柿の蒂落
autumn 生活

柿の蒂落

かきのほぞおち

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意味・由来

「柿の蒂(ほぞ)」とは、柿の果実のヘタ(萼)のことです。「柿の蒂落」は、熟した柿の実からヘタがぽろりと外れて落ちる現象、あるいは落ちて転がっているヘタそのものを指す晩秋の季語です。「ほぞ」とは「臍(へそ)」を意味し、果実と枝を繋ぐ生命の結び目であった部分です。秋が深まり、柿の甘い果実が収穫されたり食べられたりした後に、役目を終えたヘタだけが取り残されて落ちていく様子は、去りゆく秋の寂しさと冬の訪れを予感させます。

この季語で詠むコツ

柿の実そのものの鮮やかな橙色や甘さとは対照的に、地味で乾燥した「ヘタ」に焦点を当てるため、引き算の美学が求められます。落ちる一瞬の動的な瞬間よりも、落ちた後にその場に馴染んでいる「静かな時間の経過」を詠み込むのがコツです。主観的な感情を押し出すのではなく、ヘタが置かれた場所(畳、瓦、机など)の質感や光の当たり方を客観的に描写することで、かえって深い情緒や人生の哀愁がにじみ出ます。

相性のいい言葉・取り合わせ

  • 場所を特定する名詞: 畳(たたみ)、机(つくえ)、瓦(かわら)、縁側(えんがわ)、日向(ひなた)
  • 時間の経過を表す表現: 久しき、そのまま、乾ける、いつしか、埃(ほこり)
  • 静けさや質感を伝える言葉: 陰(かげ)、くぼみ、静けさ、冷たき、風のあと

柿の蒂落」の俳句例 (3件)

柿のほぞ落ちて畳のくぼみかな
松瀬青々【現代語訳】柿のヘタが畳の上に落ちている。そのヘタの重みで、あるいはそこにあった時間のせいで、畳が少し窪んでいるように見えることだ。 【鑑賞】「畳のくぼみ」という、極めて微細な物理的・視覚的な発見に焦点を当てたユーモラスで写実的な一句です。実際に畳が深く沈むほどの重さはない柿のヘタですが、長い時間そこにあったことで、畳の目の陰影がそのように見せているのかもしれません。日常の生活空間の中に潜む、小さく愛おしい変化を鋭くとらえています。
柿の蒂の落ちて久しき畳かな
正岡子規【現代語訳】柿のヘタがぽとりと畳の上に落ちてから、もうずいぶんと長い時間が経っていることだなあ。 【鑑賞】子規の病床での鋭い観察眼と静かな日常が投影された、この季語の代表的な名句です。病気のために自由に動くことができない子規が、ふと目を落とした畳の上にある柿のヘタ。それがずいぶん前からそこにあることに気づき、自分を取り巻く静かで単調な時間の流れと、どこか物寂しい秋の深まりを淡々と表現しています。
柿のほぞ落ちて久しき机かな
芝不器男【現代語訳】柿のヘタが机の上に落ちてから、ずいぶんと長い時間が経ってそのままになっていることよ。 【鑑賞】子規の「畳かな」を意識しつつ、舞台を「机」に移して詠まれた名作です。書斎や勉強机の上に転がったままになっている柿のヘタ。主が何かに没頭しているのか、あるいは部屋がしばらく使われていないのか、静まり返った部屋の空気感と、取り残されたヘタの存在感が際立ちます。若くして夭折した不器男の、繊細で張り詰めた美意識が感じられる一句です。

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