火取香

火取香

ひとりこう

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意味・由来

「火取香(ひとりこう)」とは、衣服に香の香りを焚き染めるために用いる香炉や火取籠(ふせご)、またはそこで焚く香のことを指す秋の季語です。平安時代の貴族社会から続く雅やかな生活文化に由来し、朝夕の肌寒さを覚える秋の夜、着物に香をくゆらせて移り香を楽しんだり、防虫を兼ねて身支度を整えたりする習慣から生まれました。秋冷の深まりとともに立ちのぼる煙と芳香は、静かでどこか物寂しい秋の情趣を漂わせます。

この季語で詠むコツ

嗅覚に訴えかける香りの良さだけを詠むのではなく、香を焚く空間の静寂や、夜の深まり、秋の冷気といった周囲の環境と対比させることが大切です。衣服に香を移すという丁寧な仕草や、香が衣に馴染んでいく時間経過、あるいはその衣を身にまとう人物の心情(待ち人を思う心や孤独感など)を描写することで、奥行きのある句になります。

相性のいい言葉・取り合わせ

  • 身の回り・調度:「衣(ころも)」「袖」「几帳」「枕屏風」「灯影」
  • 時間・気配:「夜更け」「夜半」「静寂」「余波(なごり)」
  • 秋の体感:「夜寒(よさむ)」「秋冷」「そぞろ寒」「秋風」

火取香」の俳句例 (3件)

火取香や衣の裏の秋の風
与謝蕪村【現代語訳】火取香で香を焚き染めていると、衣の裏側に秋風がそっと吹き抜けていくようだ。【鑑賞】香の温もりある香りと、衣服の隙間を吹き抜ける秋風の冷たさという対比が鮮やかな名句です。嗅覚と触覚を同時に刺激し、深まりゆく秋の気配をしみじみと伝えています。
火取香に衣たきしめて人待たん
正岡子規【現代語訳】火取香で衣服にしっとりと香を焚き染めて、これから訪れる人を待つことにしよう。【鑑賞】古典的な雅の世界を自らの句に引き寄せて詠んだ一句です。香をくゆらせながら人を待つ時間の長さと、相手を迎えるための静かな期待や緊張感が余韻を残します。
火取香や女あるじの更くる夜に
炭太祇【現代語訳】火取香が静かに薫る中、この家の女主人は夜が更けるにつれて一人静かに過ごしている。【鑑賞】女性がひとり静かに香を焚きながら過ごす秋の更けゆく夜を描いています。人物の佇まいと立ちのぼる香の煙が重なり、上品で落ち着いた侘しさが醸し出されています。

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