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季語辞典
久保田万太郎
俳
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久保田万太郎
くぼたまんたろう
作風・特徴
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代表句 (9件)
草の市ともる灯に風たちにけり
季語: 草の市 (autumn)
『【現代語訳】草の市の店先にぽつぽつと灯りがともる頃、どこからともなく涼しい夕風が吹き抜けていったことだ。 【鑑賞】夕暮れの市の賑わいの中に、ふと訪れる秋の涼風を詠んだ句です。灯火のまたたきと肌に感じる風の動きが、お盆前の物寂しさと、季節が秋へと移り変わる切なさをいっそう引き立てています。』
雁の玉づさ書きのこしたるごとくにも
季語: 雁の玉章 (autumn)
『【現代語訳】空を横切っていく雁の群れの列が、まるで青空の余白に一筋のメッセージを書き残していったかのようであるな。【鑑賞】雁の飛行ルートが、空に描かれた美しい筆跡のように見えた一瞬を捉えています。雁が飛び去ったあとも、心の中にその「手紙」の余韻が残り続けるような、万太郎らしい極めて繊細で詩的な情緒に満ちた一句です。』
鹿火屋守る男の眉の濃かりけり
季語: 鹿火屋守 (autumn)
『【現代語訳】鹿火屋で番をしている男の顔を見ると、その眉がたいへん濃く、たくましい印象を与えることだ。【鑑賞】暗闇の中で鹿火の炎に照らし出された男の顔。その「眉の濃さ」という一点に着目することで、山深い地で自然を相手に暮らす男の力強さや素朴な野生味が鮮やかに描き出されています。』
胡桃割る音のしづけき夜なりけり
季語: 胡桃割る (autumn)
『【現代語訳】胡桃をコツコツと割る音が、いかにも静かに響き渡る秋の夜であることよ。【鑑賞】万太郎らしい、日常の細やかな情景を切り取った句です。胡桃を割るというささやかな行為の音が、かえって周囲のしんとした静寂を際立たせ、更けゆく秋の夜の情感を深く味あわせてくれます。』
笹神輿こぼるる露のゆくへかな
季語: 狭小神輿 (autumn)
『【現代語訳】笹で飾られた小さな神輿が練り歩く。その笹の葉からこぼれ落ちる朝露は、いったいどこへ消えていくのだろうか。【鑑賞】万太郎らしい繊細な情緒が光る一句。秋の早朝の澄んだ空気の中、みずみずしい笹神輿からこぼれる露の一滴一滴に、祭りの一瞬の美しさと儚さが凝縮されています。』
蚊帳の別れやいつともなしの雨の音
季語: 蚊帳の別れ (autumn)
『【現代語訳】蚊帳を片付ける時期となった。いつの間にか静かに降り出していた雨の音が、耳に優しく聞こえてくる。【鑑賞】秋の訪れとともに蚊帳を取り払う寂しさと、しとしとと静かに降る雨の音が響き合い、季節の移り変わりを繊細に捉えた情緒溢れる名句です。』
九月狂言ともる灯の皆なつかしく
季語: 九月狂言 (autumn)
『【現代語訳】九月狂言の芝居小屋にともる明かりが、どれもこれも心にしみて、しみじみと懐かしく感じられることだ。 【鑑賞】作者である万太郎は、東京の下町情緒や芝居をこよなく愛した俳人です。一年の終わりを告げる九月狂言の季節、少し肌寒くなった秋の夕暮れに、芝居小屋の温かい灯りがともる様子を捉えています。「なつかしく」という一言の中に、芝居への深い愛着と、秋の深まりゆく寂しさが美しく溶け合っています。』
九月狂言役者の顔の覚へよく
季語: 九月狂言 (autumn)
『【現代語訳】九月狂言の舞台を見ていると、贔屓にしている役者たちの顔立ちが、いつも以上にしっかりと記憶に刻まれるように思い出される。 【鑑賞】このメンバーでの芝居も見納めになるという「名残」の意識が、観客の集中力を高め、役者の一挙手一投足を愛おしむように見つめさせている情景です。役者の表情を克明に記憶にとどめようとする、観客(贔屓筋)の温かくも切ない心理が実に見事に写し取られています。』
唐撫子日に日にうすきにほひかな
季語: 唐撫子 (autumn)
『【現代語訳】唐撫子の花が咲いているが、秋が深まるにつれて、そのほのかな香りが日に日に薄くなっていくように感じられることよ。\n【鑑賞】万太郎らしい繊細な感覚が光る一句です。花の衰えゆく香りに焦点を当てることで、静かに、しかし確実に移ろいゆく秋の寂寥感を見事に描き出しています。』
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