1899年 - 1963年

橋本多佳子

はしもと たかこ

作風・特徴

四Tの中で最も情熱的・官能的な句風を持つ。女性の内面の葛藤・喜び・哀しみを大胆に表現し型にはまらない詩的自由さが特徴。夫の死という喪失体験が句に深みと切迫感を与えている。

生涯・略歴

東京府(現・東京都)生まれ。ホトトギス四Tの一人。山口誓子に師事し後に「若葉」を創刊・主宰した。女性の内面や官能的な感情を大胆に詠んだ句が多く四Tの中でも特に個性的な作風として評価される。夫の死後に本格的に俳句に打ち込み哀愁と情熱が交差する句世界を確立した。

代表句 (5件)

胡桃割る胡桃のなかの昏き部屋
季語: 胡桃割る (autumn)
【現代語訳】胡桃を割ると、その硬い殻の内側に、まるで光の届かない暗く静かな部屋があるかのようだ。【鑑賞】胡桃の殻を割った瞬間に現れる、複雑に入り組んだ内部の暗い空間を「昏き部屋」と表現した名句。物理的な空間の狭さと、そこに広がる精神的な深淵や孤独感が、見事に響き合っています。
死者の日のミサ了りたる灯を消さず
季語: 死者の日 (autumn)
【現代語訳】死者の日の追悼ミサが終わった後も、祭壇の灯火は消されることなく静かに灯り続けている。 【鑑賞】儀式が終わった後も残る祈りの余韻と、亡き人々の魂を温かく迎えるような蝋燭の光が、晩秋の静謐な教会堂に満ちています。
酔芙蓉きのふの紅を畳みけり
季語: 酔芙蓉 (autumn)
【現代語訳】酔芙蓉が、昨日の夕方に赤く染まった花びらを静かに畳んで萎んでいることだ。\n【鑑賞】前日に赤く咲き誇り、一夜明けてしぼんでしまった花の姿を「畳みけり」と表現しました。華やかな宴の後のような静けさと、一日花ならではの無常感が鮮やかに切り取られています。
月蝕やいま生きものの眼をして
季語: 月の蝕 (autumn)
【現代語訳】月蝕の異様な気配の中、月を見つめる私は今、野性の生きもののような鋭い眼差しになっている。【鑑賞】満月が闇に呑まれていく天変地異を前に、自身の内奥にある野生や本能的な緊張感が目覚めた瞬間を詠んでいます。理性を超えた神秘に挑みかかるような、多佳子らしい鋭敏で情熱的な感性が光る名句です。
花畑の奥の淋しきところまで
季語: 花畑 (autumn)
【現代語訳】華やかに咲き誇る花畑をずっと進み、その一番奥にある静かで淋しい場所まで歩いていく。【鑑賞】咲き乱れる花々の華やかさの奥底に潜む、秋ならではの静寂や孤独感を見事に捉えた一句です。「淋しきところまで」という結びの言葉によって、華麗な景色の裏側にある作者の内面的な心の深淵や哀愁が鮮烈に浮き彫りにされています。