菱取る

菱取る

ひしとる

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意味・由来

「菱取る(ひしとる)」は、秋に池や沼、濠(ほり)などの水面に繁茂した水草「ヒシ」の実を収穫する様子を詠む季語です。ヒシの実は硬い角を持ち、茹でて食べると栗に似た素朴な甘みがあるため、古くから貴重な秋の味覚や薬用として親しまれてきました。収穫は、水面に小舟や大きなたらい(半切り桶)を浮かべ、水中に手を差し入れて手作業で実を摘み取ります。水辺の長閑な秋の風情と、水仕事ならではの静かな労働風景を併せ持つ生活美豊かな季語です。

この季語で詠むコツ

「菱取る」を詠む際は、水辺の冷たさや光、舟の揺れといった五感に触れる描写を取り入れるのがコツです。水面に手を浸したときの冷感や、水滴を滴らせながら実を掲げる動作、あるいは水面を渡る秋風の心地よさなどに着目してみましょう。遠景として沼に浮かぶ舟ののんびりとした姿を切り取るか、近景として作業する人の手元や息づかいを描くかによって、句の風情が大きく変化します。

相性のいい言葉・取り合わせ

・舟・道具:小舟(をぶね)、たらい桶、櫂(かい)、竹竿、籠 ・水辺の情景:沼、池、濠、水輪、さざ波、岸辺、夕暮 ・感覚・動作:手の雫、袖濡らす、水冷たし、傾く、呼び交わす

菱取る」の俳句例 (3件)

菱とるやたれを呼ぶともなき小舟
高浜虚子【現代語訳】菱を採っている小舟から声がするが、特定の誰かを呼ぶともなく、のんびりと広がる水面にただ響いている。 【鑑賞】静かな秋の沼にぽつんと浮かぶ菱採り舟の情景です。広々とした水面の上で交わされるのどかな声が、秋の静けさと広がりをかえって際立たせています。
菱とるや水に手を垂れ手をあげて
上野泰【現代語訳】菱の実を採る人が、水の中に手を浸しては、実を掴んで水から手を引き上げている。 【鑑賞】菱採りの一連の反復動作を、極めてシンプルに「手を垂れ」「手をあげて」と描写した名句です。余計な装飾を削ぎ落とすことで、静かな水面と無心に作業を続ける手の動きが鮮明に浮かび上がります。
菱採るや小舟あやふき水の上
正岡子規【現代語訳】菱の実を採っているが、小さな舟が水の上でゆらゆらと傾いて危なげに見えることだ。 【鑑賞】手を水中に伸ばして実を手繰り寄せるたびに、小さく平らな舟が揺れる様子を捉えています。水辺の長閑さの中に、作業ならではのちょっとした緊張感と動きを的確にスケッチした一句です。

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