1741年 - 1789年

高井几董

たかいきとう

作風・特徴

師・蕪村の絵画的美意識を受け継ぎつつ清澄で洒脱な独自の句風を確立。知性と叙情が融合した雅趣ある作風が評価される。

生涯・略歴

江戸中期の俳人で、与謝蕪村の高弟。京都の商家に生まれ、若くして蕪村に師事し、その才能を高く評価された。蕪村没後は師の遺稿を整理・刊行するなど、蕪村の俳業の顕彰に大きな役割を果たした。句風は師の影響を受けつつも、清澄で洒脱な独自の味わいを持つ。撰集『井華集』などを編み、蕪村派の発展と継承に尽力した俳壇の重要な人物である。

代表句 (20件)

暮れんとす 春の狂や 雹ふる
畑をうつ 翁が頭巾 ゆがみけり
草臥れて 寝し間に春は 暮にけり
山寺や 縁の下なる 苔清水
数かいてまた火をかこむ山路かな
季語: 数搔く (autumn)
【現代語訳】葛湯などを何度もかき混ぜて作り終え、それをいただいた後、再び山道の宿の火を囲んで皆で暖まっていることだ。 【鑑賞】秋の山路を旅する途中の、温かい休息のひとときを描いています。温かいものを「数かいて」作り、それを分け合って飲んだ後、再び火を囲み直して旅の話に花を咲かせる人々の温もりと旅情が、心地よく伝わってきます。
一里来て又一里ゆく小町をどり
季語: 小町踊 (autumn)
【現代語訳】一里歩いてきたと思えば、また次の一里へと、小町踊の華やかな行列は元気に踊り歩いていく。【鑑賞】蕪村の高弟である几董による、踊り手の少女たちの躍動感に満ちた句です。「一里来て又一里ゆく」というリズミカルな繰り返しによって、少女たちの足取りの軽やかさと、どこまでも続いていく賑やかな行列の楽しげな様子が見事に表現されています。
検見立の供の馬よりこぼれ萩
季語: 毛見立 (autumn)
【現代語訳】検見の役人の供をつとめる馬たちが通り過ぎていく。その足元や体に触れて、道ばたの萩の花がはらはらとこぼれ落ちている。【鑑賞】物ものしい検見の行列という緊張感の中に、萩の花が美しく散りこぼれるという優美な秋の自然の一コマを対比させています。張り詰めた空気を和らげるような、几董らしい繊細な視点が生きた名句です。
梶の鞠雲にそむきて落ちにけり
季語: 梶の鞠 (autumn)
【現代語訳】高く蹴り上げられた梶の鞠が、秋の雲に背を向けるようにして、静かに落ちてきた。 【鑑賞】空高く舞い上がった鞠が、秋の雲を背景に一瞬静止し、重力に従って落ちていく様子を描いています。王朝絵巻の一コマのような、洗練された静動の対比が見事です。
高々に月や桂の花の散る
季語: 桂の花 (autumn)
【現代語訳】遥か高い夜空にぽっかりと浮かぶ月よ。あの高みから、今まさに桂の花がはらはらと散りこぼれているかのようだ。 【鑑賞】「高々に」という言葉が、秋の夜空の無限の奥行きと、天上の月に対する憧れを強調しています。地上からは届かない遥かなる月世界への空想が、静かに、そしてダイナミックに広がっていく名句です。
御器洗ふ水の行方や秋の風
季語: 御器洗祭 (autumn)
【現代語訳】神前の器を洗い清めた水が流れ去っていく先に、涼やかな秋の風が吹き抜けていく。【鑑賞】夜陰の川で行われる神事の清冽な情景を捉えた一句です。器を洗う水のせせらぎと、初秋の澄んだ夜風の肌触りが響き合い、儀式の静けさと秋の深まりを感じさせます。
裂膾や箸をやすめて雨をきく
季語: 裂膾 (autumn)
【現代語訳】裂膾をつまんでいたが、ふと箸を置き、しとしとと降る秋の雨の音に耳を傾けている。 【鑑賞】美味しい酒肴を味わう手を少し止めて、秋の雨音に心を澄ませる静寂なひとときを描いています。美味を堪能しつつも、秋の夜のしみじみとした風情に浸る豊かな時間が感じられます。
池の坊の木蓮立し夜寒哉
季語: 池の坊立花 (autumn)
【現代語訳】池坊の手によって木蓮が生けられている、その静かで凛とした夜の寒さであることよ。\n【鑑賞】格式高く生けられた立花の緊張感と、秋の夜の冷え込み(夜寒)が見事に響き合っています。静謐な室内の張り詰めた美しさが際立つ作品です。
夷則や雲のゆききの月のおも
季語: 夷則 (autumn)
【現代語訳】初秋の七月、空を行き交う雲の合間から、澄んだ月の姿が見え隠れしている。【鑑賞】「夷則」の持つ典雅な響きと、初秋の夜空の月景が見事に調和した一句です。雲の動きによって表情を変える月の清らかさが、秋の訪れの風情を際立たせています。
死杖祭笠きて過ぐる僧もあり
季語: 死杖祭 (autumn)
【現代語訳】死杖祭の供養が行われる寺のあたりを、深編笠をかぶった僧が静かに通り過ぎていく。【鑑賞】死杖を供養する人々の集まりと、そこに足を留めることなく通り過ぎていく孤独な旅僧の姿を対比させています。秋の日の静寂と無常観が、淡々とした情景描写によって際立っています。
小定考月まだ高きゆふべかな
季語: 小定考 (autumn)
【現代語訳】小定考の法要が始まる頃、まだ高い空に十三夜の月が白く輝いている夕暮れであるよ。 【鑑賞】日暮れ時の空に残る明るさと、澄んだ高空に浮かぶ月の対比が、秋の夕べの清冽な空気感を美しく描き出しています。
ねがら草暮るると見えて赤きかな
季語: ねがら草 (autumn)
【現代語訳】あたりが次第に暮れて暗くなってきたと思ったら、ねがら草の赤さだけが一層くっきりと浮かび上がっていることだ。\n【鑑賞】夕暮れの暗がりの中で、周囲が沈んでいくのに対し、ねがら草の花穂の赤色だけが際立って見えてくる視覚的な驚きを素直に捉えています。
高羽籠すこし動きて秋の暮
季語: 高羽籠 (autumn)
【現代語訳】薄暗くなった秋の夕暮れ、置かれた高羽籠がわずかにことりと動いた。【鑑賞】夕暮れの静寂の中、籠の中の鷹がわずかに身じろぎした一瞬を捉えています。直接鷹の姿を描かず、籠の微動だけで鷹の命の気配と秋の寂寥感を巧みに表現しています。
風の緒を月に引くや御燈籠
季語: 内裏御灯籠 (autumn)
【現代語訳】灯籠を支える綱が秋風に吹かれ、まるで月に向かって引かれているかのように美しく見えている。\n【鑑賞】御灯籠を吊るす紐(緒)と夜空の月とを巧みに結びつけた瀟洒な句です。澄んだ秋の月光と御灯籠の明かりが交錯し、静かで雅やかな夜の空気を醸し出しています。
旅夷宿かる門の明りかな
季語: 旅夷祭 (autumn)
【現代語訳】旅夷の祭りの夜、今宵の宿を借りようと立つ門口の、なんと心温まる灯火であろうか。 【鑑賞】冷え冷えとした晩秋の夕暮れ、旅の疲れを抱えて宿にたどり着いた時、門前に灯る旅夷の明かりが旅人を優しく迎えています。留守神を祀る夜の安らぎと、旅人のほっとした心持ちが見事に表現されています。
千代見草咲て幾日や九日過
季語: 千代見草 (autumn)
【現代語訳】千代見草が咲き始めてから何日経ったのだろうか。重陽の節句である九月九日もとうに過ぎてしまった。 【鑑賞】菊の節句である旧暦九月九日を過ぎてもなお咲き続ける菊を詠んだ句です。「幾日」「九日」と言葉のリズムを整えながら、節句の華やぎが過ぎ去ったあとの静かな晩秋の風情と、変わらず咲き誇る千代見草の凛とした佇まいを淡々と描き出しています。