千振引く

千振引く

せんぶりひく

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意味・由来

「千振(センブリ)」は、日当たりのよい山野に自生するリンドウ科の二年草です。「千回振り出しても(煎じても)まだ苦い」ことからその名がつき、古くから胃腸の良薬「当薬(とうやく)」として重宝されてきました。秋の深まりとともに星形の可憐な白紫の花を咲かせますが、この開花期に薬効が最も高まるため、根ごと引き抜いて収穫します。この作業を「千振引く」といい、晩秋の山里の手仕事や、澄んだ秋の空気感を伝える季語となっています。

この季語で詠むコツ

「引く」という具体的な身体動作を伴う季語であるため、引き抜くときの手応えや、指先に残る草の匂い・苦味など、五感(特に触覚や味覚、嗅覚)に訴える表現と相性が抜群です。また、晩秋の傾く陽射しや山の冷気、岩混じりの痩せた土地といった過酷ながらも美しい自然環境を背景に配すると、小さな薬草の生命力と引き手の情趣が際立ちます。

相性のいい言葉・取り合わせ

・身体の部位:指先、爪、掌(てのひら)、腰 ・感覚・質感:苦し、青し、土の香、しなり ・山の情景:岩肌、尾根、夕日影、薄日、秋風、山道

千振引く」の俳句例 (3件)

千振引く指のあをさをなめにけり
角川源義【現代語訳】千振を引き抜いて青く染まった指先を、ふとなめてみたことだ(その猛烈な苦味が舌に広がる)。 【鑑賞】千振を引き抜いた後の指に残る草汁の青さと、その指を無意識か興味からかなめた瞬間の強烈な苦味を詠んだ一句です。視覚(指の青さ)から味覚(千振特有の苦さ)への鮮やかな転換が、秋の山仕事の生々しい実感を伝えています。
千振引く草山を風吹きのぼる
飴山實【現代語訳】千振を引き抜いている草山を、冷ややかな秋風が下から吹き上がってくる。 【鑑賞】晩秋の開けた山肌で千振を黙々と引く人物の足元から、谷風が吹き抜けていく情景を描いています。「吹きのぼる」という動的な描写により、山の斜面の広がりと晩秋の澄み切った冷気が肌感覚として読者に伝わってくる名句です。
千振引く手よりあふれてゐたりけり
西本一都【現代語訳】夢中で千振を引き続けているうちに、いつの間にか抱えた手からこぼれ落ちそうにあふれていた。 【鑑賞】一本一本は小さな草である千振を、束になるほど熱心に引き集めた収穫の喜びと素朴な豊かさを捉えています。「あふれてゐたりけり」の気づきの中に、晩秋の山に没頭していた作業の充実感が温かく表現されています。

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