1661年 - 1738年

上島鬼貫

うえじまおにつら

作風・特徴

「誠の俳諧」を追求した飾らない真実の表現。技巧や機知に頼らず素直で力強い上方的句風が特徴。「東の芭蕉 西の鬼貫」と並び称された独自の境地を持つ。

生涯・略歴

江戸前・中期の俳人。摂津国(現・兵庫県伊丹市)生まれ。芭蕉とは独立した立場で「誠の俳諧」を追求し、飾らない真実の感情表現を重視した独自の境地を開いた。「人並に花見るならば難波かな」など素直で力強い句が多く、技巧や機知に頼らない誠実な俳風は高く評価されている。芭蕉と双璧をなす存在とも称され、上方俳諧の良心として後世に多大な影響を与えた。

代表句 (20件)

大旦 昔吹きにし 松の風
曙や 麦の葉末の 春の霜
鶯や 梅にとまるは 昔から
花散って 又しづかなり 園城寺
飛ぶ鮎の 底に雲ゆく 流れかな
涼風や 虚空に満ちて 松の声
行水の 捨てどころなし 虫の声
盗人の 塚もむさるる 夏の草
雁の使それとも見えず雲の端
季語: 雁の使 (autumn)
【現代語訳】はるばると便りを届けてくれるという雁の使いだが、遥か彼方の雲の端に消えてしまい、それとははっきり見極めることもできない。\n【鑑賞】秋の空を渡る雁の群れを見上げ、遠い地からの便りを運ぶ「雁の使」としての姿を追い求めますが、あまりに遠く、雲の彼方に消えていく寂しさを叙情的に詠んでいます。
雁の書や一文字崩す風のあり
季語: 雁の書 (autumn)
【現代語訳】空を行く雁の群れが描く一文字の書があるが、風が吹いてその列が乱れ、文字が崩れてしまったようだ。【鑑賞】美しく整って飛んでいた雁の列が、風に煽られて不規則に崩れる一瞬を「一文字が崩れる」と言い表した、視覚的で動きのある名句です。
来る雁のなみだや露の草の原
季語: 来る雁 (autumn)
【現代語訳】渡ってきたばかりの雁が落とした涙だろうか。草の原に降りているこの一面の露は。【鑑賞】露を、遥々渡ってきた雁の涙に見立てるという古典的な見立てを踏襲しつつ、秋の朝の美しさと哀愁を表現した風雅な一句です。
けふの月端居してみぬ居してみる
季語: 今日の月 (autumn)
【現代語訳】今夜の名月を、縁側に腰かけて見たり、部屋の中に座り直して見たりと、心ゆくまで楽しんでいる。 【鑑賞】名月を愛でる喜びから、じっとしていられずあちこち体勢を変えながら月を眺め続ける無邪気な情熱が微笑ましく描かれています。
さほ鹿の妻呼ぶ声のゆくへかな
季語: 小牡鹿 (autumn)
【現代語訳】牡鹿が妻を求めて切なく鳴くその声は、秋の山野のどこへ消えてゆくのだろうか。 【鑑賞】山あいに響き渡る牡鹿の求愛の声を捉え、その余韻がどこまでも遠くへ消えていく様子を詠んでいます。声の行方を追うことで、秋の空間の広がりと深い静寂、もの悲しさが際立ちます。
盃の底に光るや秋の月
季語: 盃の光 (autumn)
【現代語訳】傾けた盃の底に、秋の澄んだ月が小さな光となってきらりと輝いている。\n【鑑賞】飲み干しかけた盃の底に残る酒の雫に、一点の秋の月光が宿った瞬間を捉えた極めて繊細な句です。大空の月と手元の盃の底という極小の光の対比が、秋の静けさと透明感を際立たせています。
裂膾や手際見せたる小太刀筋
季語: 裂膾 (autumn)
【現代語訳】見事に仕上がった裂膾であることよ。まるで小太刀を見事に遣うかのような鮮やかな包丁捌きや手際が感じられる。 【鑑賞】魚を手早くさばき、美しく裂いて膾に仕立てた料理人の手際の良さを、武芸の小太刀筋に例えて称賛した軽妙洒脱な一句です。鬼貫らしい観察眼とユーモアが光ります。
猿酒の匂ひもすらん秋の風
季語: 猿酒 (autumn)
【現代語訳】吹き渡る秋の風のなかに、どこか遠くで醸されている猿酒の芳しい匂いまでも混じっているかのようだ。【鑑賞】秋風の心地よさと山の豊かな実りを嗅覚のイメージで捉えた一句。目には見えない伝説の酒の香りを風に感じるという、風流で軽やかな感性が光ります。
生魂の祭や涼し船の上
季語: 生国魂祭 (autumn)
【現代語訳】生国魂祭の日に船の上に乗っていると、川風が実に涼しく心地よい。【鑑賞】水都・大坂ならではの舟運や船渡御の情景を背景に、水辺から祭を眺める清々しさと初秋の涼感を素直に表した一句です。
馬の市人の心もうつり行く
季語: 馬の市 (autumn)
【現代語訳】馬の市で取引が進むにつれて、売り買いする人々の関心や気持ちも目まぐるしく移り変わっていく。 【鑑賞】品定めをする人々の駆け引きや、次々と買い手が決まっていく様子を鋭く観察した句です。馬の売買という世俗的な現場における人間の心理の動きを的確に捉えています。
荻の風吹けば夕日のうすくなる
季語: 荻の風 (autumn)
【現代語訳】荻の葉を鳴らして風が吹き抜けると、傾いていた夕日の光がしだいに薄れていく。【鑑賞】秋の風が吹くのと呼応するように、夕暮れの日差しが弱まり夜へと移り変わっていく刹那を捉えています。風の触感・聴覚と、夕日の視覚的な変化が一体となって、秋の深まりを直感的に伝えています。
荻の葉衣秋風たちて音すなり
季語: 荻の葉衣 (autumn)
【現代語訳】荻の葉衣に秋の風が吹き始めて、さやさやと衣擦れのような寂しい音がしている。 【鑑賞】風に揺れる荻の葉擦れの音を、衣が擦れ合う微かな音として聴き留め、秋の訪れと深まりを聴覚からしみじみと感じ取った一句です。