? - ?

西東三鬼

さいとうさんき

作風・特徴

作風の解説はまだ登録されていません。

代表句 (11件)

金えのころ日輪傾くばかりなり
季語: 金えのころ (autumn)
【現代語訳】金えのころの穂が群れて輝く野辺に、秋の太陽が沈み傾いてゆくばかりである。\n【鑑賞】夕暮れ時の広大な光景を捉えた一句。沈みゆく太陽の強烈な光と、その斜光を一心に浴びて金色に輝く金えのころの対比が壮大であり、秋の日の暮れやすさと自然の圧倒的な生命力を感じさせます。
銀漢や旅人われに影のなく
季語: 銀漢 (autumn)
【現代語訳】見上げる夜空には天の川が広がっているが、旅人である私には足元に影すらできていない。【鑑賞】頭上に広がる壮大な銀漢の輝きと、地上で影も落とさず一人佇む孤独な旅人としての自己を対比させた一句です。自己の存在の小ささと、秋の夜の冷たい静けさが鮮やかに描き出されています。
颶風去つて青嶺はもとの位置にあり
季語: 颶風 (autumn)
【現代語訳】猛烈な颶風が吹き荒れて過ぎ去ったあと、青々とした山嶺は何事もなかったかのように元の位置にどっしりと佇んでいる。 【鑑賞】天地を揺るがすような大暴風雨が去った後の鮮明な静けさを描いた名句です。すべてを吹き飛ばすかのような嵐の激しさと、それにビクともせず元の場所に青くそびえる山の不動の姿との鮮烈な対比が、自然の雄大さと理を際立たせています。
赤げらの飛び立つ赤の失せにけり
季語: 赤げら (autumn)
【現代語訳】赤げらが飛び立った瞬間、その鮮やかだった赤色が視界からふっと消え去ってしまった。 【鑑賞】木にとまっていた赤げらの鮮烈な赤い羽色が、羽ばたいて飛び去ると同時に森の奥へかき消される一瞬の動態を捉えています。色の消失とともに訪れる秋の林の静寂と、視覚の鮮烈な余韻が強く心に残る名句です。
鳥渡る雲なき空を傷つけて
季語: 朝鳥渡る (autumn)
【現代語訳】一点の曇りもない秋の青空を、渡り鳥の鋭い飛翔がまるで傷をつけるかのように横切っていく。 【鑑賞】澄み切った秋の空に一直線に切り込んでいく渡り鳥の姿を「空を傷つけて」と斬新な感覚で捉えた一句です。朝の冷徹な空気と、張り詰めた緊張感、渡り鳥の激しい生の意志が見事に表現されています。
荒地野菊貧しき町を愛すべし
季語: 野塘菊 (autumn)
【現代語訳】荒地野菊が咲くようなこの貧しい町であるが、自分はこの町を愛さねばならない(愛そう)。【鑑賞】飾らない市井の人々の暮らしや、うらぶれた町の佇まいへの深い愛着と哀愁が、荒地にひっそりと咲く野塘菊の姿に重ね合わされています。
水蜜桃みどりごの頬の如く冷ゆ
季語: 水蜜桃 (autumn)
【現代語訳】よく冷やした水蜜桃は、まるで生まれたばかりの赤ん坊の頬のように柔らかく冷えている。\n【鑑賞】冷やした桃の感触を「みどりご(乳児)の頬」に喩えた直喩が鮮やかです。みずみずしく柔らかな生命力と、かすかなひんやりとした触感が読者の肌に直接伝わってくる名句です。
台風の眼に入りて街の明るさよ
季語: 台風 (autumn)
【現代語訳】台風の眼に入った途端、それまでの暴風雨が嘘のように街に光が差し込み、明るくなったことよ。【鑑賞】暴風雨の真ん中に存在する一瞬の無風と静寂、そして射し込む光のコントラストを鮮烈に捉えています。不気味なほどの明るさが読む者に強い印象を残します。
台風裡妻を離れて坐りけり
季語: 台風裡 (autumn)
【現代語訳】台風の吹き荒れるただ中、私は妻と少し距離を置いて、一人静かに坐っている。 【鑑賞】嵐という非常事態に直面したとき、身を寄せ合うのではなく、あえて妻から少し離れて坐るという距離感に、人間関係の複雑な心理や孤独感が描かれています。吹き荒れる暴風雨が、かえって二人の間の沈黙と緊張感を浮き彫りにしています。
穭田にぽつかり浮ぶ鳥海山
季語: (autumn)
【現代語訳】稲刈り後のひこばえが一面に青々と茂る穭田の彼方に、名峰・鳥海山がぽっかりと浮かぶように美しくそびえている。\n【鑑賞】刈り取られて開けた田の彼方に、秋の澄んだ大気を通して東北の名山・鳥海山が見えています。「ぽつかり浮ぶ」という軽やかな措辞が、雄大な山容と穭田の広々とした空間を見事に切り取っています。
昼花火青天を撃ち消えにけり
季語: 昼花火 (autumn)
【現代語訳】昼花火が秋の青空を撃ち抜くように鳴り響き、あっけなく煙となって消えてしまった。 【鑑賞】「青天を撃ち」という鋭利な動詞の選び方に、三鬼独特の緊張感とモダンな感性が光ります。一瞬の激しい爆発と、その直後に訪れる秋晴れの虚無的な静寂との落差が見事に表現されています。