1738年 - 1791年

加舎白雄

かやしらお

作風・特徴

清澄で格調高い内省的・叙情的作風。機知よりも蕉風の「さび」を重んじ、余情と静謐を旨とした正統派の句境を確立した。

生涯・略歴

江戸中期の俳人で、蕉風復興運動の中心的担い手の一人。信濃国(現・長野県)生まれ。江戸に出て俳諧を学び、蕉風の精神を重んじた清澄で格調高い句風を確立した。門人は全国に及び「白雄派」を形成した。句集『春泥句集』などを残し、機知に富むよりも内省的・叙情的な作品を多く詠んだ。大島蓼太とともに中興期の江戸俳壇を代表する存在である。

代表句 (20件)

二股に なりて霞める 野川かな
かかしの衣貸すべき風の寒さかな
季語: 刈り田の衣 (autumn)
【現代語訳】なんと風が寒く身に染みる日だろうか。刈り田に立つあの案山子の着ている衣でさえ、私に貸してほしいと思うほどだ。 【鑑賞】晩秋の旅の途上、あまりの寒さに、刈り田に立つ案山子が着ているボロボロの衣さえも愛おしく、借りたくなるというユーモアに満ちた句です。厳しい寒さという現実を、刈り田の風景と対比させながら、滑稽味をもって暖かく表現しています。
梶の葉の衣や着せん天の川
季語: 梶の葉衣 (autumn)
【現代語訳】美しく輝く天の川のほとりで、織女にあの風雅な梶の葉の衣を着せてあげたいものだな。【鑑賞】江戸中期の俳人・白雄が七夕の夜に詠んだ、非常にロマンチックで優美な一句です。天の川の美しいきらめきと、伝説の織女がまとう空想の「梶の葉衣」が完璧に調和し、読者を一瞬にして幻想的な世界へ誘います。
貸衣や夜寒の肩の丸きより
季語: 貸小袖 (autumn)
【現代語訳】貸してもらった小袖を羽織ると、夜の寒さに身をすくめていた私の丸くなった肩に、しっくりと馴染んで温かさがじんわりと伝わってくる。 【鑑賞】寒さに耐えて丸くなった「肩」という極めて具体的な身体的特徴に焦点を当てた、写実的で繊細な句です。借りた小袖が自分の体型に合っていく過程を描くことで、そこにある人間的な温もりと、どこか物悲しい秋の夜の寂しさを際立たせています。
蜉蝣のいづこに死ぬる夕日かな
季語: 蜉蝣 (autumn)
【現代語訳】美しく照り映える夕日の中で舞う蜉蝣は、一体どこへ行って命を終えるのだろうか。\n【鑑賞】美しくも寂しい秋の夕暮れの中で、蜉蝣の極めて短い命に思いを馳せています。圧倒的な夕日の光と、極小の儚い命の対比が鮮やかで、深い余韻を残す名句です。
梶葉売る声や夜に入つてなほ哀れ
季語: 梶葉売 (autumn)
【現代語訳】七夕の梶の葉を売る声が、夜になっても聞こえてきて、ますます哀愁を帯びて感じられることだ。【鑑賞】江戸時代の夜の闇に響く「梶葉売」の声は、七夕前夜の静けさと相まって、人々の心にしみじみとした情緒を呼び起こします。時間の経過とともに深まる哀愁を「夜に入りてなお哀れ」と美しく表現しています。
こぼれ去る芽子に月夜のいそがしさ
季語: 芽子花 (autumn)
【現代語訳】月光が明るく照らす夜、風に吹かれて次々と散りこぼれていく萩の花。その散りゆく姿を照らし出す月夜は、まるで忙しく立ち働いているかのようで見飽きることがない。【鑑賞】静かな月夜でありながら、ひらひらと散り続ける萩の花と、それを美しく浮かび上がらせる月光の対比。自然のうつろいゆく瞬間を「いそがしさ」と表現したユーモアと風流が光ります。
梶の葉に書く夜の風の涼しさよ
季語: 梶葉の歌 (autumn)
【現代語訳】七夕の夜、梶の葉に墨で歌を書いていると、そよそよと吹き抜ける夜風がなんと涼しく心地よいことだろう。【鑑賞】梶の葉を七夕の短冊に見立てて歌を書くという、古風で雅な風習を詠んだ一句です。静かに墨をすり、葉に向き合う瞬間に、ふと肌を撫でる秋の初めの夜風の涼しさが、静寂の中に際立っています。
くつわ虫月夜をのぼる柳かな
季語: 轡虫 (autumn)
【現代語訳】月光が美しく照らし出す夜、クツワムシが柳の木を上へ上へと登っていくことよ。\n【鑑賞】江戸中期の俳人、加舎白雄の句です。通常は騒がしい鳴き声に注目されがちなクツワムシですが、この句では月夜の柳という優美な視覚的風景の中に配されています。光と影、そして静かな動きの調和が美しい絵画的な一瞬です。
搗栗や日に日に高き山おろし
季語: 搗栗つくる (autumn)
【現代語訳】搗栗を作る季節がやってきたが、山から吹き下ろしてくる冷たい風は、日に日に勢いを増しているようだ。【鑑賞】乾燥を促す山おろしの冷たい風を、作業の背景として描いています。日に日に秋が深まり、冬がすぐそこまで来ていることを風の冷たさと強さから実感している、生命力あふれる句です。
露けさは誰が情ぞや刈生の薄
季語: 刈生の薄 (autumn)
【現代語訳】このしっとりと降りた露の冷たさは、一体誰の情けによるものなのだろうか。刈り跡にぽつんと残されたススキが、いかにも寂しげに濡れている。【鑑賞】「露けさ」という晩秋の湿り気と冷たさを、刈生の薄に重ね合わせて情緒的に表現しています。自然がもたらす寂寞の美を、優しい眼差しで捉えた名句です。
蚊帳しまふて風ばかりなる夜中かな
季語: 㡡仕舞ふ (autumn)
【現代語訳】蚊帳を片付けて寝床に入ると、夜中にはただ秋の風だけが吹き抜けていく、広々とした部屋であることよ。 【鑑賞】江戸中期の俳人、加舎白雄の代表的な句です。夏の結界であった蚊帳が取り払われた夜、部屋の中に満ちているのはただ「秋の風」だけ。何もない部屋の広がりと、遮るもののない風の音に、夜中の寂寞感と秋の訪れを深くしみじみと感じさせる名句です。
片鶉声ばかりにて暮れにけり
季語: 片鶉 (autumn)
【現代語訳】姿は見えず、ただ一羽で鳴く鶉の寂しげな声だけが聞こえるうちに、あたりはすっかり暮れてしまった。【鑑賞】夕暮れの光が消えゆく自然の移り変わりと、声だけが響く静寂を捉えています。目に見えない「片鶉」の存在が、読者の想像力を刺激し、より一層の哀愁を誘います。
開帳や堂のうしろの杉の月
季語: 開帳 (spring)
【現代語訳】御開帳が行われている賑やかなお堂の、そのすぐ背後には、高くそびえる杉の木々の間に美しい月が静かに昇っている。 【鑑賞】開帳の行事が行われているお堂の喧騒や華やかさと、お堂の後ろに広がる静寂な自然(杉と月)とのコントラストが実に見事です。俗なる賑わいと聖なる静けさが調和し、奥深い余韻を残します。
風聞草風の行方をきく如し
季語: 風聞草 (autumn)
【現代語訳】風聞草(ススキ)が、まるであちこちへ吹き去る風の行方を聞き取ろうとしているかのように、風に吹かれて揺れていることだ。【鑑賞】白雄によるこの句は、「風聞草」という季語の持つ「風を聴く」という文字通りの意味を素直に、かつ情緒的に捉えた名句です。風の動きに敏感に反応するススキの葉先の揺れを、風の居場所や行方を探っているかのように表現しており、秋の静けさと繊細な自然の息吹が伝わってきます。
五月雲千々にちぎれて日はおつる
季語: 五月雲 (summer)
【現代語訳】梅雨時期の五月雲がちぎれちぎれになって流れ、その千切れた雲の合間から夕日が落ちていく。【鑑賞】「千々にちぎれて」という動的な描写が、不安定な梅雨時の空模様を鮮やかに描き出しています。雲の切れ間から一瞬だけ覗く夕日の強い光と、去りゆく一日の寂寥感が、見事なコントラストとなって読者の心に迫ります。
若葉雨ふるやいつしか夜の明くる
季語: 若葉雨 (summer)
【現代語訳】若葉を濡らす雨がしとしとと降り続いているうちに、いつの間にか夜が明けて朝になっていたことよ。【鑑賞】夜通し降り続く若葉雨の静けさと、夜明けの光が若葉の緑を少しずつ浮かび上がらせていく様子を美しく描いた句です。雨の音に耳を傾けているうちに、自然の明暗が移り変わる静寂の時間を捉えています。
勝海螺の動くともなき干潟かな
季語: 勝海螺 (autumn)
【現代語訳】潮の引いた干潟がどこまでも広がっているが、そこに点在する勝海螺は一向に動く気配もない。\n【鑑賞】干潟の広大さと静けさを、勝海螺の「動かない」という静止した描写によって見事に表現しています。一見、死んでいるのか生きているのかわからない貝ですが、じっと次の潮が満ちるのを待っている密かな生命力を内包しており、秋の物寂しい空気感と見事に調和しています。
桔梗の衣をかろみ秋の風
季語: 桔梗の衣 (autumn)
【現代語訳】桔梗色に美しく染められた衣は軽やかで、吹き抜けていく秋の風がしみじみと涼しく心地よく感じられる。【鑑賞】「桔梗の衣」という雅な色彩と、初秋の風の軽快な手触りを調和させ、視覚と触覚の双方から秋の訪れの爽やかさを伝えています。
義秀忌月も昔の光かな
季語: 義秀忌 (autumn)
【現代語訳】義秀忌の今宵の月も、義秀が生きていた昔と変わらぬ澄んだ光を放っていることだ。 【鑑賞】中世の連歌師に思いを馳せ、悠久の時を超えて照らし続ける秋の月光に寂寥感と敬意を込めた江戸時代の秀句です。