1887年 - 1969年

長谷川かな女

はせがわかなじょ

作風・特徴

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生涯・略歴

長谷川 かな女(はせがわ かなじょ、1887年10月22日 - 1969年9月22日)は、日本の俳人。本名はカナ。孫は小説家の三田完がいる。

代表句 (20件)

鎌帛に神をかしこむをみなかな
季語: 鎌帛 (autumn)
【現代語訳】鎌に白い布を巻き、神への畏敬の念を抱きながら稲を刈る、その女性の敬虔な姿よ。\n【鑑賞】「神をかしこむ」という言葉に、自然の恵みや神仏への深い敬意が表れています。清らかな鎌を手にした女性の凛とした立ち姿が、実りの秋の豊かな風景の中で美しく際立っています。
覚猷忌うさぎの耳のあたたかき
季語: 覚猷忌 (autumn)
【現代語訳】鳥羽僧正の忌日に、ふと触れたうさぎの耳がとてもあたたかく感じられることだ。 【鑑賞】鳥獣戯画の主役ともいえる「うさぎ」をモチーフにした一句。絵の中のうさぎから、目の前にある生きたうさぎへと視点が移り、その耳のぬくもりを通して、時を超えて生き続ける覚猷の生命への慈愛を感じさせてくれます。
黄纐纈の林をいそぐひかりかな
季語: 黄纐纈の林 (autumn)
【現代語訳】黄色い絞り染めのように美しく彩られた林のなかを、秋の日の光が急ぐように通り過ぎていくことよ。 【鑑賞】秋の日は釣瓶落としと言われるように、日暮れが早い秋。美しく紅葉した林に差し込む光が、またたく間に変化していく様子を「いそぐひかり」と表現しました。鮮やかな黄色と、刻々と移り変わる光の対比が繊細に描かれています。
芥子漬や手際もやがて古妻に
季語: 芥子漬製す (autumn)
【現代語訳】芥子漬を作る手際が、いつの間にかすっかり手慣れたものになっている。私もすっかり古妻(長年連れ添った妻)になったのだなあとしみじみ思う。【鑑賞】手仕事の手際の良さに生活の歴史を感じつつ、少し自嘲気味でありながらも、家庭をしっかりと守ってきた自負と落ち着きが感じられる名句です。
高麗鴉あそべる庭の秋深し
季語: 高麗鴉 (autumn)
【現代語訳】庭先で高麗鴉が楽しそうに遊んでいる。その光景を眺めていると、しみじみと秋が深まってきたことを感じる。【鑑賞】人里近くに営巣し、人間の暮らしのすぐ傍にいる高麗鴉ならではの、親密で静かな光景です。庭に降り立つ鳥の姿を通して、深まりゆく秋の静寂と、冷涼な空気感が肌に伝わってくるような情緒があります。
甲州葡萄一房投げて灯を消しぬ
季語: 甲州葡萄 (autumn)
【現代語訳】甲州葡萄を一房手元に投げ置くようにして、そのまま部屋の明かりを消した。 【鑑賞】作者の代表句の一つ。暗闇に消える前の、葡萄の艶やかな姿や一房の重みが、静かな夜の空気感とともに表現されています。
葛の花残りてありぬ雨のなか
季語: 葛の花残る (autumn)
【現代語訳】冷たい秋の雨がしとしとと降りしきるなか、葛の花が散らずにまだひっそりと残って咲いている。 【鑑賞】雨に打たれながらも、その色を失わずに残る葛の花に、作者の静かな視線と、どこか芯のある強さへの共感が感じられます。
群行のあとのしづけさ野宮に
季語: 斎宮群行 (autumn)
【現代語訳】斎宮群行の厳かな行列が通り過ぎた後の、ひっそりとした深い静けさが野宮を包み込んでいる。【鑑賞】京都・嵯峨野の野宮は、斎宮が身を清めるために籠もった場所。華やかな旅立ちの後の、取り残されたような寂寞感と秋の冷涼な空気が見事に捉えられています。
胡弓ひく指のみ見えて風の盆
季語: 風の盆 (autumn)
【現代語訳】闇の中で奏でられる風の盆の胡弓。その楽器を持つ手元、指先だけがかすかに見えて、妖艶で美しい。 【鑑賞】深く被った編笠や夜の暗闇のせいで、奏者の顔は見えず、ただ胡弓を弾く白い指先だけが浮き上がって見える瞬間を切り取っています。視覚のフォーカスが素晴らしく、ミステリアスな美しさを醸し出しています。
菩提樹の花のちりしく歩廊かな
季語: 菩提の花 (summer)
【現代語訳】菩提樹の淡い花が、寺院などの回廊(歩廊)に一面に散り敷いていることよ。【鑑賞】「歩廊(ほろう)」とは、洋風建築や近代的な建物の回廊、渡り廊下などを指します。寺院の古びた景観だけでなく、少しモダンな空間に散る菩提樹の花の黄色い絨毯を捉えた、色彩感覚と静けさが際立つ美しい一句です。
菊がさね美しければたためざる
季語: 菊襲 (autumn)
【現代語訳】 菊襲の着物(または、菊を美しく重ね合わせたもの)があまりにも見事なので、たたんで片付けるのが惜しまれて、そのまま見惚れてしまっている。 【鑑賞】 伝統的な色目である「菊襲」の衣服を前にした、女性らしい細やかな感動を捉えた名作です。その美しさに心を奪われ、日常の所作である「たたむ」という手を思わず止めてしまった瞬間が、優雅かつリアルに描かれています。
言水忌葛咲きみだれ風の吹く
季語: 言水忌 (autumn)
【現代語訳】言水忌の今日、葛の花が咲き乱れ、そこへさっと秋風が吹き抜けていく。 【鑑賞】葛の花の生命感あふれる情景に風を吹き通すことで、言水忌の季節感を美しく捉えています。吹き寄せる風の動きに、風を愛した言水の魂が重なるような情感豊かな名句です。
帯解いてひとり居の間の秋じまひ
季語: 秋じまひ (autumn)
【現代語訳】帯をほどいて寛ぐ、ひとりで過ごす部屋のなかの秋じまいの気配であることよ。\n【鑑賞】外から帰って帯を解いた瞬間の解放感とともに、ふと広がる室内の静けさと晩秋の寒冷を描いています。一人の空間だからこそ際立つ、秋の終わりの寂寥と親密な空気が見事に捉えられています。
女七夕針箱の針数へけり
季語: 女七夕 (autumn)
【現代語訳】女七夕の今日、裁縫箱の中の針を一本一本数えたことだ。 【鑑賞】裁縫の上達を願う乞巧奠の風情を、日常の「針箱の針を数える」という具体的な動作で捉えた名句です。女性俳人ならではの繊細な視線が光り、針の冷たい光や小ささから、日々の針仕事への愛着や女性としての慎ましい祈りが静かに伝わってきます。
茱萸女や髪のふらここ揺れやまず
季語: 茱萸女 (autumn)
【現代語訳】茱萸の袋を髪に挿した女性の、その髪の飾りがブランコのようにいつまでも揺れ続けていることよ。【鑑賞】重陽の日の艶やかな女性の髪飾りのかすかな揺れを「ふらここ(ブランコ)」と見立て、女性俳人らしい繊細で優美な視線で捉えた名句です。
白玉草母をたづぬる山路かな
季語: 白玉草 (autumn)
【現代語訳】可憐な白玉草が咲いている山道を、母を訪ねて歩いてゆくことだ。 【鑑賞】山道にひっそりと咲く白玉草の素朴で優しい佇まいが、これから会いに行く母への温かな情愛と重なり、道行の風情を詩情豊かに伝えています。
千代尼忌のあさがほ種をふくみけり
季語: 千代尼忌 (autumn)
【現代語訳】千代尼忌のこの頃、朝顔はすっかり咲き終えて、静かにその実のなかに種を宿していることだ。【鑑賞】千代女の代名詞である朝顔が、秋深まる忌日の頃には種を結んでいる姿を捉えました。千代女の遺した俳諧の精神が、種として次の世代へと大切に受け継がれていくような優しさと慈愛に満ちた秀句です。
年寄の日をあたらしき帯しめて
季語: 年寄の日 (autumn)
【現代語訳】年寄の日である今日、新しく仕立てた帯をしめて一日を過ごすことだ。【鑑賞】祝われる立場でありながら、お洒落心を忘れずに新しい帯をしめる作者の背筋が伸びるような心意気が感じられます。老いることを肯定的に楽しみ、華やぎをもって受け止める女性らしさが光る名句です。
被昇天祭白き日傘を閉ぢにけり
季語: 被昇天祭 (autumn)
【現代語訳】聖母被昇天の祝日、教会へと入るために差していた白い日傘を静かに閉じた。 【鑑賞】教会の門をくぐり、祈りの場へ向かう凛とした女性の所作が描かれています。「白き日傘」の純白が聖母マリアの象徴色である白や純潔を思わせ、日傘を閉じるという日常の動作の中に、静謐な敬虔さが宿っています。
鵯上戸蔓のさきまで赤き実や
季語: 鵯上戸 (autumn)
【現代語訳】鵯上戸の細く伸びた蔓の、先端に至るまで見事に赤い実を結んでいることよ。【鑑賞】晩秋の光を浴びて、蔓の端々にまでみずみずしい実をたわわにつけた生命力を讃えています。女性らしい細やかな観察眼が光り、実の鮮やかな朱色が鮮明な残像となって心に残ります。