高浜虚子が愛した信州小諸|小諸高濱虚子記念館・虚子庵と、懐古園の桜・紅葉を歩く吟行ガイド
はじめての俳句サポーター 凛
執筆者


昭和19年(1944年)の秋、70歳の高浜虚子(たかはま きょし)は、鎌倉を離れ、信州の小諸(こもろ)に移り住みました。戦争が激しくなり、疎開したのです。それから3年あまり、虚子は浅間山を仰ぎ、千曲川を見おろす山国の町で、句を作り続けました。
虚子が暮らした家は「虚子庵」として残り、そのとなりに、小諸高濱虚子記念館があります。駅の裏には、小諸城の跡の懐古園(かいこえん)。桜と紅葉の名所で、千曲川を見わたす展望台があります。
思いがけず住むことになった土地を、虚子はどう詠んだのか。それをたどる旅です。記念館も懐古園も、小諸駅から歩いて行けます。俳句の目で歩けば、山国の風と光が、そのまま句の種になるでしょう。
この記事でわかること
- 虚子が小諸に疎開した経緯と、小諸で作った句
- 小諸高濱虚子記念館と旧宅・虚子庵、句碑の並ぶ「虚子の散歩道」
- 懐古園の見どころと、千曲川の展望台
- 小諸駅から歩く、シニア向けのコースと所要時間
- 毎年秋の「虚子・こもろ全国俳句大会」のこと
はじめての吟行でも安心
吟行がはじめての方は、先に吟行入門ガイドを読んでおくと、持ち物や歩き方のコツがわかります。
1. 虚子はなぜ、小諸に来たのか
高浜虚子は、明治43年(1910年)から鎌倉に住んでいました。けれども太平洋戦争の末期、空襲の心配が大きくなると、鎌倉を離れることにします。移った先が、信州の小諸でした。昭和19年(1944年)9月から、昭和22年(1947年)10月までの、3年あまりとされています。
住まいは、小諸の与良町(よらまち)にあった家です。家族とともに暮らしたこの家は、のちに「虚子庵」と呼ばれるようになりました。山に囲まれた静かな町で、虚子は変わらず俳句の道を歩き続けます。小諸にいても、虚子のもとには句会のために多くの人が訪ねてきたとされています。疎開先でありながら、虚子庵は俳句の拠点でもあったのです。
終戦も、この小諸で迎えました。戦争が終わっても、すぐには鎌倉に戻らず、昭和22年の秋まで小諸で暮らしています。この間に詠まれた句は、句集『小諸百句』などにまとめられています。
鎌倉の暮らしについては、別記事「高浜虚子ゆかりの鎌倉を歩く吟行ガイド」でもご紹介しています。
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2. 山国で詠んだ句
山国の蝶を荒しと思はずや
— 高浜虚子
小諸時代の句として知られています。山国の蝶は、荒々しいと思わないか。平地の蝶とはちがう、山の風にもまれて飛ぶ蝶の強さ。鎌倉から来た虚子の目には、山国の生きものが、そう見えたのでしょう。
この句の鑑賞ポイント
「思はずや」と、読む人に問いかけているところに注目してください。自分の感じ方を押しつけずに、相手にそっと投げかけています。
引っ越した先や旅先で、見慣れないものに出会ったとき、「ここの〇〇は、こうだ」と気づくことがあります。海辺の町から来た虚子にとって、山の蝶は力強く、荒々しく映ったのでしょう。その驚きが、そのまま一句になっています。旅先での発見は俳句の種。ふだんの暮らしでは見えなかったものを、五七五に乗せてみてください。
3. 小諸で訪ねたい場所
① 小諸高濱虚子記念館と虚子庵
小諸駅から東へ歩いて15分ほど、与良町の静かな住宅地に、市立の小諸高濱虚子記念館があります。虚子の業績を伝え、小諸時代の作品や資料を展示・保存する施設です。平成12年(2000年)に開館し、掛け軸や短冊など虚子ゆかりの資料が紹介されています。
となりには、虚子が実際に暮らした旧宅・虚子庵が残っています。70歳を過ぎた虚子が、終戦をはさむ3年あまりを過ごした場所です。実際にどこまで見学できるかは、訪問前に記念館へお尋ねください。家のたたずまいを想像しながら、遠い小諸の日々に思いを寄せてみましょう。
② 虚子の散歩道
記念館のまわりには、「虚子の散歩道」と呼ばれる小路があります。お堂や石仏をめぐる道で、道沿いには虚子の句を刻んだ「笠石俳句」が置かれています。全長約0.9キロメートル。足元や寄り道の時間を見ながら、ゆっくり歩いてみましょう。
与良古墳や大日堂、興良蛭子神社などが点在し、小さな町のあいだを縫うように進みます。虚子が歩いたかもしれない道を、句碑を読みながら歩く。この散歩道が、小諸の吟行のいちばんの舞台です。
③ 懐古園(小諸城址)

小諸駅のすぐ裏、歩いて3分ほどのところに、小諸城の跡・懐古園があります。城下町より低いところに城がある、めずらしい「穴城(あなじろ)」で、昔の石垣が残っています。入口には、重要文化財の三の門が立ち、「懐古園」の大額がかかっています。
園内の奥には、千曲川を見おろす「水の手展望台」があります。島崎藤村も詩に詠んだ千曲川の流れを、高いところから見わたせます。

春は桜の名所です。ソメイヨシノやシダレザクラなどが咲き、例年4月中旬から下旬ごろが見ごろ。秋は紅葉が見事で、10月下旬ごろからモミジやケヤキなどが色づき始めます。

懐古園の紅葉まつりは、2026年10月24日から11月23日まで開催予定です。実際の色づきは、その年の天候で変わります。
園内は広く、坂と石段があります。水の手展望台へ向かう場合は移動時間に余裕を持ち、足元に注意しながらゆっくり歩いてください。
4. 小諸のモデルコース(シニア向け)
懐古園は駅の西側(裏)、記念館は駅の東側です。反対方向にあるので、駅をはさんで順番に巡るとわかりやすくなります。
コースA|懐古園と虚子記念館(1日)
小諸駅 → 懐古園 → 駅周辺で昼食 → 記念館・虚子庵 → 虚子の散歩道 → 小諸駅
- 所要時間:昼食を含めて5時間前後
- 坂・石段:懐古園の園内にあり
- 休憩:園内の休憩スポットや駅前の飲食店を利用
- 歩き方:午前中に懐古園、午後に記念館と散歩道がおすすめ
コースB|記念館と散歩道だけ(半日)
小諸駅 → 記念館・虚子庵 → 虚子の散歩道 → 小諸駅
- 所要時間:2時間半ほど
- 移動:小諸駅から記念館まで徒歩約15分、タクシー利用も可
- こんな方に:懐古園の坂や石段が不安な方

どちらにも共通する注意
- 小諸は標高が高く、朝夕は冷える日があります。春と秋は上着を一枚。
- 冬は寒さや積雪に注意。記念館は12月1日〜3月31日が冬期休館です。
- 懐古園の下り坂や石段は、膝に負担をかけないようゆっくり歩きましょう。
- 桜・紅葉の休日は混雑することがあります。落ち着いて吟行するなら平日の午前中もおすすめです。
- お手洗いは駅や懐古園で早めに済ませておきましょう。
5. 小諸で句を作るヒント
ヒント1:「ここの〇〇は」と比べる
「山国の蝶を荒し」は、平地の蝶と比べて山国の蝶を見た句です。ふだん住んでいる町の風や空、花と比べて「ここの〇〇は、こうだ」と気づいたことを詠んでみてください。旅先の句の、素直な作り方です。
ヒント2:大きな山を、背景に置く
小諸の町からは、場所や天候によって浅間山を望めます。浅間山を主役にすると大きすぎると感じたら、手前の小さなもの(花、虫、屋根など)を主役にし、山を背景にしてみましょう。
ヒント3:読む人に問いかける
「思はずや」のように、句の最後で読む人に問いかける形を試してみましょう。「〜ではないか」「〜だろうか」。感じたことを、相手にそっと手渡す言い方です。
ヒント4:散歩道の句碑の前で、一句
虚子の散歩道の句碑の前で立ち止まって一句。刻まれた句を読んだあと、自分の目に映る景色を改めて見つめてみてください。
季節ごとの小諸
| 春 | 懐古園の桜、雪解けの浅間、蝶 |
|---|---|
| 夏 | 高原の涼しさ、青田、千曲川の水音 |
| 秋 | 懐古園の紅葉、新そば、秋の山 |
| 冬 | 雪の浅間、厳しい寒さ、冬の千曲川 |
作例
浅間嶺を背に蝶ひとつ石の上
— 編集部作例
句碑読んでまた歩き出す秋の山
— 編集部作例
俳句は立派な言葉を探すより、そこで見つけた小さな変化を言葉にすることから始まります。
6. 虚子・こもろ全国俳句大会
小諸市では、毎年「虚子・こもろ全国俳句大会」を開いています。記念館の開館を記念して始まった大会で、一般の部のほか、高校生・中学生・小学生の部もあります。テーマは自由で、未発表の自作の句を募集しています。
2026年・第28回大会の応募案内
- 締切:2026年11月16日(月)必着
- 一般の部:4句1組2,000円(2句1組1,000円も可)
- 小中高校生:無料(1人4句まで)
- 応募:一般の部は作品と投句料を郵送。詳細は公式募集要項を確認
入賞者への連絡は2027年2月中旬予定です。小諸を吟行して生まれた句を投句してみるのもよいでしょう。
7. 小諸高濱虚子記念館・懐古園の施設情報とアクセス
市立小諸高濱虚子記念館(虚子庵)
| 所在地 | 長野県小諸市与良町2丁目3番24号 |
|---|---|
| 開館時間 | 9:00〜17:00 |
| 休館日 | 毎週水曜日(祝日の場合は木曜日)、冬期休館12月1日〜3月31日 |
| 入館料 | 一般200円/小中学生100円 |
| 公式案内 | 小諸市の施設案内 |
小諸城址 懐古園
| 所在地 | 長野県小諸市丁311 |
|---|---|
| 開園時間 | 9:00〜17:00 |
| 休園日 | 12月〜3月第2週の毎週水曜日、12月29日〜1月3日 |
| 入園料 | 共通券:高校生以上500円/小中学生200円 散策券:高校生以上300円/小中学生100円 |
| 公式案内 | 小諸市の懐古園利用案内 |
※施設情報は2026年10月時点。変更される場合があるため、訪問前に公式サイトで確認してください。
アクセス

- 記念館:しなの鉄道・JR小海線「小諸駅」から徒歩約15分。
- 懐古園:小諸駅から徒歩約3分。
- 小諸駅へ:北陸新幹線「佐久平駅」でJR小海線へ乗り換え、または「軽井沢駅」からしなの鉄道を利用。所要時間は列車により異なります。
8. 軽井沢・信州の温泉と組み合わせて
小諸は軽井沢から、しなの鉄道で訪ねられる距離です。軽井沢に泊まって1日を小諸の吟行にあてる旅もできます。小諸の周辺には布引温泉や菱野温泉、少し足をのばせば別所温泉などもあり、歩いたあとの楽しみになります。
信州には、一茶のふるさと・信濃町もあります。日程に余裕があれば、虚子と一茶、それぞれにゆかりの地を巡る文学の旅を考えてみてはいかがでしょう。
個人で計画を立てるのが不安な方は、添乗員同行の旅行商品を探す方法もあります。ただし、一般的な信州方面のツアーに虚子記念館や懐古園が含まれるとは限りません。行程表を必ずご確認ください。
よくある質問
Q. 小諸高濱虚子記念館は、懐古園の中にありますか
A. ありません。懐古園は小諸駅の西側(徒歩約3分)、虚子記念館は駅の東側の与良町(徒歩約15分)にあります。駅をはさんで反対方向なので、順に回ってください。
Q. 高浜虚子は、いつ小諸にいたのですか
A. 昭和19年(1944年)9月から昭和22年(1947年)10月までの3年あまり、疎開していたとされています。暮らした家は「虚子庵」として、記念館のとなりに残っています。
Q. 小諸の虚子ゆかりの地は、どれくらいで回れますか
A. 記念館・虚子庵と「虚子の散歩道」だけなら2時間半ほどです。懐古園もあわせて回る場合は、昼食を入れて5時間前後が目安です。
Q. 虚子・こもろ全国俳句大会には、だれでも投句できますか
A. できます。一般の部のほか高校生・中学生・小学生の部があります。2026年の第28回大会は11月16日必着です。一般の部は4句1組2,000円(2句1組1,000円でも可)、小中高校生は無料です。詳しくは小諸市の公式サイトをご覧ください。
9. まとめ
虚子は、戦争を避けて70歳で山国・小諸に移りました。けれども、そこで見た蝶を「荒し」と感じ、浅間山と千曲川のそばで3年あまり句を作り続けました。
思いがけない場所に身を置いたとき、人は、ふだんは見えないものに気づきます。小諸の散歩道で、あなたも「ここの〇〇は」と、一句作ってみてください。山国の風は、あなたの句帳に、新しい発見を運んでくれるかもしれません。
吟行の持ち物や歩き方のコツは、初心者でも楽しめる「吟行入門ガイド」で紹介しています。
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