溢蚊

溢蚊

あぶれか

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意味・由来

「溢蚊(あぶれか)」は、秋の深まりとともに季節からあぶれ(取り残され)、生き残っている蚊を指す秋の季語です。「秋の蚊」「残る蚊」とほぼ同義ですが、「溢蚊」という言葉には、夏の盛りを過ぎて仲間がいなくなり、寒さのなかで寄る辺なくさまよう孤独感や、弱々しく哀れなニュアンスがより色濃く宿っています。刺す力も衰え、かすかな羽音で頼りなげによろよろと飛ぶ姿に、過ぎ去った夏への哀惜や晩秋の寂寥感が重ねられます。

この季語で詠むコツ

夏の蚊を詠むときのような「うるささ」や「憎らしさ」ではなく、命の衰退や秋の訪れによる哀切を捉えるのがポイントです。力なく障子や畳に止まる姿、叩こうとしてもどこか躊躇してしまうような心情、あるいは叩いた後の虚しさや手のひらの冷たさなどを描写すると、季語の持つ情緒が引き立ちます。視覚的な弱々しさ(薄い影、頼りない飛翔)や、微かな音に着目してみましょう。

相性のいい言葉・取り合わせ

・日常・室内の情景:障子、畳、行灯、机の端、薄明り ・動作・触覚:よろめく、這ふ、打つ、撫づ、冷たき掌 ・季節感・情調:秋深し、夜寒、灯影、寂けさ、うすき影

溢蚊」の俳句例 (3件)

溢蚊のよろよろと飛ぶ障子かな
正岡子規【現代語訳】季節からあぶれて生き残った蚊が、障子のあたりを力なくよろよろと頼りなげに飛んでいることだ。 【鑑賞】夏の勢いを完全に失い、白々とした障子の前をふらふらと飛ぶ蚊の姿をありのままに写生した一句です。「よろよろと」という平易なオノマトペによって、蚊の衰微と秋の冷え冷えとした空気感が見事に表現されています。
溢蚊を打つて淋しき掌かな
尾崎放哉【現代語訳】あぶれ蚊を叩いて殺したが、そのあとの自分の手のひらを見つめると、何とも言えない寂しさがこみ上げてくる。 【鑑賞】夏の蚊なら退治してすっきりするところを、弱り切った秋の蚊を叩いたことで、かえって無常感や自らの孤独が手のひらに残ってしまったという心情を詠んでいます。放哉らしい内省的で哀愁に満ちた作品です。
溢れ蚊の畳を這ふや秋深し
村上鬼城【現代語訳】季節に取り残された蚊が、飛ぶ力すらなく畳の上を這っている。いよいよ秋も深まったことだ。 【鑑賞】飛ぶことすらできずに畳を這う蚊の姿に、尽きかけている小さな命の哀れさと、容赦なく深まりゆく晩秋の冷涼な気配を重ね合わせています。小動物や弱者に対する鬼城の温かくも鋭い眼差しが感じられます。

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