1651年 - ?

向井去来

むかいきょらい

作風・特徴

作風の解説はまだ登録されていません。

生涯・略歴

向井 去来(むかい きょらい、慶安4年(1651年) - 宝永元年9月10日(1704年10月8日))は、江戸時代前期の俳諧師。蕉門十哲の一人。本名は兼時、幼名は慶千代、字は元淵、通称は喜平次・平次郎、別号に義焉子・落柿舎がある。

代表句 (20件)

門ままや雲のゆききのいそがしき
季語: 門まま (autumn)
【現代語訳】門口で慌ただしく食事を済ませていると、ふと見上げた秋の空でも、雲が忙しそうに次から次へと行き交っていることだ。 【鑑賞】刈り入れ期に大忙しで食事をかき込む地上の人間と、秋風に乗って速いスピードで流れていく天空の雲をユーモラスに対比させています。自然のダイナミックな動きと、人間の健気な営みが一体となった、広がりのある作品です。
みそぎして桂の水をむすびけり
季語: 桂川の御禊 (autumn)
【現代語訳】桂川で御禊(身を清める儀式)を済ませて、その清らかな桂川の水を手にすくって飲んだことだ。【鑑賞】斎宮が伊勢に赴く前に行う神聖な「桂川の御禊」を背景に、静寂で厳かな秋の空気感を見事に捉えた一句です。「結ぶ」という行為に、神聖な水との一体感や、旅への覚悟が感じられます。
白菊にしばしうつろふ綿かな
季語: 菊の著綿 (autumn)
【現代語訳】真っ白な菊の花の上に、しばらくの間そっと載せられている綿の風情よ。【鑑賞】白菊と綿という、同色の「白」の重なりに宿る微細な美しさに焦点を当てています。「しばしうつろふ」という表現に、朝の限られた時間だけの儚い風情が繊細に漂う名句です。
雁金や何処の山も夕まぐれ
季語: 雁金 (autumn)
【現代語訳】雁が鳴き渡っていく夕暮れ時、見渡す限りのどの山も、薄暗い夕闇の中に溶け込んでゆくことよ。 【鑑賞】空に響く雁金の声を聞きながら周囲を見渡すと、どの山も夕暮れの闇に包まれつつあります。視覚的な「夕闇」と、聴覚的な「雁の声」が一体となり、秋の寂しさと旅愁が美しく表現されている名句です。
霧の谷底に見え行く紅葉かな
季語: 霧の谷 (autumn)
【現代語訳】霧が深く立ち込めていた谷の底に、霧が晴れるにつれて、鮮やかな紅葉がだんだんと姿を現していくことだ。【鑑賞】去来が描くこの句は、秋の白い霧と、その奥から浮かび上がる真っ赤な紅葉との色彩の対比が非常に鮮やかです。視界が徐々に開けていく時間の経過と自然の美しさを捉えた名作です。
貸衣重ねて嬉し夜の寒
季語: 貸小袖 (autumn)
【現代語訳】秋の夜のしんしんとした寒さの中で、主人が貸してくれた小袖をさらに重ねて着ると、その温かさが本当に嬉しく、身に染みるように感じられることだ。 【鑑賞】旅先や知人宅での温かな交流を素直に描いた名句です。「貸衣(貸小袖)」を身にまとった瞬間の、物理的なぬくもりと、貸し主の優しい心遣いに対する感謝の念が「嬉し」の一語に見事に凝縮されています。
梶の葉やたむけし水のひえごころ
季語: 梶の七葉 (autumn)
【現代語訳】七夕の神仏に手向けるために、梶の葉を浮かべたその水の、なんと冷ややかで清らかな心地(あるいは手触り)であることよ。 【鑑賞】去来の繊細な感覚が際立つ一句です。「ひえごころ」という言葉によって、手向けた水の冷たさだけでなく、それを行う人間側の澄み切った敬虔な心までもが表現されています。梶の葉のみずみずしさと、秋の訪れを感じさせる水の冷涼感が一体となっています。
蜉蝣のわが身をたどる羽の上
季語: 蜉蝣 (autumn)
【現代語訳】蜉蝣が、透き通った自分の羽の上を、まるで自らの身を振り返り、見つめ直すかのようにそっと触れている。\n【鑑賞】自らの儚い運命を知ってか知らずか、繊細な羽を繕うような蜉蝣の仕草を「わが身をたどる」と表現した去来の主観が、繊細で深い情感を醸し出しています。
敲くともたたくともなき砧かな
季語: 砧の槌 (autumn)
【現代語訳】叩いているのか、それとも叩いていないのか、それすら分からないほどにかすかに聞こえてくる砧の音であるよ。【鑑賞】遠くから風に乗って聞こえてくるような、あるいは夜の深まりとともに耳を澄ましてようやく聞こえるような、砧の槌の音の幽玄な響きを捉えた繊細な一句です。
唐萩の花に風ひく野宿かな
季語: から萩 (autumn)
【現代語訳】美しく咲くから萩の花の傍らで野宿をしていたら、秋風に吹かれて風邪を引いてしまいそうだ。 【鑑賞】芭蕉の弟子である去来による、ユーモアと旅情が同居した一句です。可憐なから萩の花に囲まれて眠る風流さの裏にある、実際の夜風の冷たさや体調への懸念を率直に詠み上げており、秋の夜のリアルな寒さが伝わってきます。
蚊帳のなごり朝日の風の寒からん
季語: 蚊帳の名残 (autumn)
【現代語訳】秋が深まる中で吊られたままの蚊帳、その隙間から吹き込む朝の風は、きっと寒く感じられることだろう。【鑑賞】去来が秋の訪れを鋭敏に捉えた一句です。蚊帳の向こうに見える朝の光と、そこを通り抜ける冷ややかな秋風の対比が、季節の移り変わりを五感に訴えかけます。
今年綿まだあたたかき主かな
季語: 今年綿 (autumn)
【現代語訳】今年とれたばかりの温かい新綿のように、その主(あるじ)もまた人情味にあふれ、温かみを感じさせる人であることよ。\n【鑑賞】去来が訪ねた家の主人の温かなもてなしと人柄を、収穫されたばかりのふっくらとした「今年綿」の温もりに重ね合わせて称賛している、心の通い合いを感じる一句です。
雁鳴くや一つ遅れて夜の月
季語: 雁鳴く (autumn)
【現代語訳】雁が鳴きながら渡っていく。その美しい群れから一羽だけ遅れて飛ぶ雁があり、ちょうど夜の月がかかる空を寂しげに横切っていくことよ。 【鑑賞】一糸乱れぬ規則正しい群れを成して飛ぶ雁の中に、一羽だけ遅れているものがいる。その孤独な存在感と、冷ややかに照らし出す月光の対比が、秋の夜の寂しさを際立たせています。
刈安や穂にいでてそれとしるばかり
季語: 刈安 (autumn)
【現代語訳】ただの雑草のように見えていた草が、秋になって穂を出すことで、ようやくこれが刈安なのだと判別できることよ。【鑑賞】普段は目立たない刈安が、秋の訪れとともにその個性(穂)を現す様子を素朴に捉え、自然の確かな営みに焦点を当てた味わい深い一句です。
かりがねや寒うなり行く夜の雲
季語: かりがね寒き (autumn)
【現代語訳】空を渡る雁の鳴き声が聞こえてくる。夜の雲を見上げていると、いよいよ寒さが身に染みるようになっていくことだ。【鑑賞】去来が秋から冬へと移り変わる季節の移ろいを繊細に捉えた句です。冷え冷えとした夜の雲の様子と、見えない雁の声が深まる寒さをいっそう強調しています。
上難波の祭やいかに秋の風
季語: 上難波祭 (autumn)
【現代語訳】上難波神社の秋祭りが行われているが、今頃あちらの様子はどのようであろうか。冷ややかに吹く秋の風の中で、遠く大坂の賑わいに思いを馳せている。\n【鑑賞】『猿蓑』に収められた名句です。去来は京都にいながら、大坂の上難波祭に思いを寄せています。にぎやかな祭りの熱気と、自身の周囲に吹く寂しげな秋風との対比が、深い旅情と哀愁を醸し出しています。
末枯や何におどろくきりぎりす
季語: 末枯の野山 (autumn)
【現代語訳】草木の先端から枯れ始めた野原で、キリギリスが何かに驚いたように声をあげて鳴いているよ。【鑑賞】静かに枯れゆく自然の中で、かすかに動く虫の気配が、秋の深まりと静寂をいっそう際立たせています。去来の優しい眼差しが光る名句です。
口切や山もま近き小窓より
季語: 壺の口切 (winter)
【現代語訳】口切の茶事を催しているこの茶室。小さな窓から外を眺めると、冬枯れの気配をまとった山がすぐ間近に迫っているように見える。 【鑑賞】静かでこぢんまりとした茶室の空間(小窓)と、その向こう側に広がる雄大な自然(山)との対比が見事です。窓を切り取ることで、外の厳しい冬の寒さと室内の温かみ、そして口切の清々しさが引き立っています。
刈上げや烏もいそぐ庵の夕
季語: 刈上 (autumn)
【現代語訳】稲刈りもすべて終わり、すっかり日が暮れるのも早くなった。夕闇が迫る庵のあたりを、カラスたちもねぐらへと急ぎ足で飛んでいく、静かな秋の夕暮れである。【鑑賞】「刈上げ」によって一仕事終えた安堵感とともに、急速に深まる秋の日の短さを描いています。カラスがねぐらへ急ぐ様子が、かえって周囲の静けさと、ひっそりとした庵の佇まいを際立たせています。
化生とはこれの事かや秋の蚊に
季語: 化生を弄す (autumn)
【現代語訳】忽然と現れて人を化かす「化生」とは、まさにこの秋の蚊のことなのだろうか。秋の夜、どこからともなく現れては消える蚊を前にして、そんな風に思えてしまう。 【鑑賞】去来が秋の蚊の不思議な存在感を、お化けや妖怪を意味する「化生」に例えてユーモラスに詠んだ一句です。夏の蚊とは異なり、不意に現れては人を惑わす秋の蚊の性質を実に見事に捉えています。