1847年 - 1926年

内藤鳴雪

ないとうめいせつ

作風・特徴

叙情豊かで品格ある穏健な句風。正岡子規の革新に共鳴しつつも古典的格調を保ち、写生と叙情を自然に融合させた。

生涯・略歴

明治・大正期を代表する俳人。伊予松山藩士の家に生まれ、明治期に正岡子規と交流を深めて俳諧革新運動に参加した。子規の年長の友人として「子規派」の重鎮的存在であり、叙情豊かで品格ある句風で知られた。代表句集に『鳴雪俳句集』がある。老境においても旺盛な創作活動を続け、長寿を全うした。松山・東京を拠点に近現代俳句の発展を支えた。

代表句 (9件)

木曽川は 怒り木曽山は 笑ふなり
旅僧や 霞に消えて 鉦の声
雁渡し空一ぱいの夕焼かな
季語: 雁渡し (autumn)
【現代語訳】雁が渡ってくる頃に吹く冷たい秋風(雁渡し)が吹く中、見上げれば空一面が見事な夕焼けに染まっていることだ。\n【鑑賞】涼しげな秋風の冷たさと、空いっぱいに広がる夕焼けの温かみのある色彩の対比が非常に鮮やかで、雄大な秋の情景が目に浮かぶ名句です。
草の紅葉日に日にあかき小道かな
季語: 草の紅葉 (autumn)
【現代語訳】毎日通りかかるこの小道の草の紅葉が、日が経つにつれて一段と赤みを増していくことよ。\n【鑑賞】日常の何気ない散歩道における繊細な変化を素直に詠み上げた句です。「日に日にあかき」という平易な表現が、秋が刻一刻と深まり、冬へと向かっていく自然の確かな歩みを実感させ、読者の共感を誘います。
汽車道へ飛ぶ小鳥あり秋日和
季語: 秋日和 (autumn)
【現代語訳】どこまでも続く線路に向かって小鳥が一羽さっと飛んでいく、なんとも清々しい秋晴れの日である。\n【鑑賞】澄んだ秋空の下、まっすぐに伸びる汽車道と、そこを横切るように飛び去る小鳥の動態が鮮やかに切り取られています。のどかで広々とした秋の風景が目に浮かぶ一句です。
稲馬の去つて落日のあぜ路かな
季語: 稲馬 (autumn)
【現代語訳】稲を運ぶ馬が通り過ぎて行ったあと、細い畦道にはただ秋の夕日だけが静かに落ちていく。 【鑑賞】稲馬が去った後のふっと訪れる静けさと寂寥感を詠み上げています。夕暮れの畦道に残る余韻が、秋の日の暮れやすさと収穫の充足感を同時に伝えてくれます。
商秋の空の碧さよ筆洗ふ
季語: 商秋 (autumn)
【現代語訳】澄み切った秋の空はどこまでも碧く、その清々しい空気の中で筆を洗っている。 【鑑賞】吸い込まれそうな秋晴れの碧空と、筆を洗う水の手元の清潔感が鮮やかに対比されています。「商秋」という漢語の持つ端正で爽涼な響きが、心洗われるような秋の情景を一層引き立てている一句です。
簾はづして秋の日の入る障子かな
季語: 簾はづす (autumn)
【現代語訳】簾を取り外したところ、障子いっぱいに秋の穏やかな日差しが差し込んでいることよ。 【鑑賞】夏の日差しを遮っていた簾がなくなると、秋の柔らかく澄んだ光が障子に直接当たります。白く明るい障子の様子から、暮らしの中にある季節の移行と温かみが静かに伝わってくる名句です。
月の剣鞘に納まる気色なし
季語: 月の剣 (autumn)
【現代語訳】鋭い光を放つ三日月は、まるで抜身の刀のようで、鞘に納まる気配など少しもなく冷ややかに輝き続けている。 【鑑賞】秋の夜の張り詰めた空気と、決して鈍ることのない月の鋭利な光覚を「鞘に納まる気色なし」と豪快かつ引き締まった調子で詠み切っています。鳴雪らしい骨太な気迫と、秋の夜の冷徹さが響き合う一句です。