。そこへ、やわらかな秋の太陽の光が穏やかに降り注いでいる。 【鑑賞】新しく植えられた香草が、秋の光を浴びて瑞々しく輝いている様子を描いています。静かで平和な日常のひとときと、香草の爽やかな香りが庭いっぱいに広がるような健やかさを感じさせる佳品です。
鴇の羽のいろにつつまれて死なまし
季語: (autumn)
【現代語訳】鴇の羽が持つ、あの優しくも儚い淡桃色に優しく包まれながら、私はいつの日か静かに生を終えたいものだ。 【鑑賞】鴇色という色の究極の美しさに心を奪われ、自らの死生観を託した情熱的かつロマンチックな句です。単なる自然描写を超えて、自然の美と自己の精神を一体化させようとする祈りが込められています。
初猟の犬よりさきに躍り出づ
季語: 初猟 (autumn)
【現代語訳】待ちに待った初猟の朝、興奮して駆け出す猟犬よりもさらに先を争うようにして、自分自身が勢いよく野山へと飛び出してゆくのだ。 【鑑賞】待ち焦がれた狩猟解禁日の高揚感が、これ以上ないほど活き活きと表現されています。「犬より先に」というユーモラスかつ躍動感あふれる描写から、山野を駆ける作者の若々しいエネルギーと喜びがストレートに伝わってきます。
橇歌や星降る夜のシベリヤ野
季語: 橇歌 (winter)
【現代語訳】満天の星が今にも降ってきそうな極寒の夜、果てしなく広がるシベリアの大平原に、どこか哀愁を帯びた橇歌が響き渡っている。【鑑賞】シベリアという壮大な異国の冬景色を詠んだ名句です。零下数十度にもなる凛とした空気感と、星の輝き、そして広野に消えていく歌声の対比が非常にドラマチックです。
湯婆やわが足に添ふおのづから
季語: 湯婆 (winter)
【現代語訳】湯婆が、いつの間にか自然と私の足に寄り添っていることよ。\n【鑑賞】意識して足を近づけたわけではないのに、寒さを避けるようにして、いつの間にか湯婆の温もりに吸い寄せられている身体の素直な反応を描いています。「おのづから」という言葉が、静かで穏やかな冬の夜の流れる時間を優しく表現しています。
黄鶏頭高くなりけり風の中
季語: 黄鶏頭 (autumn)
【現代語訳】黄鶏頭が吹く秋風の中で、いつの間にか背が高くなっていることだ。【鑑賞】吹き抜ける風の中でまっすぐに伸びる黄鶏頭の姿を通して、秋の深まりと植物の生命力を素直に捉えています。
なべこわし煮てゐる遠き吹雪かな
季語: 鍋破 (winter)
【現代語訳】鍋を壊すほど美味いという魚「なべこわし」をコトコトと煮ている。その家の外では、遠くから吹雪の音が聞こえてくる。【鑑賞】「なべこわし」というユニークな魚の名前から漂う温かみのある北国の鍋料理の情景と、外の厳しい「吹雪」という寒さの対比が鮮やかです。家の中の温もりと美味しそうな匂いが、より一層引き立つ名作です。