蚊帳に雁を描く
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蚊帳に雁を描く

かやにかりをえがく

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意味・由来

「蚊帳に雁を描く(かやにかりをえがく)」、または「蚊帳の雁(かやのかり)」とは、秋の初めに用いられる非常に風雅な季語です。かつて、蚊帳の破れた部分やほころびを繕う(補修する)際、ただの四角い端切れをあてるのではなく、秋の訪れを象徴する「雁(かり)」の姿に切り抜いた青い布などを縫いつける粋な風習がありました。実用的な生活の知恵の中に、季節の移ろいを楽しむ繊細な美意識が込められた、日本ならではの温かみのある言葉です。

この季語で詠むコツ

この季語を詠む際は、本物の雁が大空を渡っていくダイナミックな光景とは対照的に、室内という極めてプライベートで静かな空間に目を向けるのがコツです。蚊帳という「夏のなごり」と、雁という「秋の気配」が同居する独特の空気感を意識しましょう。窓から入り込む秋の冷気(夜寒)や、かすかな秋風に揺れる蚊帳の様子、灯火に照らされる雁の影などを描写することで、生活に密着した旅情や寂寥感を表現できます。

相性のいい言葉・取り合わせ

  • 気候・時間: 「秋風(あきかぜ)」「夜寒(よさむ)」「灯火(ともしび)」「有明(ありあけ)」
  • 動き・状態: 「ほころび」「繕う(つくろう)」「揺るる」「とどまる」
  • 色彩・感覚: 「薄青き」「かすかなる」「冷ややかに」「針のあと」

蚊帳に雁を描く」の俳句例 (3件)

蚊帳の雁いつ飛び去りて秋の風
正岡子規【現代語訳】蚊帳に縫い付けられていたあの雁は、いつの間にかどこかへ飛び去ってしまったのだろうか。今では蚊帳も取り払われ、ただ寂しい秋の風が吹き抜けている。【鑑賞】役目を終えた蚊帳が片付けられた時の実感を詠んでいます。蚊帳の取り外しを「雁が飛び去った」と表現することで、本格的な秋の訪れと一抹の寂しさを鮮やかに引き出しています。
蚊帳の雁ふかれて飛ぶや秋の風
与謝蕪村【現代語訳】蚊帳の破れを繕った雁の縫い目が、窓から入る風に吹かれて、まるで本物の雁が秋空を飛んでいるかのように揺れていることだよ。【鑑賞】蚊帳が風に揺れる様子を、布に縫い付けられた「雁」が羽ばたいていると見立てた蕪村らしい絵画的な一瞬です。生活のなかの小さな工夫を風流に捉えています。
蚊帳の雁まだ旅だたぬ夜寒かな
夏目漱石【現代語訳】蚊帳に縫い留められた雁は、本物の雁のように北国へ旅立つこともなくそこに留まっているが、夜はいよいよ寒くなってきたことだなあ。【鑑賞】秋が深まり夜寒を覚えるようになっても、まだ蚊帳を片付けずにいる生活感を詠んでいます。旅立てない「蚊帳の雁」への、漱石らしいユーモラスで少し哀愁を帯びた眼差しが印象的です。

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