九月芝居
autumn 時候

九月芝居

くがつしばい

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意味・由来

「九月芝居(くがつしばい)」は、旧暦九月(現在の十月から十一月頃)に行われる歌舞伎などの芝居興行を指す秋の季語です。江戸時代の歌舞伎界では、役者の契約期間が毎年十一月から翌年十月までの一年間と定められていました。そのため、九月は一年の締めくくりにあたる「名残(なごり)の月」とされ、贔屓の役者との別れを惜しむ特別な情緒が漂う興行が行われました。また、収穫を終えた農村で、神社の秋祭りに合わせて氏子たちが演じる「地芝居(農村歌舞伎)」を指すこともあり、いずれも秋の深まりゆく季節感と深く結びついています。

この季語で詠むコツ

芝居小屋の華やかさや熱気と、一歩外に出たときの秋の夜風の冷たさや寂しさといった「動と静」「明と暗」の対比を意識すると、情緒豊かな句になります。また、一年の終わりや役者との別れを惜しむ「名残」のニュアンス、あるいは地方の村芝居の手作り感や素朴な温かさをクローズアップするのも効果的です。

相性のいい言葉・取り合わせ

  • 時間の経過・寂しさ: 「名残(なごり)」「暮れゆく」「夜風(よかぜ)」「灯火(ともしび)」
  • 劇場の様子: 「楽屋(がくや)」「木戸(きど)」「太鼓(たいこ)」「花道(はなみち)」
  • 秋の自然: 「秋風(あきかぜ)」「月(つき)」「身に沁む(みにしむ)」

九月芝居」の俳句例 (3件)

楽屋よりうどん届くや九月芝居
正岡子規【現代語訳】九月芝居で賑わう芝居小屋の楽屋から、役者や関係者のために注文された温かいうどんが運ばれていくことだ。 【鑑賞】芝居小屋の慌ただしくも活気ある舞台裏の様子を、「うどん」という日常的で温かい食べ物を通してユーモラスに描いています。秋の冷涼な空気が立ち込める季節だからこそ、うどんから立ち上る湯気や香りが、芝居小屋の温かい人間味と哀愁をより一層引き立てています。
役者の名覚えずなりぬ九月芝居
久保田万太郎【現代語訳】最近の役者の名前がなかなか覚えられなくなってしまったなあ、この九月芝居を観ていても。 【鑑賞】江戸情緒を愛した万太郎が、自身の老いや時代の移り変わりに対する一抹の寂しさを詠んだ句です。役者の一年契約の節目である「名残の芝居(九月芝居)」という季節感と、薄れゆく記憶の儚さが静かに重なり合い、独特の哀愁を醸し出しています。
ともしびのうすれてゆくや九月芝居
水原秋桜子【現代語訳】芝居小屋の灯火が、夜の更けるとともに、あるいは終幕に近づくにつれて、次第に薄暗くなっていくことよ。 【鑑賞】芝居のきらびやかな世界が終わりを迎え、現実に引き戻されていく瞬間の寂しさを捉えています。九月芝居が内包する「名残」の情緒と、秋の夜の冷ややかな空気感が、次第に消えゆく灯火の描写によって美しく視覚化された一句です。

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