1665年 - 1731年

各務支考

かがみしこう

作風・特徴

蕉風の理論化に最も熱心な実践的作風。体系的な俳諧観を持ち、理論と実作を両立させたが独自解釈の強さから批判も受けた。地方への普及力は群を抜いた。

生涯・略歴

江戸前・中期の俳人・俳論家。美濃国(現・岐阜県)生まれで、松尾芭蕉の十哲の一人。芭蕉に深く師事し、蕉風の理論化・普及に最も精力的に取り組んだ人物である。俳論書『俳諧十論』など多くの著作を著し、蕉風の美学を体系的に論じた。ただし独自の解釈が強すぎるとして批判を受けることもあった。美濃派の祖として地方俳諧の振興にも大きく貢献した。

代表句 (17件)

鶯の 調子かえたる あらしかな
苗代を 見て居る森の 烏かな
こな茶たて小路へ落す木の葉かな
季語: 粉茶立 (autumn)
【現代語訳】砂塵を舞い上げる風が吹き荒れ、狭い路地へと次々に木の葉を落としていくことよ。 【鑑賞】「粉茶立」の風が、路地のあちこちで木の葉をぐるぐると巻き上げながら落としていく様子を捉えています。視覚的な動きと、晩秋の寂寥感が「小路」という具体的な空間を通して見事に表現されています。
草泊り笠に落つるや萩の露
季語: 草泊 (autumn)
【現代語訳】草むらで夜を明かしていると、枕元に置いた編笠の上に萩の露がぽとりと落ちてきた。 【鑑賞】秋の風物詩である萩の花からこぼれ落ちる夜露の音や感触を捉え、野宿の静けさと繊細な情趣を美しく描き出した一句です。
豇豆引て背戸の畑の広さ哉
季語: 豇豆引く (autumn)
【現代語訳】ササゲをすっかり引き抜いて片付けると、屋敷の裏手にある畑がこんなにも広かったのかと驚かされることだ。 【鑑賞】今までササゲの蔓が生い茂って狭く見えていた裏畑が、収穫を終えたことで一気に開けた実感を詠んでいます。農作業を終えた清々しさと、同時に秋が深まり畑が寂しくなる風情が見事に表現されています。
有明のほのぼの白し蕎麦の花
季語: 有明 (autumn)
【現代語訳】明け方の空にうっすらと白く浮かぶ有明の月のもとで、一面に咲く蕎麦の花がほのぼのと白く見えている。【鑑賞】空に残る有明の月の淡い白さと、大地に広がる蕎麦の花の白さを重ね合わせた美しい句です。夜明け前の薄明かりの中で、光と花の色が溶け合うような幻想的で静謐な秋の情景を巧みに表現しています。
露を摺る稲葉の衣色深し
季語: 稲葉の衣 (autumn)
【現代語訳】朝露に摺り染められたかのように、稲の葉の衣は秋が深まるにつれて色を濃くしていることだ。\n【鑑賞】稲の葉を露で染められた衣に見立て、秋の深まりとともに増す緑から黄金色への色彩の深まりを繊細に捉えた一句です。芭蕉の高弟である支考らしい、雅びやかで軽妙な趣があります。
居待月更けて座敷の広さかな
季語: 居待月 (autumn)
【現代語訳】居待月を待つうちに夜も更けてしまい、明かりの落ちた座敷がいつも以上に広く感じられることだ。\n【鑑賞】室内で月を待つ人の空間感覚を切り取った句です。月の出が遅い居待月ならではの「夜更け」の感覚と、静まり返った座敷の余白が響き合い、晩秋に向かう侘びの情趣を漂わせています。
小田刈月ふもとの道も暮れにけり
季語: 小田刈月 (autumn)
【現代語訳】稲刈りの時期である九月の夕暮れ、山のふもとを通る道もすっかり日が暮れてしまったことだ。 【鑑賞】秋の日の入りは早く、山裾の田んぼ道が次第に闇に包まれていく様子をシンプルに詠み上げています。農作業の手を止めて家路につく人々の息遣いまで感じられるような静けさがあります。
落鯛の汁も塩気のあつさ哉
季語: 落鯛 (autumn)
【現代語訳】落鯛で作った潮汁は、塩気とうま味が濃厚で、熱く身に染み入るようだ。 【鑑賞】脂がしっかりとのった秋の落鯛の旨味を、汁ものの味わいを通して実感している句です。「塩気のあつさ」という表現に、秋深まる季節ならではの魚のコクと温もりが見事に表現されています。
女郎花衣にあまる匂ひかな
季語: 女郎花の衣 (autumn)
【現代語訳】女郎花の花は、身にまとう衣からあふれ出るほどの芳しい香りと気品を放っている。【鑑賞】女郎花が持つ華やかな美しさを着物の重ね色目や薫物(たきもの)の香りに見立て、秋の風情が身の回りに満ちていく優美さを称えた格調高い一句です。
死活杖祭鞍馬の杉の梢より
季語: 死活杖祭 (autumn)
【現代語訳】死活杖祭が行われる鞍馬山では、高くそびえ立つ杉の梢の向こうから神聖な気配が降り注いでくるようだ。 【鑑賞】鞍馬山の象徴である巨杉を見上げる視点を取り入れ、祭りの神聖さを空間の広がりとともに詠み込んでいます。幽玄な山岳信仰の空気が梢越しに感じられるスケールの大きな作品です。
渋糟に日影残りて秋暮れぬ
季語: 渋糟 (autumn)
【現代語訳】山積みの渋糟にわずかな夕日の光が残るなか、秋の日はあっけなく暮れていく。 【鑑賞】渋糟の赤黒い質感に落ちる最後の夕日と、急速に訪れる秋の夕暮れの寂しさを詠んでいます。「日影残りて」という一瞬の光の捉え方が、秋の終わりの深い余韻を演出しています。
新機に織り込む月や夜の秋
季語: 新機 (autumn)
【現代語訳】新しく織り始めた機織りの布に、まるで澄んだ月影まで織り込んでいくかのような、しみじみと涼しい初秋の夜である。\n【鑑賞】機を織る手元に差し込む美しい月の光を、布の文様の一部として織り込んでいるかのように捉えた幻想的で優美な句です。秋の夜の静けさと清らかさが際立っています。
障子洗ふて残る蠅の居所なし
季語: 残る蠅 (autumn)
【現代語訳】秋の準備として障子を外して洗ってしまったので、寒さを避けてとまっていた残る蠅は、居場所を失って途方に暮れている。【鑑賞】障子の張り替えという秋の生活のひとコマと、生き残った蠅の寄る辺なさをユーモラスかつ哀愁を込めて描いた一句です。
名吉とぶや汐引潟の秋の風
季語: 名吉 (autumn)
【現代語訳】潮が引き始めた干潟の海面で名吉が銀の腹を見せて跳ね、その上を涼やかな秋の風が吹き渡っていく。【鑑賞】潮の満ち引きと名吉の動き、そして肌をなでる秋風の感触が美しく調和しています。水辺の広がりと澄んだ秋の空気感が五感を通じて伝わってくる、芭蕉の高弟・支考らしい端正な景情一致の句です。
藤豆や花もみのりも古簾
季語: 藤豆 (autumn)
【現代語訳】使い古された簾のあたりに、藤豆の花も実も一緒に垂れ下がって風情を醸している。 【鑑賞】夏を越えて古びた簾と、そこに絡みついて花と実を同時に垂らす藤豆の取り合わせが絶妙です。長年暮らしてきた家の落ち着いた佇まいと、侘びた風情の中に宿る秋の深まりが巧みに表現されています。