妻越舟

妻越舟

つまこしぶね

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意味・由来

「妻越舟(つまこしぶね)」とは、初秋の七夕の夜に、彦星(牽牛)が織姫(織女)の待つ対岸へと天の川を渡る際に乗る小舟のことです。年に一度の逢瀬を果たすため、夫である牽牛が妻のもとへ水越えて通っていく舟であることから名付けられました。万葉集の時代から和歌に詠まれてきた天の川渡りの情景が俳諧にも受け継がれた季語であり、単なる天体観測にとどまらない、ロマンチックで神秘的な伝説の世界を背景に持っています。地上から見上げる秋の澄んだ夜空に、愛しい人を求めて漕ぎ渡る小さな舟の影を幻視する、優雅で情感あふれる季語です。

この季語で詠むコツ

伝説や神話に基づく季語ですので、現実の風景をただ描写するのではなく、研ぎ澄まされた想像力をもって天空の情景を思い描くことが大切です。満天の星々や広大な銀河のなかに、一艘の小舟という対比を作ることで、星空の壮大さと逢瀬の切なさが際立ちます。また、「櫂(かい)の音」や「川浪の気配」など、実際には聞こえないはずの天上の音を心で聴くように詠み込むと、静寂と詩情が一層深まります。

相性のいい言葉・取り合わせ

  • 天体・夜空:「天の川」「銀河」「星明かり」「星の湊(みなと)」「夜半(よわ)」
  • 舟・川の情景:「櫂」「棹(さお)」「浪」「漕ぎ出づ」「渡る」
  • 情緒・気配:「幽か(かすか)」「静けさ」「澄む」「仄か」

妻越舟」の俳句例 (3件)

妻越舟星の湊を出でにけり
正岡子規【現代語訳】妻のもとへ通う牽牛の舟が、星の湊(みなと)を今まさに漕ぎ出していったことだ。 【鑑賞】星々がひしめく天空の港から、年に一度の逢瀬のために天の川へ漕ぎ出す妻越舟を雄大に捉えた句です。「星の湊」という美しい措辞が、神話の壮大さとロマンティシズムを鮮やかに際立たせています。
妻越舟さす竿もなくわたりけり
松根東洋城【現代語訳】妻越舟は川底を突く竿さえも持たず、ただ天の川の静寂のなかを渡っていった。 【鑑賞】天上の川を渡る舟だからこそ、地上の舟のように川底に竿を差すこともなく、ふわりと虚空を流れるように進んでいく神秘性を詠んでいます。超現実的な静けさと、逢瀬へ向かうひたむきな心の動きが感じられます。
妻越舟天の川浪しづかなり
日野草城【現代語訳】牽牛を乗せた妻越舟が進んでいくが、天の川の波はどこまでも穏やかで静かである。 【鑑賞】星合(ほしあい)の夜の無風で澄み切った大気、そして波一つ立たない銀河の静穏を捉えた格調高い句です。愛しい妻のもとへと滑らかに渡っていく舟の姿を通して、秋の夜の深い静寂と安らぎが表現されています。

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