1869年 - ?

松瀬青々

まつせせいせい

作風・特徴

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生涯・略歴

松瀬 青々(まつせ せいせい、明治2年4月4日(1869年5月15日) - 昭和12年(1937年)1月9日)は、日本の俳人。「倦鳥」を創刊・主宰。関西俳壇で高濱虛子主宰の「ホトトギス」と一線を劃す俳人として重きをなした。

代表句 (20件)

鎌はじめ山おろしたつ露の中
季語: 鎌はじめ (autumn)
【現代語訳】いよいよ稲刈りを始めるこの早朝、山から吹き下ろす冷たい風が立ち込める、深い朝露の中で鎌を使い始める。 【鑑賞】早朝のひんやりとした山の空気と、稲穂を瑞々しく濡らす露。農村の厳しいながらも美しい自然環境と、そこで汗を流す人間の力強さを感じさせる名句です。
雁の書を読み落したる夕日かな
季語: 雁の書 (autumn)
【現代語訳】空を渡る雁たちが描く文字を読み落としてしまったかのように、夕日は沈み、あっけなく空が暗くなっていく。【鑑賞】空を便りに見立て、夕日という大きな存在がそのメッセージ(雁の書)を読み損ねたまま沈んでいくという、壮大かつユーモラスな見立てが光る作品です。
柿のほぞ落ちて畳のくぼみかな
季語: 柿の蒂落 (autumn)
【現代語訳】柿のヘタが畳の上に落ちている。そのヘタの重みで、あるいはそこにあった時間のせいで、畳が少し窪んでいるように見えることだ。 【鑑賞】「畳のくぼみ」という、極めて微細な物理的・視覚的な発見に焦点を当てたユーモラスで写実的な一句です。実際に畳が深く沈むほどの重さはない柿のヘタですが、長い時間そこにあったことで、畳の目の陰影がそのように見せているのかもしれません。日常の生活空間の中に潜む、小さく愛おしい変化を鋭くとらえています。
草の穂や皆一やうに風の吹く
季語: 草の穂 (autumn)
【現代語訳】草の穂がそよいでいる。どの草の穂も、吹き渡る風に合わせてみな一様に同じ方向へと揺れていることだ。【鑑賞】風の動きが草の穂の揺れによって可視化されている様子を見事に捉えた一句です。「皆一やうに」という表現から、広大な野原に広がる草の穂が一斉に風になびく、秋の静かで大きな自然の営みが感じられます。
かけ踊のうしろ姿や月明き
季語: かけ踊 (autumn)
【現代語訳】激しく舞い踊るかけ踊の、その踊り手の後ろ姿に、冴え渡る秋の月光が美しく照り映えていることよ。\n【鑑賞】静寂を保つ月の光と、激しく動き回る踊り手の動的な美しさが、実に見事な対比を見せています。踊り手を正面から捉えるのではなく、「うしろ姿」に着目することで、祭りの興奮のなかに漂う哀愁や、どこか神秘的な雰囲気を引き出しています。
玉兎波にくだけて躍りけり
季語: 玉兎 (autumn)
【現代語訳】水面に映った美しい月影(玉兎)が、波が立つたびに細かく砕け、まるでウサギが楽しげに跳ね回っているかのようである。 【鑑賞】水面に揺れる月光のきらめきを「玉兎」と捉え、波の動きによる光の明滅をウサギの躍動的な動きに見立てています。静かな夜の中に、視覚的な楽しさと生き生きとしたリズムを感じさせる名作です。
懸巣来て何かこぼせり松の枝
季語: 懸巣 (autumn)
【現代語訳】カケスが飛んできて松の枝にとまり、何か(松笠の種やドングリなど)をこぼし落として去っていった。\n【鑑賞】カケスのせわしない動きや、木の実を蓄える習性を捉えた一瞬のスケッチです。静かな松林に、カサリと何かが落ちたかすかな音まで聞こえてくるような愛嬌のある句です。
観菊の御宴や菊の盛りなる
季語: 観菊御宴 (autumn)
【現代語訳】宮中での観菊の宴が華やかに催されており、庭園の菊の花もまさに今が満開の時期を迎えている。【鑑賞】格式高い宮中行事の開催と、自然の美である菊の満開が見事に合致した瞬間を、真っ直ぐに表現して讃えた格調高い一句です。
木の実だんごに庵の煙や秋の風
季語: 木の実団子 (autumn)
【現代語訳】粗末な庵から立ち上る煙。その庵で作られているのだろう、木の実団子を茹でる煙に、秋の風が静かに吹き抜けていく。【鑑賞】山里の静かな庵の暮らしを、温かみのある生活感とともに描いています。木の実団子を作る竈から立ち上る煙と、それをそよそよと流す寂しげな「秋の風」。素朴な食べ物を作る日常の営みが、秋の哀愁をまとって優しく表現されています。
月下の門たたくともなき山路かな
季語: 月下 (autumn)
【現代語訳】月明かりに照らされた静かな山道を行くと門があるが、そこを訪ねて叩く人など誰もいない、寂しい山路であることよ。【鑑賞】賈島の故事「僧は推す月下の門」を想起させつつも、訪れる者のない静寂を詠んでいます。月の光に照らされた孤独で美しい山中の風景が、水墨画のように目の前に浮かび上がります。
小鳥来る音や障子のうす曇り
季語: 小鳥来る (autumn)
【現代語訳】障子が薄曇りの柔らかな光を帯びて静まっている部屋に、小鳥たちがやってきて、かすかな羽音やさえずりが聞こえてくることだ。【鑑賞】静かな秋の一日、障子に映る淡い光の中で、渡ってきた小鳥の気配を耳で繊細に捉えた一句です。視覚と聴覚が見事に調和しています。
鷹網をまきて下るや夕日影
季語: 鷹網 (autumn)
【現代語訳】一日の猟を終えて鷹網を巻き取り、山を下りていくと、寂しげな夕日の光がその背中を照らしている。【鑑賞】緊張感に満ちた一日の終わりを告げる「網をまく」という動作と、秋の短い一日の終焉を象徴する「夕日影」が重なり、安堵感と一抹の寂しさが漂う名作です。
茸飯たけば山寺の夕まぐれ
季語: 茸飯 (autumn)
【現代語訳】茸飯を炊いていると、山寺にすっかり秋の夕暮れが迫ってきた。 【鑑賞】静寂に包まれた山寺の夕暮れと、茸飯の香りが絶妙に調和しています。山深い寺での素朴な夕食の支度と、暮れゆく秋の情景が目に浮かぶような情緒豊かな作品です。
貴船神事水の響の夜となりぬ
季語: 貴船神事 (autumn)
【現代語訳】貴船神事の当日、清らかな水の音が響き渡るなか、しずしずと夜が更けていった。【鑑賞】京都の奥座敷である貴船神社の静寂と、絶え間なく響く水の音、そして神事の荘厳な夜の雰囲気を美しく捉えた一句です。
花扇の使にあふて通り町
季語: 花扇の使 (autumn)
【現代語訳】町の大通りを歩いていると、ちょうど花扇を届ける使者に行き逢ったことだよ。 【鑑賞】日常の町歩きの中で、ふと晴れがましい「花扇の使」とすれ違った瞬間の驚きと華やぎを素直に詠んでいます。伝統行事が息づく街の活気と、季節の移ろいが生き生きと捉えられています。
高台寺殿忌の萩白うして
季語: 高台寺殿忌 (autumn)
【現代語訳】高台寺殿忌のこの日、境内に咲く萩の花が白く清らかに咲き誇っている。【鑑賞】白萩の清楚で慎ましやかな姿を、豊臣秀吉亡きあと仏門に入り静かに余生を過ごした高台院(ねね)の気品ある人柄に重ね合わせた一句です。
兄鷂の小さきがとぶよ黍の風
季語: 兄鷂 (autumn)
【現代語訳】ハイタカの雄である小さな兄鷂が、黍の穂を揺らす秋風の中を素早く飛んでゆくことよ。 【鑑賞】黍(きび)の実る秋の田野を舞台に、小柄な兄鷂が風を切って軽快に飛翔する姿を捉えた一句です。「小さきがとぶよ」という素直な感嘆の中に、兄鷂ならではの敏捷で愛らしい存在感が生き生きと描き出されています。
家鴨鳴く椎の小枝の時雨かな
季語: 椎の小枝 (autumn)
【現代語訳】秋の冷たい時雨が降る中、家鴨が鳴き声を上げ、椎の小枝を雨粒が濡らしている情景である。\n【鑑賞】雨に濡れる椎の濃い葉や小枝と、そこに響く家鴨ののどかでどこか寂しげな鳴き声が、晩秋のしっとりとした静寂と風情を見事に捉えています。
秋の音のまづ立ちそめし障子かな
季語: 秋の音 (autumn)
【現代語訳】秋の気配を告げる音が、まず初めにこの障子のあたりから聞こえ始めたことだよ。 【鑑賞】風が障子をかすかに鳴らす音によって、季節が秋へと移り変わったことを鋭敏に捉えた句です。視覚ではなく、紙一枚を隔てた微細な音の変化に耳を澄ませることで、暮らしの中に忍び寄る秋の訪れを見事に表現しています。
秋の錦畳みて山の暮れにけり
季語: 秋の錦 (autumn)
【現代語訳】山を華麗に彩っていた秋の錦も、日没とともに光を失い、まるで折り畳まれるように静かに暮れていった。【鑑賞】夕闇によって鮮やかな紅葉が見えなくなっていく様子を「錦を畳む」と見立てた名句です。昼間の極彩色の世界がしっとりと夜の帳に包まれていく、晩秋特有の静けさと移ろいの儚さが巧みに表現されています。