1886年 - 1980年

阿部みどり女

あべみどりじょ

作風・特徴

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生涯・略歴

阿部 みどり女(あべ みどりじょ、1886年10月26日 - 1980年9月10日)は、日本の俳人。本名はミツ。北海道札幌区(現・札幌市)生まれ。

代表句 (20件)

牛蒡掘る力尽くにてなかりけり
季語: 牛蒡掘る (autumn)
【現代語訳】牛蒡を掘り起こすという作業は、ただ力任せに引っ張ればよいというものではなく、コツや技術が必要なものなのだなぁ。 【鑑賞】実際に牛蒡掘りを体験した、あるいは間近で観察したからこそ生まれる、実感を伴った発見の句です。力任せにやると折れてしまう牛蒡掘りの繊細な難しさと、大地の恵みに対する謙虚な姿勢が伝わります。
栗茸やなほ新しき木の切り口
季語: 栗茸 (autumn)
【現代語訳】切り倒されたばかりの瑞々しい木の切り口に、早くも栗茸が生えているのを見つけた。【鑑賞】「新しき切り口」という清潔感のある白い木肌と、そこに自生する栗茸の赤褐色との鮮やかなコントラストが印象的です。森の生命力や自然の循環を感じさせる名句です。
刈安や青みにうつる山の影
季語: 刈安 (autumn)
【現代語訳】刈安の生い茂る野原に、山影が少し青みを帯びて静かに落ちていることよ。【鑑賞】刈安の持つ淡い黄色の風情と、山が落とす青みがかった影の色彩の対比が非常に美しい作品です。静謐で落ち着いた秋の一瞬を切り取っています。
末枯や草のまにまに赤き土
季語: 末枯の野山 (autumn)
【現代語訳】草の葉先が枯れ果てていく中で、その枯れ草の隙間から赤土がのぞいて見えている。【鑑賞】草が枯れることで、普段は見えなかった大地の赤土が露わになる様子を捉えています。色彩の対比(枯れ草の褐色と赤土の赤)が鮮やかで、視覚的な美しさと晩秋の哀愁を伝えています。
逃水のどこかで途切るハイウェイ
季語: 逃水 (spring)
【現代語訳】高速道路のはるか前方にゆらめいていた逃水が、スピードを上げて進むにつれて、ある瞬間にふっと途切れて消え去ってしまった。【鑑賞】現代的な「ハイウェイ」というスピード感あふれる舞台と、古典的な蜃気楼である「逃水」を取り合わせることで、乾いた現代都市の叙情を見事に表現しています。
栗鹿の子箸に重たき一ト塊
季語: 栗鹿の子 (autumn)
【現代語訳】出された栗鹿の子を箸で持ち上げると、ずっしりとした重みがその一塊に感じられる。【鑑賞】栗がぎっしりと詰まった栗鹿の子の、贅沢な質量感を「箸に重たき」と端的に写生しています。食べる直前の期待感と、秋の恵みの豊かさが、箸を通した触覚から見事に伝わってくる句です。
竿燈のしなりて闇を押しひろぐ
季語: 竿灯 (autumn)
【現代語訳】竿灯の竹がしなやかに大きくしなって、夜の深い暗闇を押し広げるかのように、黄金色の提灯の光が広がっていくことよ。【鑑賞】大正・昭和期に活躍した女流俳人、阿部みどり女による名句。竿灯が大きく揺れる「しなり」という動きに着目し、その光が夜の闇を圧倒していくダイナミックな光景を「闇を押しひろぐ」と鮮やかに表現しています。
姫田螺水底にして光あり
季語: 姫田螺 (spring)
【現代語訳】姫タニシが沈んでいる深い水底にも、確かな春の光が届いている。 【鑑賞】水底という暗くなりがちな場所に目を向けつつも、そこに満ちる春の光を描くことで、水全体の温もりと春の生命力を伝えています。
菊枕ほのかなる香に夢多し
季語: 菊枕 (autumn)
【現代語訳】菊枕から漂うほんのりとした香りに包まれて眠ると、さまざまな夢を見るものだ。【鑑賞】菊の香りがもたらす安らぎや不思議な薬効を感じつつ、深い眠りのなかでいくつもの夢をたどる秋の夜の豊かな時間が、穏やかで優美な調子で詠まれています。
岸釣の糸のさきなる秋の雲
季語: 岸釣 (autumn)
【現代語訳】岸辺から伸ばした釣糸の視線の先には、澄み渡った大空に秋の雲が浮かんでいる。【鑑賞】水面に垂らした釣糸を追う視線が、そのまま水面に映る空、あるいは見上げた大空の秋の雲へと広がっていくスケール感が魅力です。のんびりとした秋の一日の穏やかな空気感が心地よく表現されています。
茸干すや天の青さの惜しげなく
季語: 茸干す (autumn)
【現代語訳】茸を干していると、秋の澄み切った大空の青さが惜しげもなく広がっている。【鑑賞】茸を乾かすのに絶好の秋晴れの心地よさを、どこまでも高い空の豊かな青さに託して爽やかに詠み上げた名句です。
貴船菊咲きて水打つ夕べかな
季語: 貴船菊 (autumn)
【現代語訳】貴船菊が咲いており、その傍らに打ち水をする秋の夕暮れ時であることよ。【鑑賞】夕涼みの打ち水によって立ち上る清涼な空気感と、貴船菊の清楚な佇まいが見事に調和しています。一日の終わりを迎えるしっとりとした秋の夕景が生き生きと伝わってきます。
金魚花火水の中にて消えにけり
季語: 金魚花火 (autumn)
【現代語訳】金魚花火が、水の中で光を散らしながら消えてしまったことだ。 【鑑賞】水面を賑やかに走り回っていた花火が、ふっと水の中に潜り、そのまま光を失って消えていく儚さを詠んだ句です。「消えにけり」という詠嘆の切れ字により、花火が消えたあとの急な暗闇と静けさ、そして秋の夜の寂寥感が際立っています。
霧雫ぽたりと肩へ山路かな
季語: 霧雫 (autumn)
【現代語訳】山道を歩いていると、木々に付いた霧雫がぽたりと肩に落ちてきた。【鑑賞】山霧の中を歩く体感を「肩へぽたり」という一瞬の触感で鋭く捉えています。秋の山路の静寂と肌寒さが滴の感触を通して生き生きと伝わってくる秀逸な一句です。
草花売の荷に撫子のはなやかに
季語: 草花売 (autumn)
【現代語訳】草花売が担ぐ荷の中に、撫子の花がひときわ華やかに咲き誇っている。\n【鑑賞】秋の草花売の荷車や天秤棒に積まれた花々の中で、可憐で鮮やかな撫子の花に目を奪われた瞬間を素直に詠んでいます。落ち着いた秋の街並みの中で、そこだけぱっと明るく華やぐ色彩の対比が印象的です。
栗強飯湯気たつごとく客来り
季語: 栗おこは (autumn)
【現代語訳】栗おこわの蒸籠からホカホカと湯気が立ちのぼる、ちょうどその絶妙なタイミングで来客があった。\n【鑑賞】蒸したての栗おこわの賑やかな湯気と、思いがけない来客の嬉しさが重なり合っています。家の中が一気に華やぎ、秋の歓待の空気に満たされる瞬間を見事に捉えた一句です。
赤ましこ草の実こぼす日向かな
季語: 赤猿子 (autumn)
【現代語訳】赤猿子が柔らかな日向で草の実をついばみ、ぽろぽろとこぼしている。 【鑑賞】晩秋の穏やかな小春日和のなか、せっせと餌を食べる赤猿子の愛らしい動作を細やかにスケッチした、温もりのある作品です。
羞を養ふ群鳥鳴きて夕づきぬ
季語: 羣鳥羞を養ふ (autumn)
【現代語訳】冬越しの餌を蓄えようと鳥たちが賑やかに鳴き交わすうちに、あたりはすっかり夕暮れていった。 【鑑賞】鳥たちの忙しない鳴き声と、急速につるべ落としに暮れていく秋の夕景の対比が見事です。どこか寂しげな秋の気配が美しく表現されています。
小梨の実落ちて山路のしめりけり
季語: 小梨 (autumn)
【現代語訳】小梨の実がぽろぽろと落ちて、山道がしっとりと湿っている。 【鑑賞】足元に落ちた小梨の実と、朝露や霧で濡れた山道の土の質感を描いています。高原のひんやりとした秋の空気感と静寂が、肌感覚として伝わってきます。
御難の餅拾ひて袂重からず
季語: 御難の餅 (autumn)
【現代語訳】まかれた御難の餅を拾って着物の袂に入れたが、少しも重く感じられないことだ。\n【鑑賞】災難除けのありがたいお餅を無事に拾い得た喜びと軽やかな足取りが、「袂重からず」という表現によく表れています。持ち帰る餅の重みさえ心地よく、信仰の安らぎと秋夜のすがすがしさが素直に詠み込まれた佳句です。