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草間時彦

くさまときひこ

作風・特徴

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代表句 (11件)

栗きんとん小夜更けがたに届きけり
季語: 栗きんとん (autumn)
【現代語訳】夜がすっかり更けた頃に、思いがけず栗きんとんが届けられたことだ。【鑑賞】夜遅くに届いた秋の味覚に、親しい間柄ならではの温かな交流と意外な喜びが感じられます。静まり返った夜長と、甘く素朴な栗きんとんの対比が心地よい一句です。
苺植う手もて手紙をひらきけり
季語: 苺の株分 (autumn)
【現代語訳】苺の苗を植えていたその手で、届いたばかりの手紙を開封したのだった。 【鑑賞】土で汚れた手、あるいは急いで水で洗ったばかりの手で手紙を開くという、日常の何気ない動作を鮮やかに切り取っています。庭仕事の土の匂いと、届いた手紙への期待感が鮮やかに対比されている佳句です。
水洟や薄黄木犀咲き出づる
季語: 薄黄木犀 (autumn)
【現代語訳】秋の冷気ですすりあげる鼻水が出ていることだ。そんな折、庭の薄黄木犀が静かに咲き始めた。【鑑賞】季節の変わり目の肌寒さを「水洟」という日常的で生々しい実感で捉え、そこに咲き始めた薄黄木犀の清楚な花を対置させています。少し寒々しい体感と、ひっそり咲く花の香りが秋の訪れを巧みに表現しています。
扇灯籠裏の美人を惜しみけり
季語: 扇灯籠 (autumn)
【現代語訳】扇灯籠の表の武者絵が通り過ぎ、裏側に描かれた見送りの美人が去っていくのを名残惜しく見つめた。 【鑑賞】扇灯籠の表面には勇壮な合戦図(表絵)、裏面には哀愁を帯びた美人画(見送り絵)が描かれるのが特徴です。通り過ぎていく美しい後姿を見送る心情に、過ぎ去る祭りと秋の深まりへの哀愁が重ねられています。
終戦日母を恋ひつつ歩きけり
季語: 終戦日 (autumn)
【現代語訳】終戦の日、亡き母への恋しさを胸に抱きながら、ただひとり歩いたことだ。 【鑑賞】国家や戦争という大きな歴史の節目において、作者は壮大な思想ではなく「母への情愛」という極めて個人的で純粋な心情に身を寄せています。母を思いつつ歩く足音から、戦争を生き抜いたひとりの人間の孤独と哀切、そして命の尊厳が胸に迫ります。
根魚の大き口あく釣落し
季語: 根魚 (autumn)
【現代語訳】釣り上げようとした根魚が、その大きな口を開けた瞬間、針が外れて海へ逃げられてしまった。 【鑑賞】磯釣りの悔しい一瞬を鮮やかに切り取った写生句です。カサゴなどの根魚特有の大きな口が水面でパカッと開き、次の瞬間には海底へと消え去っていく動的な焦燥感が、無駄のない言葉運びによって巧みに表現されています。
台風圏にいつちよの傘を乾しにけり
季語: 台風 (autumn)
【現代語訳】台風の影響圏内にいる中で、たった一本きりの愛用の傘を広げて乾かしていることだ。【鑑賞】「いつちよ(一丁)」という俗語的表現が効いており、大自然の猛威である台風に対して、たった一本の傘で暮らす庶民の哀愁とユーモアが軽妙に描かれています。
落葵の実をつぶしつゝ老いにけり
季語: 落葵 (autumn)
【現代語訳】落葵の熟れた実を指でプチプチと潰しながら、ふと自分もこうして年老いてしまったのだなあとしみじみ思うことだ。\n【鑑賞】落葵の実は潰すと濃い紫の汁が出ます。何気なく実を潰す指先の感触と、鮮やかに染まる皮膚の生々しさが、老いゆく肉体への内省と見事に重なり合っています。枯淡でありながら人間の情念を感じさせる名句です。
南部の火祭天にとどろく火柱あり
季語: 南部の火祭 (autumn)
【現代語訳】南部の火祭の場では、天まで届かんばかりに音を立てて燃え盛る火柱が立っている。 【鑑賞】「投げ松明」や巨大な篝火が夜空高く突き刺さるような迫力を「とどろく火柱」と捉えました。初秋の冷気を含み始めた夜気を突き破るような火の熱量と、祭りの圧倒的な躍動感を真正面から詠み切っています。
花縮砂白を極めて暮れにけり
季語: 花縮砂 (autumn)
【現代語訳】花縮砂がこれ以上ないほどの純白をきわめ、そのまま夕暮れが訪れたことよ。【鑑賞】黄昏の薄闇の中で、花縮砂の白さが一段と際立ち、発光するかのように純度を増していく情景を端的に捉えています。色と光が静かに闇に溶け込んでいく美しさを詠んだ名句です。
日前祭過ぎて十月の海青し
季語: 日前国懸祭 (autumn)
【現代語訳】日前宮の秋祭りが終わり、十月の海を見渡せば、どこまでも深く青く澄みわたっている。 【鑑賞】祭りが終わった安堵感とともに、いよいよ秋が深まっていく季節の推移を詠んだ句です。紀州の広大な海景の青さと、祭りの余韻が重なり合い、季節の移ろいを感じさせる鮮烈な色彩美が魅力です。