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能村登四郎

のむらとしろう

作風・特徴

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代表句 (20件)

木葉山女水ゆたかなる淵にゐて
季語: 木葉山女 (autumn)
【現代語訳】木葉山女が、水が豊かに湛えられた深い淵の中にじっと潜んでいる。 【鑑賞】澄んだ豊かな水がたたえられる淵の深さと、そこに静かに身を潜める木葉山女の存在感を詠んだ句です。動かない水底の静けさの中に、魚の引き締まった生命感と晩秋の冷涼な空気感が美しく息づいています。
休暇明けて山川の気を持て余す
季語: 休暇明 (autumn)
【現代語訳】休暇が終わって日常の職場に戻ったものの、山や川で吸い込んできた大自然の気配やエネルギーを持て余してしまう。\n【鑑賞】自然の中で存分に英気を養ってきたものの、狭いオフィスや決まりきった日常の枠組みにすぐには馴染めない心身のギャップを「持て余す」と表現した、実感のこもった名句です。
京女鴫磯のひとひろ波かぶり
季語: 京女鴫 (autumn)
【現代語訳】京女鴫がいる磯のわずか一尋(ひとひろ)ほどの狭い岩場に、秋の荒波がざぶりとかぶりかかる。 【鑑賞】「ひとひろ(両手を広げたほどの広さ)」という空間の限定によって、小さな鳥とダイナミックに打ち寄せる波の対比を鮮明に描き出しています。波飛沫に耐える京女鴫の健気さと秋の海の厳しさが印象的です。
銀湾の底照りてゐる秋の潮
季語: 銀湾 (autumn)
【現代語訳】月光を受けて銀色に輝く湾の、その海底までもが透き通って光っているかのような秋の潮である。 【鑑賞】秋の澄みきった潮水と月の光の透明感を深く捉えた句です。海面だけでなく「底照りて」と海底にまで意識を届かせることで、銀湾の持つ清冽さと圧倒的な光の浸透感を余すところなく伝えています。
草の絮遠くへ行くと見えにけり
季語: 草の絮 (autumn)
【現代語訳】草の綿毛が、どこまでも遠くへ飛んでいこうとしているように見えたことだ。【鑑賞】風に乗ってふわりと浮かび上がった綿毛をじっと見送る作者の心情が伝わります。旅立つ小さな種子への共感と、秋の深まりゆく空の広大さがシンプルな言葉によって余韻深く表現されています。
草神輿子等の肩より浮きあがる
季語: 草神輿 (autumn)
【現代語訳】子供たちが担ぐ草神輿が、勢い余って子供たちの肩からふわりと宙へ浮き上がっている。 【鑑賞】子供たちが元気いっぱいに神輿を担ぐ躍動感と、草神輿ならではの軽やかさが「肩より浮きあがる」の一言で見事に表現されています。秋祭りの弾むような活気と微笑ましさが伝わってくる名句です。
ねぶた狂ひ闇に深雪を忘れをり
季語: 組みねぶた (autumn)
【現代語訳】ねぶたの熱狂に酔いしれる人々は、北国の夜の闇の中で、冬の厳しく深い雪のことなどすっかり忘れているようだ。 【鑑賞】津軽の厳しい冬の雪景色と、短い夏(初秋)の祭りに爆発する人々の凄まじい熱気を鮮やかに対比させた名句です。
黒やんま飛ぶや巨樹立つのちに海
季語: 黒やんま (autumn)
【現代語訳】黒やんまが飛んでいる。その先には巨大な樹がそびえ立ち、さらにその奥には広大な海が広がっている。 【鑑賞】小さな黒やんまの飛翔から視線が巨樹へ、そして無限に広がる海へと一気に広がる雄大なスケール感を持った句です。大自然の雄大さと、その中を一直線に飛ぶ黒やんまの毅然とした姿が見事に対比されています。
舞茸を煮つめし匂ひ暮れ易し
季語: 黒舞茸 (autumn)
【現代語訳】舞茸を鍋で煮詰める芳醇な匂いが立ちのぼるうちに、秋の日はあっという間に暮れてゆく。\n【鑑賞】舞茸を煮る強い匂いから、秋の日の短さ(暮れ易し)の実感へと繋げた作品です。台所から立ち込める温かな湯気と、外の急な夕暮れの冷え込みの対比が季節の深まりを感じさせます。
桂郎忌鋏を研いでをりにけり
季語: 桂郎忌 (autumn)
【現代語訳】桂郎忌の今日、静かに鋏を研いでいることだ。 【鑑賞】理髪師として生きた石川桂郎を偲び、職人の魂である鋏を手入れする姿を詠んだ一句。シャッシャッと砥石に当たる鋏の鋭い音が、晩秋の澄んだ空気に響き渡るような清冽さと、亡き友への深い敬慕が感じられます。
木の葉山女釣られしあとも水の中
季語: 木の葉山女 (autumn)
【現代語訳】木の葉山女が釣り上げられた後も、その記憶や存在の気配はなお澄んだ水の中に漂い続けているようだ。【鑑賞】釣り上げられた魚の命の余韻と、何事もなかったかのように流れる冷ややかな渓流の静寂を捉えた名句です。
源義忌の暮色にひらく古書ならむ
季語: 源義忌 (autumn)
【現代語訳】源義忌の夕暮れどき、黄昏の光の中で開くのはあの人が愛した古書であろうか。【鑑賞】国文学者として古典の研究に生涯を捧げた角川源義を偲び、夕暮れに開く「古書」を取り合わせた一句です。晩秋の静かな暮色と古書の佇まいが溶け合い、学問と俳諧に生きた源義の魂を静かに追憶しています。
紅玉の酸っぱさありて生きて来し
季語: 紅玉 (autumn)
【現代語訳】紅玉のあの鮮烈な酸っぱさのように、人生のほろ苦さや刺激を味わいながらこれまで生きてきたことだ。 【鑑賞】紅玉独特の強い酸味を、人生のさまざまな苦楽や辛酸に重ね合わせた滋味深い句です。甘いだけではない紅玉の味わいだからこそ、人間味のある長い人生の歩みと深く響き合っています。
櫨の実や野仏の肩日を溜めて
季語: 黄櫨木の実 (autumn)
【現代語訳】櫨の実が静かに揺れる道端で、野仏の石の肩に柔らかな秋の日差しがじっと溜まっている。【鑑賞】野道に佇む石仏と櫨の実の取り合わせが、晩秋の穏やかで少し切ない情緒を醸し出しています。「日を溜めて」という把握により、石の冷たさと秋の陽だまりの温もりが同時に感じられ、静謐な時間が流れる名句です。
黒雁のこゑ落ちて来し波頭
季語: 黒雁 (autumn)
【現代語訳】空を飛ぶ黒雁の声が、高く立ち上がる波頭めがけて落ちてきた。【鑑賞】上空を渡る黒雁の鋭い鳴き声が、激しく寄せる白波の上に吸い込まれるように響いた瞬間を捉えています。視覚的な海の荒々しさに鋭い聴覚的実感が重なり、晩秋の厳しい海辺の孤独感と張り詰めた空気が伝わってきます。
御難の餅拾ひたる手を持て余す
季語: 御難の餅 (autumn)
【現代語訳】人々にもみくちゃにされながら御難の餅を拾ったものの、その餅を握った手をどう扱ってよいか持て余している。\n【鑑賞】激しい餅撒きの争奪戦の中で偶然手に入れたありがたい餅。押し合いへし合いの興奮が冷めた直後、握りしめた餅の感触とともに、ふと我に返った瞬間の微妙な心理を捉えています。人間のふとした所作や心の揺らぎを巧みに描き出した一句です。
国体の炬火近づくや稲架襖
季語: 国体大会 (autumn)
【現代語訳】国体の聖火(炬火)を掲げた走者が近づいてくる。その傍らには、まるで襖のように高く稲架が掛け渡されている。\n【鑑賞】実りの秋を迎えて刈り取られた稲を干す「稲架襖(はざぶすま)」が広がるのどかな田園風景と、大会の熱気と象徴である「炬火」の走る動的な情景が鮮やかな対比をなしています。
青梨や母に似て来し掌のかたち
季語: 青梨 (autumn)
【現代語訳】青梨を手にとってみると、その梨を包む自分の掌の形が、いつの間にか亡き母の手に似てきたことに気づく。 【鑑賞】青梨の丸みと冷たさを掌で受け止めた瞬間、ふと亡き母の手の温もりや記憶が蘇る名句です。果実の冷涼さと、肉親への切なく温かい情愛の対比が深い余韻を残します。
鮭颪川の怒りを吹きぬけぬ
季語: 鮭颪 (autumn)
【現代語訳】激しく波立つ川がまるで怒っているかのように、冷たい鮭颪が容赦なく吹き抜けていった。 【鑑賞】産卵に遡上する鮭と抗う川の激しい流れを「川の怒り」と擬人化して捉え、そこに吹きすさぶ鮭颪の鋭さを描いています。北国の自然の凄まじいダイナミズムと緊迫感が凝縮された力強い名句です。
鮭の秋波頭立ちて暮れにけり
季語: 鮭の秋 (autumn)
【現代語訳】鮭が遡る秋の川に白波が立ち騒ぎ、あたりは冷え冷えと暮れていった。【鑑賞】川の流れの激しさと、暮れなずむ川辺の寒冷な空気感が鮮明に描かれています。「波頭」の白さと夕暮れの陰影の対比が、北国の秋の厳しさを物語っています。