小林一茶の故郷・信濃町柏原を歩く吟行ガイド|一茶記念館・旧宅の土蔵・「雪五尺」の句碑
はじめての俳句サポーター 凛
執筆者

是がまあつひの栖か雪五尺
小林一茶
「これがまあ、自分の最後のすみかになるのか。雪が五尺も積もっている」。長い江戸暮らしと旅の末に、ふるさとへ帰ってきた一茶が詠んだ句です。
そのふるさとが、長野県の北のはし、信濃町の柏原(かしわばら)です。一茶が生まれ、帰り、亡くなった町。記念館も、墓も、最期を過ごした土蔵も、句碑も、歩いて回れる範囲にまとまっています。
一茶の句は、難しい言葉を使いません。雀、蛙、雪。日々の暮らしにある小さなものを、ふだんの言葉で詠んでいます。だからこそ、どんな場所で、どんな人生のなかから生まれたのかを知ると、一句一句の響きが変わってきます。
この記事では、柏原の一茶ゆかりの場所をめぐるモデルコースと、現地での句の作り方をご紹介します。
この記事でわかること
- 一茶が柏原に生まれ、江戸へ出て、帰郷し、土蔵で亡くなるまで
- 一茶記念館・俳諧寺・一茶の墓・一茶旧宅と、町の句碑の場所
- 黒姫駅から歩いて回る、シニア向けの2コースと所要時間
- 冬に訪ねるときの注意(積雪と、記念館の冬季開館)
- 一茶のやり方で句を作る、4つのヒント
1. 一茶と、ふるさと柏原
小林一茶は、宝暦13年(1763年)、北国街道の宿場町だった柏原に、農家の長男として生まれました。
3歳のときに母を亡くし、8歳で継母を迎えたとされています。新しい家族との暮らしになじめず、15歳の春、江戸へ奉公に出されました。奉公先を変えながら、20歳を過ぎたころには俳諧の道を目指すようになったとされています。
江戸では俳諧を学び、房総など各地の門人を訪ねて句を指導しました。父の死後は、継母や弟との遺産をめぐる交渉が長く続きます。文化9年(1812年)の冬、50歳になった一茶は、ふるさとで暮らす決心をして雪の柏原に帰りました。そのときの句が「是がまあつひの栖か雪五尺」です。
帰郷後、52歳で妻きくを迎え、三男一女が生まれました。しかし子どもたちは幼くして亡くなり、妻にも先立たれます。一茶はその後も北信濃で作句と指導を続け、句文集『おらが春』などを残しました。文政10年(1827年)11月19日、65歳で生涯を閉じました。
今すぐ一句詠んでみましょう
※俳句交流SNS「俳句びと」なら、詠んだ句をそのまま投稿して全国の仲間と共有できます
2. 信濃町柏原の一茶ゆかりの場所と句碑 ― 一茶記念館・小丸山公園・旧宅・諏訪神社・明専寺
① 一茶記念館

まず訪ねたいのが、小丸山(こまるやま)という小高い丘にある一茶記念館です。一茶が最期を過ごした土蔵が国の史跡に指定されたのを記念し、昭和35年(1960年)に開館。平成15年(2003年)には新しい建物になりました。
一茶が書き残した作品を中心に、その生涯と文学が紹介されています。北国街道の柏原宿の模型もあり、一茶が暮らした町のようすを想像できます。先にここで一茶の生涯に触れてから町を歩くと、句碑の一句一句が、ぐっと近く感じられます。
記念館の公式サイトには、かつての「猫館長うみちゃん」を紹介する日記もあります。ただし、現在も会えるかどうかは確認できないため、猫との出会いを目的に出かける場合は事前にお問い合わせください。
② 小丸山公園 ― 俳諧寺、一茶の墓、「雪五尺」の句碑

記念館のある丘が、小丸山公園です。記念館から石段を上がると、句碑が点在するなかに茅葺きの小さなお堂があります。明治43年(1910年)、地元で一茶を慕う人々が建てたとされ、一茶の俳号にちなんで「俳諧寺(はいかいじ)」と呼ばれています。「一茶俤堂(おもかげどう)」とも呼ばれるお堂です。
内部を見学できる機会があれば、天井にも目を向けてみてください。訪ねた俳人たちの作品が掲げられています。かつては一茶にあやかって、この場所で句会も開かれたそうです。
俳諧寺の裏、木立に囲まれた墓地には一茶の墓があります。小林家代々の墓で、一茶は父の命日などに墓参りを欠かさなかったと伝えられています。
小丸山を少し上ったところにあるのが、帰郷のときに詠まれた「雪五尺」の句碑です。
一茶の125回忌にあたる昭和26年(1951年)に建てられた句碑です。一茶記念館の公式案内では、この句を「是がまあついのすみかか雪五尺」と紹介しています。
五尺は、およそ1.5メートル。「つひの栖(すみか)」という重い言葉と、「是がまあ」というため息とも苦笑いともつかない軽い言い出し。二つの調子が同居しているところに、一茶らしさが感じられます。
③ 史跡 小林一茶旧宅 ― 一茶が最期を過ごした土蔵

小丸山公園から歩いて10分ほど。かつての宿場の通り沿いに、国の史跡「小林一茶旧宅」があります。
文政10年(1827年)の閏6月、柏原の大半を焼く大火があり、一茶も母屋を失いました。焼け残った土蔵に移り住み、同年11月19日にその土蔵で亡くなったとされています。土蔵は間口約6.2メートル、奥行き約4.2メートルの茅葺きの建物です。
50歳の冬に「つひの栖」と詠んで帰郷した一茶は、当初は借家住まいをしていました。その後も柏原で暮らしましたが、晩年の大火によって母屋を失い、焼け残ったこの土蔵で最期を迎えました。建物の大きさを目にすると、一茶の晩年の暮らしが少し身近に感じられます。
昭和32年(1957年)に国の史跡に指定され、保存修理を経て当時の姿に復元されました。街道沿いには、一茶の弟の屋敷とされる民家も復元されており、往時の町家の造りをうかがえます。
④ 諏訪神社 ― いちばん古い一茶の句碑

旧宅から100メートルほど南の諏訪神社には、一茶の句碑のなかでもっとも古いものがあります。一茶の三回忌に、弟や門人たちによって建てられたとされています。高さ約1.4メートルの碑で、もとは柏原宿の入口にあり、明治11年(1878年)に現在地へ移されました。
松陰に寝て食う六十余州かな
小林一茶
松の木陰で寝たり食べたりする、のどかな時間を詠んだ一句です。立ち止まって、静かな町の空気と重ねて味わってみましょう。
⑤ 明専寺 ― 「親のない雀」の句碑

柏原宿のやや北よりに、小林家の菩提寺・明専寺(みょうせんじ)があります。ここには、一茶のよく知られた一句の句碑があります。
我と来て遊べや親のない雀
小林一茶
一茶が自分の少年時代を思い起こして詠んだ句とされています。幼いころ母を亡くした一茶が、親のない小雀に「一緒に遊ぼう」と呼びかける。寺の境内で読み返すと、親しみやすさの奥にあるさびしさも感じられます。
毎年11月19日の一茶の命日には、ここで法要が営まれています。
足をのばすなら
- 一茶の母の家の跡(柏原仁之倉):一茶記念館から約2キロ。句碑には「ともかくもあなたまかせの年の暮」と刻まれています。大正12年(1923年)に建てられたものです。足に不安がある場合は車やタクシーが安心です。
- 一茶ゆかりの里 一茶館(高山村):信濃町とは別の高山村にある資料館です。柏原から徒歩では回れないため、別の日に車などで訪れる計画にしましょう。詳しくは一茶館公式サイトをご確認ください。
3. 黒姫駅から歩く、一茶記念館と柏原の吟行モデルコース(シニア向け)

柏原の町なかは、比較的歩きやすい道が続きます。小丸山公園では坂や石段があるため、歩く距離だけでなく足元も意識してコースを選びましょう。
コースA:記念館と小丸山をじっくり
黒姫駅 →(徒歩約5分)→ 一茶記念館 → 小丸山公園(俳諧寺・墓・「雪五尺」の句碑)→ 記念館に戻って休憩 → 黒姫駅
所要時間の目安:約2時間
休憩:記念館で休みながら進めましょう。
おすすめ:展示をじっくり見たい方、長距離歩行を控えたい方。
コースB:柏原の町をひとめぐり
黒姫駅 → 一茶記念館 → 小丸山公園 →(徒歩約10分)→ 一茶旧宅 → 諏訪神社 → 明専寺 → 黒姫駅
所要時間の目安:約3〜3時間半
おすすめ:普段から歩く習慣があり、句碑をひとつずつ訪ねたい方。
注意:所要時間は鑑賞・休憩を含む目安です。
どちらのコースにも共通する注意
安全に歩くためのポイント
- 石段は下るときに膝へ負担がかかることがあります。無理をせず、一段ずつ歩きましょう。
- 国道沿いを通る区間では、車の往来に十分ご注意ください。
- 冬は積雪や凍結で歩きにくくなります。滑りにくい靴と防寒具を用意し、状況によって散策を短縮・中止してください。コースAでも積雪時の安全は保証されません。
- 夏は日差しが強い日もあります。帽子と飲み物を持参しましょう。

一茶記念館は冬のあいだ開館形態が変わります。冬に訪ねる方は、下の施設情報と公式サイトを必ずご確認ください。
4. 柏原で句を作るヒント
一茶の句が親しみやすいのは、「小さなもの」を「ふだんの言葉」で詠んでいるからです。一茶の町では、一茶のやり方を試してみましょう。
ヒント1:いちばん小さなものを探す
山や空だけでなく、足もとの小さな生きものにも目を向けてみてください。雀、蛙、蟻、とんぼ、草の花。一茶は、そうしたものに話しかけるように句を作りました。見つけたら、何をしているかをしばらく眺めてみましょう。
ヒント2:話しかけてみる
「我と来て遊べや」は、雀への呼びかけです。目の前のものに、心の中で声をかけてみてください。「どこへ行くのか」「寒くないか」。その短い言葉が、句の始まりになるかもしれません。
ヒント3:ふだんの言葉で書く
「是がまあ」は、口からそのまま出たような言葉です。句を作ろうとすると、つい言葉を飾りたくなりますが、まずは普段使う言葉で、見たことや感じたことを書き留めてみてください。
ヒント4:自分の暮らしを重ねる
一茶の句には、一茶自身の暮らしが入っています。ふるさと、家、老い、親、子。柏原を歩きながらご自分の故郷や家族のことを思い出したら、その気持ちも大切に。吟行の句は、景色だけを詠むものではありません。
季節ごとの柏原
| 春 | 雪どけ、残る雪、雀の子、遅い桜 |
|---|---|
| 夏 | 高原の涼しさ、夕涼み、青田 |
| 秋 | そばの花、稲刈り、紅葉 |
| 冬 | 深い雪、雪囲い、一茶忌(11月19日) |
作例
雀の子土蔵の屋根をひとまはり
(編集部作例)
ふるさとの話などして夕涼み
(編集部作例)
名句をまねる必要はありません。見つけた小さなものと、ご自身の気持ちを、まずは一行に残してみてください。

5. 一茶記念館・一茶旧宅の施設情報とアクセス(黒姫駅から)
一茶記念館
| 所在地 | 長野県上水内郡信濃町柏原2437-2 |
|---|---|
| 開館時間 | 9:00〜17:00 |
| 通常開館 | 3月20日〜11月30日 |
| 休館日 | 5・6・9・10月末日(土・日曜日にあたる場合は翌月曜日)、年末年始 |
| 冬季の見学 | 12月1日〜3月19日は、年末年始を除く平日のみ見学可能(土日祝日は休館) |
| 入館料 | 一般(高校生以上)700円/小中学生350円 |
| 公式サイト | 一茶記念館 公式サイト |
史跡 小林一茶旧宅
| 所在地 | 長野県上水内郡信濃町柏原 |
|---|---|
| 見学について | 土蔵の内部公開の有無、見学できる時間・料金などは、一茶記念館にお問い合わせください。 |
※一茶記念館の開館条件と、史跡・小林一茶旧宅の見学条件は同一とは限りません。旧宅内部の見学可否などについては、訪問前に一茶記念館へご確認ください。
アクセス
電車の場合:しなの鉄道北しなの線「黒姫駅」下車。一茶記念館までは公式案内で徒歩約5分。長野駅から黒姫駅へは電車でおおむね35〜40分です。一茶記念館のアクセスマップもあわせてご覧ください。
車の場合:上信越自動車道「信濃町IC」から国道18号経由で約3分。一茶記念館には無料駐車場があります。
6. 北信濃に泊まる旅

柏原の町歩きは半日でも楽しめますが、信濃町の周辺には野尻湖や黒姫高原、少し足をのばせば長野市の善光寺があります。一茶記念館の資料によると、一茶は善光寺を何度も参拝し、句にも詠んでいたそうです。
長野や近隣の温泉地に一泊し、1日目に善光寺、2日目に柏原を歩く二日がかりの吟行もおすすめです。宿で、その日の句をゆっくり整える時間もつくれます。
個人で旅程を考えるのが不安な方は、添乗員同行のツアーを探す方法もあります。信州方面のツアーがあるか、目的地や日程を確認してみてください。
ほかの俳人のふるさとを訪ねる
一茶のように、俳人が暮らした町を歩く吟行は、ほかの地域でも楽しめます。
小豆島 記事を読む →自由律俳句の尾崎放哉が最期を過ごした小豆島 防府・山口 記事を読む →漂泊の俳人・種田山頭火の故郷を歩く防府・山口 白山 記事を読む →加賀千代女の生まれ故郷・石川県白山市よくある質問
一茶記念館へは、電車で行けますか
行けます。しなの鉄道北しなの線の黒姫駅が最寄りで、記念館までは公式案内で徒歩約5分です。長野駅から黒姫駅までは電車でおおむね35〜40分です。
「是がまあつひの栖か雪五尺」の句碑はどこにありますか
一茶記念館のある小丸山公園のなかにあります。記念館から石段を上がった先にあり、一茶の125回忌にあたる1951年に建てられた句碑です。
「我と来て遊べや親のない雀」の句碑はどこにありますか
柏原宿の北よりにある、小林家の菩提寺・明専寺の境内にあります。一茶記念館から歩いて訪ねられます。
冬でも一茶のふるさとを歩けますか
冬は雪が深く積もり、歩道が凍結することもあります。散策は天候や足元の状況を優先して判断してください。一茶記念館は冬の間、通常期と開館形態が異なります。訪問前に本文の施設情報と公式サイトの最新案内をご確認ください。
7. まとめ
柏原は、小さな町です。記念館と、丘の上のお堂と、土蔵と、いくつかの句碑。半日あれば歩いてたどることができます。
けれども、その小さな町に、一人の俳人の一生が残っています。生まれた町であり、遠くへ出た町であり、帰ってきた町であり、亡くなった町。句碑の前に立つと、子どものころから知っていた句が、ちがう声で聞こえてくるかもしれません。
一茶は、自分の暮らしを、自分の言葉で詠みました。柏原を歩いたあと、あなたも一句、自分の言葉で書き留めてみてください。小さな気づきが、旅の大切な思い出になります。
吟行の持ち物や歩き方は、初心者でも楽しめる「吟行入門ガイド」でもご紹介しています。
参考資料・公式情報
本記事は、以下の公式資料を参考にしています。施設の開館状況はご訪問前にご確認ください。
詠んだ句を、誰かに読んでもらいませんか
吟行で生まれた句は、その日の風や光が入った一句です。俳句びとは、俳句を楽しむ方が集まる無料の交流の場です。
写真と一緒に句を投稿したり、ほかの方の句を読んで感想を伝えあったりできます。AIによる添削アドバイスも無料で利用できます。
無料で登録して、一句投稿してみる →会員登録は無料です
あなたも一句詠んでみませんか?
「俳句びと」は、俳句を愛する人々が集うSNSです。
日々の感動を十七音に込めて、全国の仲間と共有しましょう。
会員登録は無料 / 50代〜80代の方に大人気