1895年 - ?

後藤夜半

ごとうやはん

作風・特徴

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生涯・略歴

後藤 夜半(ごとう やはん、1895年(明治28年)1月30日 - 1976年(昭和51年)8月29日 )は、大阪府出身の俳人。本名は潤。高浜虚子に師事、「諷詠」を創刊、主宰。

代表句 (20件)

梶鞠のしづかに落つる梢かな
季語: 梶鞠 (autumn)
【現代語訳】蹴り上げられた梶鞠が、梢の間を静かに落ちてくることよ。【鑑賞】高く上がった鞠が重力に従ってゆっくりと下降する一瞬の軌跡を、見事に捉えています。「しづかに」という表現が、蹴鞠の持つ優雅さと、秋の静まり返った空気感を際立たせています。
竈山祭のひびきや雲のゆく
季語: 竈山祭 (autumn)
【現代語訳】竈山祭の太鼓や神楽の音が遠くから響いてくるなか、空を見上げれば秋の雲が静かに流れていく。 【鑑賞】地上の賑やかで厳かな「祭りの響き」と、天空をゆったりと流れる「雲」の静けさ。聴覚と視覚、動と静が見事に調和し、秋の広大な空間を感じさせる名作です。
木の実独楽まはし重ねて誰を待つ
季語: 木の実独楽 (autumn)
【現代語訳】木の実独楽をいくつも次々に回しては、誰が来るのを待っているのだろうか。【鑑賞】一つ一つの独楽が回っている時間は短いものです。それを絶やさないように次々と回し続ける様子から、待ち人の到着を今か今かと心待ちにしている、少し手持ち無沙汰で愛おしい時間が伝わってきます。
切子踊灯ともし頃をはじめとす
季語: 切子踊 (autumn)
【現代語訳】切子踊りは、夕暮れどきに灯籠へ火が灯される頃から始まるのである。 【鑑賞】踊りの始まりの瞬間を、静かに、そしてありのままに写生した一句です。「灯ともし頃」という言葉が、これから始まる幻想的な夜への静かな期待感と、夕暮れから夜へと移り変わる時間の美しさを表現しています。
白慈姑剥きこぼしたる水の中
季語: 白ぐわゐ (spring)
【現代語訳】剥きあげた白慈姑を、次々と水の中に落とし入れていく。水の中でそれらが白く静かに沈んでいる。 【鑑賞】剥いた先から水の中へ「こぼし(落とし)」ていく、弾むような調理のテンポと、水中に揺れる白慈姑の清らかな美しさが一瞬のカットのように切り取られています。春の水の冷たさと透明感が、白慈姑の白さをいっそう引き立てています。
明智風呂下りて涼しき松の風
季語: 明智風呂 (summer)
【現代語訳】明智風呂から上がって外へ出ると、松の枝を揺らす風がなんと涼しく心地よいことだろう。 【鑑賞】後藤夜半の句。蒸し風呂(明智風呂)の熱気の中に身を置いた後、外に出て感じる「松の風」の清涼感を素直に詠んでいます。熱気と涼風の対比とともに、古寺の清々しい境内の様子が伝わってきます。
菊がさねしてそれからの静心
季語: 菊襲 (autumn)
【現代語訳】 菊襲の着物を重ねて身にまとい(あるいは、菊を美しく飾り整え)、その準備がすべて整ったあとに、ふっと訪れた静かに落ち着いた心持ちのことよ。 【鑑賞】 華やかな「菊襲」の装いや飾り付けを終えた後の、深い静寂と心の充足感を詠んでいます。「それから」という時間の経過を示す言葉を使うことで、動から静へと心が移行していく様が、秋の落ち着いた空気感とともに見事に表現されています。
菊花展人の輪の中に賞の菊
季語: 菊花展 (autumn)
【現代語訳】菊花展の会場で、大勢の人が取り囲んでいる輪の中心には、見事な賞に輝いた菊が展示されている。 【鑑賞】「人の輪」を描写することによって、その中央にある受賞作の見事さを間接的かつ効果的に表現しています。大勢の観客が感嘆しながら見入っている会場の活気と熱気が素直に伝わる一句です。
菊吸虫指のさきなる小ささよ
季語: 菊吸虫 (autumn)
【現代語訳】ようやく捕まえた菊吸虫を指の先に乗せてみると、あまりにも小さくて驚いてしまうことよ。 【鑑賞】菊を枯らしてしまう恐ろしい害虫でありながら、指先で捉えたときのあまりの小ささや儚さに焦点を当て、一瞬の虚しさや静寂感を際立たせています。
菊師いま菊の中なる人なりき
季語: 菊師 (autumn)
【現代語訳】菊師は今、見事に咲き誇る菊の真っ只中に没頭し、まるで菊と一体になったかのようである。 【鑑賞】菊人形の制作や大菊の飾り付けに没頭する菊師の姿を描いています。丹精込めた菊の花々に囲まれ、一心不乱に働く姿に職人の美意識と情熱が感じられます。
菊枕ぬくもりやすき夜となりぬ
季語: 菊枕 (autumn)
【現代語訳】菊枕を使っていると、秋も深まって肌寒くなり、枕に体温が伝わって暖まりやすい夜になったことだ。【鑑賞】菊の花びらの乾いた感触と香りのなかで、秋の夜のしんとした冷気と体の温もりの対比を素直にとらえた句です。季節の移ろいを肌で感じ取る繊細な感覚が光ります。
芋茎祭神輿の屋根の赤きから
季語: 北野芋茎祭 (autumn)
【現代語訳】ずいき祭の神輿の屋根が、赤ずいきの鮮やかな赤色に染まっている。【鑑賞】赤ずいきで葺かれた特徴的な神輿の屋根に視点を絞ることで、ずいき祭ならではの色彩美と素朴な力強さを鮮明に描き出しています。
ずいき祭芋茎の匂ふ神輿かな
季語: 北野瑞饋祭 (autumn)
【現代語訳】瑞饋祭の神輿から、屋根や飾りに使われている芋茎(ずいき)のみずみずしく青く辛味のある独特の匂いが漂ってくることだ。 【鑑賞】野菜で作られた瑞饋神輿の存在感を、視覚だけでなく「匂い」という嗅覚を通して捉えた名句です。秋の収穫の生々しい命の恵みが感じられます。
菊花宴琴の音高く響きけり
季語: 菊花宴 (autumn)
【現代語訳】菊花の宴の席上で、奏でられる琴の音が秋晴れの空に清々しく高く響き渡っている。【鑑賞】澄み渡る秋の空気の中、凛とした琴の音が宴の場を包み込む様子が描かれており、菊花宴の格式高さと秋の澄明感が爽やかに響き合っています。
貴船神事水すさまじく夜に入りぬ
季語: 貴船神事 (autumn)
【現代語訳】貴船神事が執り行われるなか、川の水の勢いが凄まじく響き渡り、そのまま夜の闇へ入っていった。【鑑賞】貴船川の力強い水流の音と、神事の神聖かつ凄絶な雰囲気が、夜の深まりとともに際立っていく様子を力強く表現しています。
休暇果つ旅の汚れを洗ひつつ
季語: 休暇果つ (autumn)
【現代語訳】休暇が終わり、旅でついた衣服などの汚れを洗っていることだ。 【鑑賞】旅の片付けをしつつ、楽しかった時間の余韻に浸ると同時に、現実に戻る心の準備をしている様子が描かれています。手元を洗うという生活感のある描写が共感を呼びます。
草の実のこぼるる音のなかりけり
季語: 草の実 (autumn)
【現代語訳】熟した草の実が地面にこぼれ落ちたが、その音は全く聞こえない静けさであった。 【鑑賞】実がこぼれ落ちるかすかな動きを視覚で捉えつつ、「音がない」という聴覚的な静寂を際立たせています。秋の野の静けさと、ひっそりと命を巡らせる草木の営みが余情豊かに描かれています。
呉服祭絹の響のありぬべし
季語: 呉服祭 (autumn)
【現代語訳】呉服神社の秋祭りの賑わいの中には、どこか艶やかで清らかな絹擦れの音が響いているかのようだ。 【鑑賞】織物の祖神を祀る「呉服祭」の特質を、「絹の響」という聴覚的・触覚的なイメージで見事に捉えた名句です。目に見える神社の賑わいだけでなく、耳を澄ませば美しい絹布の擦れ合う衣擦れの音が風に乗って聞こえてくるような、優美で気品に満ちた情景を詠み上げています。
牛祭まだら神の手の白き
季語: 牛祭 (autumn)
【現代語訳】牛祭の主役である摩多羅神の、袖からのぞく手が白く浮かび上がって見える。 【鑑賞】異様な仮面をつけた摩多羅神の全身ではなく、「手の白さ」という一点にクローズアップした鋭い写生句です。夜の闇や松明の炎に照らされた手の白さが、妖しくも幻想的な美しさを醸し出しています。
狗尾草風をあつめてゐたりけり
季語: 犬子草 (autumn)
【現代語訳】犬子草が、まるで吹いてくる秋風を一身に集めているかのように揺れていることだ。【鑑賞】ただ風に揺れているだけでなく、毛先を細かく震わせながら風そのものを受け止め、集めているかのような愛らしい存在感を描いています。身近な植物の柔らかな質感と動きを捉えた、親しみやすい佳句です。
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