鯷漬

鯷漬

ひしこづけ

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意味・由来

「鯷漬(ひしこづけ)」とは、秋に獲れるカタクチイワシ(ヒシコイワシ)を塩や糠、麹などに漬け込んだ保存食のことです。秋の季語として分類されます。 カタクチイワシは鮮度が落ちやすいため、水揚げされた浜辺や漁村では、樽にたっぷりの塩とともにぎっしりと漬け込まれました。発酵して旨味と塩気が凝縮した鯷漬は、庶民の日常のおかずや酒の肴として親しまれ、その独特の匂いと立ち並ぶ漬物樽は、秋の漁村の風物詩でした。素朴で力強い生活感を宿した季語です。

この季語で詠むコツ

鯷漬を詠む際は、「生活の手触り」や「海辺の潮風の匂い」を意識するのがポイントです。単に食べ物として描くのではなく、樽が並ぶ浜辺の風景、塩を吹いた木樽の質感、あるいは酒を酌み交わす夕暮れの食卓など、背景にある空気感を切り取ると季語が生きてきます。潮の香りや独特の塩辛さといった五感を刺激する描写を取り入れると、秋の深まりや哀愁、庶民の暮らしの温かみが鮮やかに立ち上がります。

相性のいい言葉・取り合わせ

・情景描写:樽(たる)、浜屋、塩、汐風、波音、夕暮、夜寒 ・生活の動作:漬く、並ぶ、酌む、抱ふ、干す ・味覚・嗅覚:辛し、塩気、魚臭、香、旨し

鯷漬」の俳句例 (3件)

鯷漬て樽ならべたる浜屋哉
正岡子規【現代語訳】獲れたての鯷を塩漬けにして、たくさんの樽を並べてある海辺の小屋であることよ。 【鑑賞】漁村の浜辺に建つ小屋に、鯷を漬けた樽が所狭しと並べられている光景を素直に写生した一句です。豊かな秋の海の恵みと、保存食作りに追われる浜の人々の活気が目に浮かびます。
鯷漬や塩ふく樽の秋の風
正岡子規【現代語訳】鯷を漬け込んだ樽の表面に白い塩が吹き出している。そこに秋の澄んだ風が吹き抜けていく。 【鑑賞】木樽の表面に滲み出て乾いた白い塩と、吹き抜ける涼やかな秋風の対比が鮮やかです。嗅覚や触覚を刺激しつつ、秋の訪れを実感させる写生眼の光る名句です。
鯷漬やわが好むもの数ならず
久保田万太郎【現代語訳】この鯷漬のように、私が心から好むものといえば、世の中にそう多くあるわけではない。 【鑑賞】塩辛く素朴な鯷漬をつまみながら、自らの好物や人生への執着を淡々と振り返った一句です。「数ならず」という控えめな表現の中に、下町育ちの作者らしい気骨と滋味あふれる哀愁が漂っています。

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