月の蝕

月の蝕

つきのしょく

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意味・由来

「月の蝕(つきのしょく)」とは、太陽・地球・月が一直線に並び、満月が地球の影に入り込んで隠れる現象「月食」のことです。俳句において単に「月」といえば秋の澄んだ満月を指すため、月の満ち欠けや異変に関わる「月の蝕」も秋の季語として分類されます。煌々と輝く満月が次第に翳り、ときに不気味で妖艶な赤銅色(赤黒い色)に染まってから再び元の輝きを取り戻す劇的な天変は、古来より人々に神秘と原初的な畏怖を抱かせてきました。

この季語で詠むコツ

天体が欠けていく様子をそのまま実況描写するだけでは説明的になりがちです。月蝕がもたらす「急激な闇」「冷気」「地上の静寂」、あるいは普段は月の光に隠れていた星々や雲が浮かび上がる変化などに着目すると効果的です。また、宇宙の神秘に直面した際の心理的な緊張感や、孤独・畏怖といった人間の原初的な感覚と取り合わせることで、スケールの大きな句になります。

相性のいい言葉・取り合わせ

  • 色・光の言葉:「赤銅色(しゃくどういろ)」「闇」「翳(かげ)り」「星明かり」「暗転」
  • 感覚・心理の言葉:「息をのむ」「冷気」「畏怖」「身震い」「凝視」
  • 地上の情景:「街の灯」「夜鳥」「水面の揺らぎ」「夜風」「影」

月の蝕」の俳句例 (3件)

月蝕やいま生きものの眼をして
橋本多佳子【現代語訳】月蝕の異様な気配の中、月を見つめる私は今、野性の生きもののような鋭い眼差しになっている。【鑑賞】満月が闇に呑まれていく天変地異を前に、自身の内奥にある野生や本能的な緊張感が目覚めた瞬間を詠んでいます。理性を超えた神秘に挑みかかるような、多佳子らしい鋭敏で情熱的な感性が光る名句です。
月蝕の闇の底なる鰯雲
水原秋桜子【現代語訳】月が蝕によって影に隠れ、訪れた暗闇の底の夜空に、鰯雲が静かに浮かび上がっている。【鑑賞】明るい満月の光に隠されていた秋の鰯雲が、月蝕の闇によって思いがけず姿を現した情景を描いています。天体の神秘的な闇と、秋の夜空の広がりを美しく対比させた、色彩感覚豊かな秋桜子らしい抒情的な一句です。
月蝕や天にふくらむ黒きもの
加藤楸邨【現代語訳】月蝕が進むにつれて、夜空に目に見えない巨大な黒いものがどんどん膨らんでいくように感じられる。【鑑賞】単に月が欠ける現象を眺めるのではなく、夜空全体に闇という名の巨大なエネルギーが満ちていくような圧迫感と不気味さを捉えています。人間存在を包み込む宇宙の深淵を直視した、楸邨の重厚な作風が表れています。

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