1661年 - 1707年

宝井其角

たからいきかく

作風・特徴

機知と洒脱を重んじた都会的・奇抜な句風。平明かつ口語調の洒落風を開拓し蕉門随一の個性を発揮した。芭蕉の「さび」より「伊達」と「寛闊」を旨とした元禄の都市的美意識を体現。

生涯・略歴

江戸前期の俳人で、松尾芭蕉の十哲筆頭ともいわれる高弟。江戸深川の医師の家に生まれ、十代で芭蕉に入門した。師の「さび」「しをり」とは趣を異にする、機知と洒脱を重んじた都会的・奇抜な句風を確立した。芭蕉門下中で最も個性的な俳人の一人として知られ、元禄文化の爛熟した美意識を体現した。句集『虚栗』など多くの著作を残し、後の滑稽俳諧にも影響を与えた。

代表句 (20件)

文は跡に 梅さし出す 使いかな
大仏 膝埋ずむらん 花の雪
夕立に ひとり外見る 女かな
稲妻や きのふは東 今日は西
夕日影 町中に飛ぶ こてふかな
木の実だんご売るや清水の秋の風
季語: 木の実団子 (autumn)
【現代語訳】清水寺のあたりで、名物の木の実団子を売っている。そこへ吹き抜ける秋の風が、なんとも心地よく感じられることだ。【鑑賞】京都・清水寺の参道や境内などで、素朴な木の実団子を商う様子を、爽やかな秋の風とともに捉えた一句です。「清水」の清涼な水のイメージと、木の実団子の鄙びた味わい、そして秋風の涼しさが絶妙に調和し、旅情あふれるすっきりとした情景を描き出しています。
瓢より風の出で来る野分かな
季語: (autumn)
【現代語訳】ひょうたんの中から吹き出してくるかのように、激しい野分(台風)が吹き荒れていることだ。【鑑賞】ことわざの「瓢箪から駒が出る」をパロディにしつつ、激しい秋の嵐(野分)の勢いを、小さな瓢から突風が吹き出すという奇抜なイメージで捉えたユニークな一句です。
金平の桜を折るやうでの骨
季語: 金平桜 (spring)
【現代語訳】金平桜の枝を折ろうとしたが、あまりにも頑丈で、こちらの腕の骨が折れてしまいそうだ。 【鑑賞】怪力無双の金平の名を冠するだけあって、桜の枝もまた非常に強靭であることを、大げさに表現した才気あふれる句です。「桜折る」という優雅な行為が、まるで力比べのようになってしまう面白さを、其角らしい軽妙な洒脱さで描いています。
炭売に美人ありけり烏扇
季語: 烏扇 (summer)
【現代語訳】真っ黒な炭を売る店に、なんと美しい女性がいたことよ。彼女が手に持っている黒い烏扇が、その美しい白肌をいっそう引き立てている。 【鑑賞】炭の黒さ、烏扇の黒さと、女性の肌の白さ・美しさが鮮やかに対比された一句です。其角らしい都会的で洒脱な観察眼と、ユーモアが光る名作です。
煤掃の音や北野の茶の湯釜
季語: 北野煤払 (autumn)
【現代語訳】煤払いをする威勢のいい音が響いている、北野天満宮の茶の湯釜がある境内であることよ。 【鑑賞】北野天満宮の名物である茶の湯釜と、煤払いの賑やかな音との取り合わせが江戸芭蕉門下らしい洒脱な感覚で表現されています。
九孔の針に月さす七夕かな
季語: 九孔の針 (autumn)
【現代語訳】祭壇に供えられた九孔の針に、冴えざえとした月光が差し込んでいる、いかにも七夕の夜らしい雅な情景であることよ。【鑑賞】乞巧奠の厳かで風雅な夜の気配を「月さす」というシンプルな描写で引き締めています。銀色に光る細い針と、空から降り注ぐ清らかな月光の照応が美しく、七夕の伝統と趣向を鮮やかに表現しています。
茱萸の嚢佩たるほどは寿や
季語: 茱萸の佩 (autumn)
【現代語訳】茱萸の袋を身につけている間は、まさに無病息災と延命長寿のめでたさそのものであることよ。 【鑑賞】茱萸嚢が持つ厄除け・不老長寿の霊力をストレートに寿いだ句です。其角らしい華やかさと古典を踏まえた祝意が込められており、節句の晴れやかな気分が鮮やかに伝わってきます。
牽牛を待つや今宵の天の川
季語: 牽牛 (autumn)
【現代語訳】織女が牽牛の訪れを今か今かと待ちわびている、今夜の美しい天の川であることよ。 【鑑賞】七夕の夜の天の川の雄大な美しさと、年に一度の逢瀬を待ち焦がれる織女の張り詰めた恋心を、簡潔かつ鮮やかに捉えています。
木の葉衣ぬふべき針や松の露
季語: 木の葉衣 (autumn)
【現代語訳】落ち葉をつなぎ合わせて木の葉衣を縫うための針だろうか、松葉の先にきらりと光る露は。 【鑑賞】松の葉を「針」、そこに宿る露を「針の穴を通る糸や露の輝き」に見立てた、其角らしい洒脱で知的な見立ての句です。落ち葉の降り敷く晩秋の風情に、仙境のような幻想的な美しさを重ねています。
九日や雨よりほかの酒の客
季語: 九日節供 (autumn)
【現代語訳】重陽の節句だというのに訪ねてくる人もなく、ただ静かに降る雨の音だけが私の酒の相手であることだ。【鑑賞】節句の祝い酒を一人静かに楽しむ侘びしさと風流を描いた一句です。「雨よりほかの」という擬人化ともとれる表現により、しとしとと降る秋雨の音を友として酒を酌み交わす其角らしい洒脱な孤独感が伝わってきます。
御霊の出や青簾かけならべ
季語: 御霊祭の御出 (autumn)
【現代語訳】御霊祭のお神輿のお出ましを迎えようと、家々には青々とした簾がずらりと掛け並べられている。 【鑑賞】神輿を迎える町衆の丁寧なしつらえと、整然と並んだ青簾の美しさを捉えています。京の町の端正な佇まいと祭の格式高い雰囲気が「青簾」の爽やかな色彩によって鮮やかに引き出されています。
御物を払ひ拭ふや雲井の秋の風
季語: 御物を払ひ拭ふ (autumn)
【現代語訳】宮中で宝物を払い清める儀式が行われており、その遥かな宮中にも澄み切った秋風が吹き抜けている。 【鑑賞】「雲井」は宮中・皇居を意味します。下界から遠く離れた格式高い宮中の儀式と、季節の訪れを告げる秋風の爽快さが調和した気品のある一句です。
笹売の声に夜明くる七夕かな
季語: 笹売 (autumn)
【現代語訳】「笹はいらんか」と呼び歩く笹売の声で、七夕の日の夜が明けてゆくことだよ。【鑑賞】七夕当日の早朝、静まり返った町に笹売の声が響き渡り、今日が待ちに待った七夕祭りだと気づかされる場面です。江戸の粋な風情と祭りの朝の心地よい高揚感が見事に表現されています。
赤ゑんば筑波に雲もなかりけり
季語: 秋卒 (autumn)
【現代語訳】赤とんぼが澄み渡る空を飛び交い、遠くに見える筑波山には一点の雲もないことだ。 【鑑賞】秋晴れの抜けるような大空と、遠景の筑波山の雄大さ、そして眼前に群れ飛ぶ小さな「赤ゑんば」の朱色の対比が見事な一句です。江戸の秋の澄明な空気感が爽やかに表現されています。
烏賊襖塩たるる夜の寒さ哉
季語: 烏賊襖 (autumn)
【現代語訳】烏賊襖から塩気がにじみ出て垂れるような、この海辺の夜の寒さであることよ。 【鑑賞】烏賊襖という珍しい夜着を通して、磯辺の寒夜の厳しさと荒涼とした情景を、其角らしい鋭敏で生々しい感覚で捉えた一句です。